三川みり(みかわ)作品のページ


広島県生。角川ビーンズ小説大賞審査員特別賞を受賞し、「シュガーアップル・フェアリーテイル 銀砂糖師と黒の妖精」にて作家デビュー。


1.もってけ屋敷と僕の読書日記

2.
君と読む場所

 


                   

1.

「もってけ屋敷と僕の読書日記 ★☆


もってけ屋敷と僕の読書日記

2017年12月
新潮文庫刊

(590円+税)



2018/02/13



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広島県の尾道に暮らす中2男子=鈴川有季を主人公にした、ちょっぴり成長と読書始めを描いたライトノベル。

その有季、通りすがりの道端に奇妙なベニヤ板で作られた箱が置かれているのを目にします。その箱には
“本の自動販売機”と書かれている。
ふと 100円を投入すると、取り出し口から何とビニール紐で括られた10冊程の本の束が出てきます。
思わず本を置いて逃げようとすると、箱から60歳くらいの初老の男が出てきて「もってけ!」と大声で怒鳴り、有季を追いかけてきます。
それが有季と、
七曲直(ななまがりすなお)という変人の老人との出会い。
七曲老人、本好きの余りその一軒家はどこもかしこも本の山。何とか蔵書を減らさなくてはならないと、珍妙な方法を考え出したという経緯。

そこから、中学生にとっては大きな問題に幾つか有季は遭遇することになりますが、七曲老人から押し付けられた本のお陰でその問題を何とか乗り切るという、ちょっぴり成長譚。
それまで余り読書したことがなかった有季が、これらの出来事が縁で小説、読書の面白さを知るという、読書始めストーリィが本好きにとっては嬉しいところ。
読書というのは押し付けられるとかえって抵抗しがちなもの。こうした出会いの方が読書好きになるかもしれませんね。

ちなみに、「恐怖の自動販売機」に登場する小説はヘミングウェイ「老人と海」、「エロ本トラップ」は山田詠美「ひざまずいて足をお舐め」、「恩仇返しの迷い猫」は吉本ばなな「ハゴロモ」、「謎のX」は椎名誠「岳物語」という具合。
このラインアップ、「老人と海」以外はすべて私が読んだことのない作品ばかり。何とまぁ。


※尾道という舞台が素敵です。6年前に訪れたことがあるので、街の情景が思い浮かべることができたので、それも楽しき哉。

1.恐怖の自動販売機/2.エロ本トラップ/3.恩仇返しの迷い猫/4.謎のX

               

2.
「君と読む場所 ★★


君と読む場所

2019年03月
新潮文庫刊

(550円+税)



2019/05/06



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題名からは全くわかりませんでしたが、尾道を舞台にしたもってけ屋敷と僕の読書日記の続編。
奇人というべき
七曲直老人と中学生の鈴川有季が主人公コンビとなるこのストーリィ、続編が登場するとは全く予期していませんでした。

相も変わらず七曲老人の蔵書本の数を減らそうとしてのゴタゴタがストーリィの主筋。
七曲老人から無理矢理に任務を押し付けられた有季の苦労を描く
「自動販売機命令による仲介業務」、有季の一言に触発され図書館へ強引に本を寄贈しようとする七曲老人と図書館員とのトラブルを描く「寄贈大作戦」、有季のアイデアとその挫折を描く「Cafe-NANAMAGARI」、閉じ籠ってしまった七曲老人を救い出そうとする有季とその仲間たちの奮闘を描く「もってかない日」の4篇構成による連作ストーリィ。

本書の目玉は、有季と同じ3年生で他クラス、不登校気味で今はずっと保健室登校を続けているという
森田麻友という少女。
職場体験学習で有季と同じ尾道市立中央図書館での実習を選んだことから有季、それぞれの担任教師2人から、森田のことをよろしく頼むと言われる羽目に。
その森田麻友はというと、怯え切った小動物みたいで、無表情、声もひどく小さなひどく繊細らしい女の子。しかし、中央図書館では常連利用者のようで、かなり本好きらしい。
七曲老人から押し付けられた本のことや、七曲老人に絡むトラブル絡みを通じて、有季と麻友の間に友達としての繋がりが育っていく処が本書での清新な魅力。

なお、今回登場する文学名作は、
山本周五郎「さぶ」、サリンジャー「ライ麦畑でつかまえて」、平野啓一郎「空白を満たしなさい」、角田光代「さがしもの」

森田麻友という女の子の登場により、青春&友情という要素が俄然として強まり、青春&文学という魅力が格段にアップ。
シリーズ化を強く要望!です。(笑顔)


1.自動販売機命令による仲介業務/2.寄贈大作戦/3.Cafe-NANAMAGARI/4.もってかない日

          


   

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