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【作家歴】、平成大家族、ハブテトルハブテトラン、エ/ン/ジ/ン、女中譚、小さいおうち、エルニーニョ、花桃実桃、東京観光、眺望絶佳、のろのろ歩け |
かたづの!、長いお別れ、彼女に関する十二章、ゴースト、樽とタタン、夢見る帝国図書館、キッドの運命、ムーンライト・イン、やさしい猫、オリーブの実るころ |
「うらはぐさ風土記」 ★★ | |
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主人公は田ノ岡沙希、52歳。 滞米生活30年、カリフォルニアの私立大学で日本語の教員をしていたもののその学科が廃止となり、離婚もしたことから、日本に帰国。 運よく母校の大学で講師の口を得て、伯父が老人ホームに入居して空き家となっていたその家を借りて一人暮らしをすることになります。大学にも近いとあって都合もいい。 武蔵野にある、その地区の古い名前が“うらはぐさ”。 ※うらはぐさとは、イネ科の植物で「風知草」と言い、花言葉は<未来>。 伯父の家に住む始めた沙希は、思わぬ人たちと知り合いになり、親交を深めていきます。 伯父の家の庭を好きで世話していたという秋葉原さん、沙希が「刺し子姫」という仇名をつけたその妻の真弓さん。 また、ヘンな敬語を使う女子大生のマーシーこと亀田マサミ。 (この敬語がヘン過ぎて、結構面白いです) そして、子どもの頃に親しんだ<あけび野商店街>に、沙希は今も親しみを感じます。 しかし、時代は変化しており、あけび野商店街も昔のままではいられないことが、沙希にも分かってきます。 なんと言ったら良いのでしょう。 古くても居心地がいい、人と人との付き合いにも、肩肘を張る必要のない温かさが感じられます。 時が進めば何かが変わっていくことも避けられない、でも残すべきものを残すことはできるのではないか、そんな前向きなメッセージを受け取ったように思います。 1.しのびよる胡瓜/2.山椒の赤い実/3.柿とビタミンC/4.スティルトンとメノポーズ/5.狼男と冬の庭/6.梅はやたらと長く咲く/7.エナガの巣/8.キョルギとチルギとテンバガー/9.うらはぐさの花言葉は |
「坂の中のまち」 ★★ | |
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富山県から東京の女子大に進学した坂中真智(題名そっくり)が主人公。 下宿先は、文京区小日向にある、久世志桜里という老女が営む下宿屋。 母親の珠緒曰く、志桜里は亡くなった祖母=澄江の親友なのだという。おまけにその下宿からは大学まで徒歩15分という好立地、下宿しないわけにはいかない、と。 いざその小日向に住まうようになると真智、いろいろ不思議な事象に出会います。思えば小日向周辺は、多くの文豪たちと関りのある場所。 志桜里さん曰く、また幽霊に出会っちゃったの?と。 横光利一を自分の先生のごとく語る奇妙なM大生=エイフクと出会うかと思えば、切支丹屋敷跡から発掘された人骨と因縁があるのか知人のイタリア人男性が不思議な夢を見てしまう。 志桜里さん曰く、その夢に登場するのは遠藤周作「沈黙」に描かれた女性だと。 また、エイフクは乱歩「D坂の殺人事件」の真相を滔々の真智に説いて語るかと思えば、真智はいつの間にか夏目漱石「こころ」の三角関係のような状況に巻き込まれていることに気づく、といった具合。 まさに幾人もの文豪と関わる日常が描かれます。 一方、母親の珠緒に関わる“大久保病院事件”には、真智ならずとも流石に仰天させられます。 過去と現在がちょっと入り組んだようなストーリー展開が、本好きにとっては楽しき哉。 ※なお、本作で語られる<坂>は数々ありますが、小日向周辺に留まります。そこは、東京にあるあちこちの坂をモチーフにしたほしおさなえ「東京のぼる坂くだる坂」とは、ちょっと違うところ。 フェノロサの妻/隣に座るという運命について/月下氷人/切支丹屋敷から出た骨/シスターフッドと鼠坂/坂の中の町/エピローグ |
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