森村誠一作品のページ


1933年埼玉県生、青山学院大学文学部英米文学科卒。10年間のホテル勤務を経て作家。「高層の死角」にて江戸川乱歩賞、「腐蝕の構造」にて第26回日本推理作家協会賞を受賞。 


1.
刺客請負人

2.死神の町

3.闇の処刑人

      


   

1.

●「刺客請負人」●  ★★

  

  
1997年11月
新潮社刊

2006年3月
中公文庫化

 

1997/12/17

許婚を藩主に奪われ、さらに藩の手に追われ、母を背負って江戸に出てきたものの、その母も半年余りで病死。天涯孤独となり、生活の糧を稼ぐ為に刺客請負人となった松葉刑部、人呼んで病葉(わくらば)刑部が、本書の主人公。
充分面白かったです。藤沢周平「用心棒日月抄池波正太郎「仕掛人藤枝梅安」をミックスし、さらにハードボイルドの薬味を加えた作品、と言って良いでしょう。
でも、どこか抜けたような、お人好しの部分が残る、そこがこの主人公の魅力です。
時代設定は、5代将軍綱吉の頃。その為、赤穂浪士との関わりが度々生じるのは、「用心棒日月抄」と共通しています。
刺客稼業の辺りは、「仕掛人梅安」と似ていますが、話を持ち込んでくる徳松という男の調査が結構いい加減。実際に刑部がことに当たると、聞いている話と逆の事が多く、相手の用心棒を逆に引受けてしまう、ということが多くあります。この辺りも「日月抄」に似ていて、刑部の人の良さが現れるところです。
しかし、刑部には、青江又八郎のような楽天的な明るさはなく、常に追い詰められたような雰囲気があります。武士を捨てて刺客請負業に成り果てたというものの、根底において武士を捨て切れていない、という人物設定の故でしょう。

○「用心棒日月抄」との共通点
1.連作短編 
2.主人公が脱藩者 
3.剣で生計を立てざるを得なくなった主人公であること
4.赤穂浪士との関わり合いがあること(でもチョット違います)
○「用心棒日月抄」と異なる点
1.
用心棒を請け負うのと、刺客を請け負うとの違い 
2.市井中心のストーリィと、やはり武家中心のストーリィの違い
3.据膳にあまり手をださない ^^; 

孤臣/刺客請負人/柳の下の野望/神奴/源氏斬り/付け人の死所/武士と人間の間/犬難

 

2.

●「死神の町−刺客請負人−」●  ★

 

 
2001年12月
新潮社刊
(1400円+税)

  

2001/12/04

浪人・松葉刑部を主人公とした刺客請負人シリーズの第2弾。
前作でも書いたことですが、本書は、藤沢周平「用心棒日月抄に似て非なる連作短篇集です。
請負仕事が、剣を奮っての闘い=即ち殺し合いですから、索漠とした印象があるのは仕方ないこと。許婚を藩主に横取りされたという過去が、前作では同情となって刑部への印象を和らげていましたが、第2作ともなるとそれはもう通じません。その代わり、刺客といってもそれなりの正義感あり、という心境が、主人公の刑部に強まっているようです。そのことが、索漠とした刺客稼業の雰囲気を、興あるものに変えています。
また、市井に住みながら、あくまで武士として生きることの是非が、刑部の目を通して語られます。

本シリーズのもうひとつの特徴は、相変わらず赤穂浪士事件が後を引いていて、吉良の残党、赤穂浪士の生き残り達が度々顔を出し、刑部の周辺に敵方あるいは味方として登場すること。(元赤穂藩士としては、高田郡兵衛、毛利小兵太らが登場)
江戸の町にて、剣で生活の糧を購わざるを得ない孤独な浪人を主人公としたハードボイルド、その割にあっさりとした印象のストーリィ、という連作時代小説です。

野良犬の道理/死神の町/親馬鹿の仇討ち/落札した駆け落ち/妻の武士道/闇の根/妻の鬼道

  

3.

●「闇の処刑人」  ★☆

 

  
2002年10月
新潮社刊
(1500円+税)

2006年7月
中公文庫化

  
2002/11/10

ハードボイルド時代小説“刺客請負人”シリーズの完結巻。
殺人請負。そんな商売ですから、怨恨、欲望と、不条理な部分からストーリィが端を発するのは、止む得ないところ。
そんな世過ぎながら、筋道を通す部分を捨てきれず、その事件に必要以上に身を突っ込んでしまうところに、主人公・松葉(病葉)刑部の魅力があります。3巻目ともなれば、刑部および仲介人の徳松に対する愛着も、もはや捨て難い。
本書の魅力は、ハードボイルド部分だけでなく、各篇の冒頭に語られる、四季折々の江戸の風情にもあります。
季節の先取りにこだわり、四季の行事・祭りを楽しむ江戸庶民の生活ぶり。そんな江戸の生活描写は、なかなかの味わいで、時代小説の楽しみを再発見したような気がします。

本書6篇のうち出色なのは、妖怪のような牙猫と刑部の凄絶な対決を描く「妖猫譜」
また、権謀術策比べのような「看板守り人」、将軍家宣の世継争いに赤穂浪士と吉良残党の闘いがからむ「外道の債務」に、読み応えがあります。

闇の意地/無念腹異聞/妖猫譜/未熟な葬列/看板守り人/外道の債務

   


 

to Top Page     to 国内作家 Index