長野まゆみ
作品のページ No.2



11.フランダースの帽子

12.銀河の通信所

13.さくら、うるわし
−左近の桜−(文庫改題:さくら、うるわし 左近の桜)

14.カムパネルラ版 銀河鉄道の夜

【作家歴】、テレヴィジョン・シティ、改造版少年アリス、野川、デカルコマニア、チマチマ記、45°、ささみみささめ、団地で暮らそう!、兄と弟あるいは書物と燃える石、冥途あり

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11.
「フランダースの帽子 ★☆


フランダースの帽子

2016年02月
文芸春秋刊

(1400円+税)

2019年02月
文春文庫化



2016/03/05



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出版社の紹介文によると、「たくらみに満ちた短編集」6篇とのこと。
一体どんな意味かとよく判らないまま読み始めた本書ですが、読んでみてその紹介文の意味が判りました。
確かに“たくらみに満ちた”としか言いようのない短編集なのです、これは。

「ポンペイのとなり」は、亡くなった弟宛てに、弟がかつて親しかった友人の娘という女性からの手紙が届きます。
「フランダースの帽子」は、学校時代に一緒だった、双子のようによく似たミナとカナの姉妹にまつわる話。
「シャンゼリゼで」は、自分の母々子という名前の由来を語り出した女性に潜む謎。
「カイロ待ち」は、主人公夫婦が買って引っ越した棟続きの中古住宅における、隣人との奇妙な確執。
「ノヴァスコシアの雲」は、老婆が多く集まる“雲の事務所”を訪れた主人公が出会うことになった謎。
「伊皿子と犬とパンと種」は、海の事故で記憶障害になった遠田浩紀という30歳の男性にまつわる奇妙な謎。

どの篇も最後にあっと言わされますが、その引っ掛けは各篇の主人公に対するというより、むしろ読者に対して行われているように思います。
謎とは思えないところに謎があり、主人公にとってだけの謎であったり、当該人物の行動自体が謎であったり、します。
本書の面白さはストーリィにあるのではありません。
作者の長野さんがどんな企みを読者に対して仕掛けてくるのか、そんな趣向の妙を楽しむ短編集、と言うべきでしょう。


ポンペイのとなり/フランダースの帽子/シャンゼリゼで/カイロ待ち/ノヴァスコシアの雲/伊皿子の犬とパンと種

          

12.

「銀河の通信所 ★☆


銀河の通信所

2017年08月
河出書房新社

(1400円+税)



2017/08/30



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故人の意識をとらえる通信システムが繋がり、宮沢賢治本人へのインタビュー、賢治ゆかりの人々への取材が可能になった、という設定です。

幾人もの賢治を知る人々の目を通して、同時代に生きた偉人を引き合いに出しながら、宮沢賢治という人の本質を語った作品、という印象です。
こうして読むと、宮沢賢治という人は常に未来を、夢を追い求めていた人ではないか、という思いを強くします。
本作の“銀河の通信”という設定が、如何にも宮沢賢治に相応しい。当然のごとく「銀河鉄道の夜」を連想させますから。そしてそこには、儚さ、寂しさも感じさせられます。

賢治の小説・童話以外に、宮沢賢治について語った本を読むのは
井上ひさしの評伝劇イーハトーボの劇列車以来。
本書で描かれる賢治像は、「劇列車」で描かれた賢治の一部分かなと感じます。

※「取材後記」の執筆者(児手川清治)は、賢治の3歳年上で、賢治も関わりがあっただろう当時農業関係の書物を多く出版していた<成美堂出版東京支店>の社員という設定です。その成美堂出版東京支店が1933年に社名変更して河出書房になったのだそうです。

銀河通信特別インタビュー「宮沢賢治氏−上のそらでなしに、生きて行きませう」/1.元岩根橋発電所技師−ガルバノスキー氏/2.元イーハトーヴ博物局技官−レオーノ・キュースト氏/3.革トランクの斎藤平太さん/4.保線工夫−メゴーグスカ氏/5.イーハトーヴの郷土史研究家−キャッツホヰスカー氏/6.蝶屋のコバ先生/7.特別寄稿*小説家の稲垣ATUROH氏/8.文学者の北原百秋氏/9.小説家の内田白闔=^天上技師−Nature氏/取材後記−児手川清治

            

13.

「さくら、うるわし−左近の桜− ★☆
 (文庫改題:さくら、うるわし 左近の桜)


さくら、うるわし

2017年11月
角川書店

(1400円+税)

2021年01月
角川文庫



2017/11/25



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ふと手に取ったという経緯だったのでまるで知らなかったのですが、"左近の桜"というシリーズものの第3弾。

出版社紹介文によると
「甘美で幻想的な異界への誘い−匂いたつかぐわしさにほろ酔う連作奇譚集」とのこと。
主人公は、男同士が忍び逢う宿屋<左近>の長男である、
左近桜蔵(さくら)
その桜蔵、高校を卒業し大学に進学するのを機に、母と弟の3人で暮らしていた実家を離れ、父親である
柾(まさき)とその正妻の遠子と同居することになりますが、何かの厄介なものを拾い、妖しげな面倒事に引きずり込まれる体質はそれまでと些かも変わらず、という設定。

その厄介事に引きずり込まれるパターンがいつも突然、そしてどういう異界か相手がどんな代物か、中々判らずというのが読み手にとっても読んでいて厄介なところ。
誤って三途の川にまで送り込まれてしまう等々、どんな異界か、相手はどんな連中かというのを把握するまでが楽しみという向きもあろうかと思いますが、如何せん妖艶にして耽美とはいえ、私としては苦手でした。
旅行中に読むのではなく、また全然別のシチュエーションで読んだのならまた違った感想があったかもしれませんが。

なお、桜蔵、実は柾の実子でもないというだけで、その出征の謎は本巻でも秘められたまま。それが明かされるまで、本シリーズは続くのでしょう。


1.その犬に耳はあるか/2.この川、渡るべからず/3.ありえないことについての、たとえ/4.その犬の飼い主に告ぐ

                    

14.
カムパネルラ版 銀河鉄道の夜 ★☆


銀河鉄道の夜 カムパネルラ版

2018年12月
河出書房新社

(1500円+税)



2019/01/17



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ジョバンニが主人公の宮沢賢治「銀河鉄道の夜」に対して、カムパネルラを主人公として描かれた新たなファンタジーかと思っていたのですが、本作はさに非ず。

冒頭、
「銀河通信」社の速記取材班に属する松本ちかが、銀河通信システムを利用して何とカムパネルラにインタビュー。
カムパネルラの口から、「銀河鉄道の夜」の背景、同作に篭められた宮沢賢治の想いが語られる、という内容です。

そしてもうひとつの篇
「カムパネルラの恋」は、「銀河通信」社をいきなり訪ねて来た中原宙也(中也のことでしょう)が、宮沢賢治の恋について語る、という内容。

ジョバンニこそ賢治の分身とみられてきたようですが、カムパネルラもまた賢治の分身に他ならない、だからこそそのカムパネルラによって賢治の心を語ってもらう、ということだと思います。
銀河の通信所と較べて、より賢治の内面に踏み込もうとした作品と感じます。

最後に宮沢賢治作品、そして「銀河鉄道の夜」を読んでからもうずいぶんと経ちますが、本書を読んでいると改めて、宮沢賢治という人物、その作品に対する愛おしさがこみ上げてくる想いがします。


カムパネルラ版 銀河鉄道の夜
プロローグ/1.午后の授業/2.活版所/3.家/4.ケンタウル祭の夜/5.天気輪の柱/6.銀河ステーション/7.北十字とプリオシン海岸/8.鳥を捕る人/9.ジョバンニの切符
カムパネルラの恋

  

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