湊かなえ作品のページ No.2



11.高校入試

12.絶唱

13.未来

【作家歴】、告白、少女、贖罪、Nのために、夜行観覧車、往復書簡、花の鎖、境遇、サファイア、白ゆき姫殺人事件

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11.

「高校入試 シナリオ  ★☆


高校入試画像

2013年01月
角川書店刊

(1500円+税)

2016年03月
角川文庫化



2013/02/11



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2012年10〜12月、フジテレビで10回に亘り放映された連続TVドラマ(主演:長澤まさみ)のオリジナルシナリオ。
ドラマ自体は観ていなかったので、本ストーリィ、私としては本書が初めてです。

名門県立高校の入試当日、「入試をぶっつぶす!」という何者かによる貼り紙、そして試験終了後に答案用紙が1枚不足、その一方で白紙の答案用紙が発見されるという事態が発生。
さらに、不測の事態に混乱する教師たちを嘲笑うかのように、ネット掲示板への生々しい書き込みが続けられます。
誰が、何の為に、何を仕掛けたのか、という学園ミステリ。

芝居の台本なら読みなれていますが、TVドラマのシナリオというとそうあるものではありません。
それもあってか、まず読みにくかったというのが第一印象。
ひとつには登場人物が一気に登場すること、度々登場人物各々の回想場面があり輻輳すること、次々と入れ替わる登場人物の動きについていくのに苦労したこと。
しかしそれは、小説のように読もうとしたからであって、TVドラマとして観たのなら多分、次々と不測の事態が明らかになる興奮、深まるばかりの混乱と謎という具合で、さぞ見応えある連続ドラマになっていたのではないかと思います。

最後は思いもかけない展開となりますが、こうした仕掛けを私自身が余り好きではないこともあって、スッキリしないところが残ります。
とはいえ、教師側が思う以上に受験生側にとっては一生を左右する大事であって、規律を守るだけで受験生たちを納得させられる訳ではないという指摘は、傾聴に値するように思います。
その一方、結局はステップであり、ゴールではなくひとつのスタートに過ぎないということを、受験生もその親の側も見失って欲しくないと思うばかりです。

物語の果てしなさ(湊かなえ)/人物相関図/第1話〜第10話/スペシャル対談(湊かなえx長澤まさみ)/インタビュー(出演者10名)/他

   

12.

「絶 唱 ★★


絶唱画像

2015年01月
新潮社刊

(1400円+税)



2015/02/23



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南太平洋の国トンガ、その首都があるトンガタプ島へ様々な思いを抱えてやってきた女性たちが、この地で再生に向けて踏み出す姿を描いた連作短篇集。

「楽園」の主人公は大学生の雪絵。20歳を目の前にして自分の心を取り戻そうと、この島にやってきます。
「約束」の主人公は、国際ボランティア活動でこの島に滞在し、教師を務めている理恵子。ある決意をもって婚約者である柏木が島にやってくるのを待ち受けています。
「太陽」は、5歳の娘を連れてこの島に逃げ出してきた若いシングルマザーの杏子
読み進むうち、阪神・淡路大震災とある人物の存在が3篇の共通項として浮かび上がってきます。
そして最後の
「絶唱」は、前3篇をひとつにまとめ上げ、阪神・淡路大震災の記憶へと繋ぐ象徴的な篇となっています。

本短篇集で印象的なのは、舞台となるトンガに暮す人たちの温かさです。
人と人とが真正面から向き合い、お互いに気持ちを通わせようとする優しさ、温かさに主人公たちはどれだけ救われたことでしょう。
4篇の中で私はミステリ要素も少々ある「楽園」が一番好きですが、主人公の雪絵ならずとも、本ストーリィを読んだだけでこのトンガの島々へ是非行ってみたいと、心から思います。

辛い思いがあったからこその癒しと、心洗われるような温かさに包まれるストーリィ。この舞台設定が何と言っても魅力です。


楽園/約束/太陽/絶唱

                  

13.
「未 来 ★★


未来

2018年05月
双葉社刊

(1680円+税)



2018/06/16



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「絶唱」を読んだ後、湊作品はもういいかなと思い(策を弄し過ぎていると感じるようになったので)、その後の作品はずっと読んできませんでしたが、「告白から10年、湊ワールドの集大成!」という宣伝文句を信じた訳ではないものの、ちょっと惹かれてもう最後、という気持ちで手に取りました。

「序」は、2人の少女がドリームランド(TDLがモデルでしょう)へ行こうと夜行バスに乗り込むところから。
その後、そこに至るまでの、主役である少女=章子、章子に関わりのある人物、計4人による<語り>という形式でストーリィが綴られていきます。
語りという形式は、デビュー作
告白と同様、その辺りは湊さんらしいと感じます。

父親が早くに病死し、精神的に不安定な母親を懸命に支えようとする10歳の章子ですが、クラスのボス的女子からイジメを受けたりと厳しい状況。
そんな章子にある日、20年後、今は30歳という未来の自分から手紙が届きます。未来からという証拠に同封されていたのは、ドリームランドの30周年を祝う記念グッズ。

登場人物の一人が語っていくという形式ですから、当人が知らない事実は語られません。
しかし、それに続く別の人物がその知る事実を語り、繰り返されることによって全ての真相が明らかになる、という複層的な構成になっています。

しかし、重要なことは過去に起きた出来事の真相よりも、彼女たちの未来でしょう。
未来からの手紙の真相は何か、章子たちに未来への希望は開けるのか。
そして、本作に篭められたメッセージは何か。
そのメッセージこそ、本作の核心と言うべきでしょう。
様々に悩み、苦しみを抱えている少年少女たちに、是非受け取ってもらいたいメッセージです。


序章/章子/エピソードT/エピソードU/エピソードV/終章

    

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