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「まいまいつぶろ」 ★★☆ 日本歴史時代作家協会賞作品賞他 | |
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第9代将軍であった徳川家重が障害のため言語不明瞭であり、側近くに仕えた大岡忠光ただ一人がその言葉を聞き分けることができたという史実は、以前から私も知っていたこと。 その史実を知っていたことがかえって、本書刊行時に手を伸ばすのを妨げてしまったのではないか、という思いがあります。 いずれにせよ、また遅くなったにせよ、本作を読めて良かったなと思います。 本作に描かれる長福丸(後の家重)は、身体および言語に障害があるものの聡明な人物として描かれます。 しかし、自ら発する言葉を誰も理解せぬところから相手に伝わらず、また周囲の蔑視を感じとれるからこそ、苛立ちを抑えきれずにおり、また粗相から嘲りも受けている、という出だし。 そこに登場したのが、旗本の子でお目見えに参列した、まだ少年の大岡兵庫(のち忠光)。 何と、長福丸自身も老中たちも驚いたことに、ただ一人長福丸の発する言葉を理解したのです。 そこから始まる、家重と忠光の長きにわたる主従関係を描いたストーリィ。 吉宗〜家治の間にいた第9代将軍=家重を描く時代小説であるのは勿論のことですが、時代小説を超えて、お互いに強く深く信頼し合った主従関係を描いた物語、と捉える方が相応しいと思います。 それにしても、ついに道を誤ることのなかった大岡忠光という人物、その生き方の何と見事であったことか。 そしてまた、忠光に道を誤らせることのなかった家重の、さらにはお互いに深く理解し合い、強く信頼し合い、お互いを大切にしあったこの主従の何と見事であったことか。 忠光が誤ることのなかった道とは、どんなものだったのか、ですって? それこそが、まさに本作品の読み処です。 是非、本作を読んでその感動を味わってみてください。 1.登城/2.西之丸/3.隅田川/4.大奥/5.本丸/6.美濃/7.大手橋/8.岩槻 |