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12.パーマネント神喜劇 13.ヒトコブラクダ層ぜっと(文庫改題:ヒトコブラクダ層戦争) 14.あの子とQ 15.八月の御所グラウンド 16.六月のぶりぶりぎっちょう |
【作家歴】、鴨川ホルモー、鹿男あをによし、ホルモー六景、ザ・万歩計、プリンセス・トヨトミ、かのこちゃんとマドレーヌ夫人、ザ・万遊記、偉大なるしゅららぼん、とっぴんぱらりの風太郎、悟浄出立 |
11. | |
「バベル九朔」 ★ |
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2019年02月
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万城目学作品というと、「鴨川」「鹿男」「トヨトミ」「しゅららぼん」と来て奇想天外なストーリィというイメージが強いのですが、本書については「バベル」という題名からして不穏さを感じ少々困惑する思いでした。 案の定というか、いつもの万城目作品が明るくユーモアもある印象だったのに対し、何となく陰のある暗い印象を受けます。 主人公は小説家志望の九朔満大。3年勤めた会社を退職し、2年前から祖父=九朔満男が建てた5階建ての商業ビル“バベル九朔”の管理人をしながら応募作品を書いているという身。 ぱっとしない店ばかりがテナントのバベル九朔に、このところ不審事が続いて起こります。 いったい何が起こったのか。懸念する主人公の前に現れたのは、黒いミニのワンピースに大きなサングラスを掛けたグラマーな美女・・・・。 万城目さんらしい大掛かりな奇妙さある物語要素が詰まっていますが、でも何となく陰気さを否めず。 黒いワンピース姿の美女が読み手の関心を惹き付け、ストーリィを引っ張っていきますが、主人公は今一つぱっとせず、他にはこれといった登場人物も窺えず。 “バベル”という題名らしいストーリィ展開ではあったものの、読み終えた時には、だから何だったのか、という消化不良な気持ちが残りました。 今一つ、ストーリィに得心が行かないまま終わってしまった、というのが本書の読後感。 1.水道・電気メーター検針、殺鼠剤設置、明細配布/2.給水タンク点検、消防点検、蛍光灯取り替え/3.階段掃き掃除、水道メーター再点検/4.巡回、屋上点検、巡回/5.階段点検/6.テナント巡回/7.避難器具チェック、店内イベント開催/8.大きな揺れや停電等、緊急時における救助方法の確認/9.バベル退去にともなう清算、その他雑務/10.バベル管理人 |
12. | |
「パーマネント神喜劇」 ★☆ |
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2020年05月
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神社の前を通りかかった登場人物たちの前に、変わった図柄の長袖シャツを着た中年男とスリムなスーツ姿の男という2人組が現れ、自分たちは“神”だと名乗ります。 そして中年男の方、自分は“縁結びの神”だと名乗り、スーツ姿の男のことは〇〇〇だと紹介します。 神様が人間と出会えば、当然ながら願いを叶えてくれる筈。 そのためにこそ神様は登場人物たちの前に登場した訳ですが、願いは直接叶えられるのではなく、かなり遠回りして叶えられる。その辺りの展開に面白さあり。 しかし、本書の骨頂は、真の主人公と言うべき剽軽者の“縁結び”の神様のおしゃべりによって語られる、神様世界の喜劇譚にあります。 フリーライターの前に気取ったり、審査員と言われて慌てたり、まるで人事査定を受けるサラリーマンの如きという具合で、やれやれ気忙しい。 とにかく、人を喰った(いや、神様を喰ったと言うべきか)話ばかり。神様たちによるドタバタ喜劇と言って良いでしょう。 ドタバタ劇は好きですし、それなりに楽しめましたが、小さな神社の神様であるという故に話のスケールとしてはやや小ぶり。 でも、神様というものが身近に感じられるようになった気がします。その点は拍手。 はじめの一歩/当たり屋/トシ&シュン/パーマネント神喜劇 |
13. | |
「ヒトコブラクダ層ぜっと Arabian camel layer Z」 ★★ |
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2023年11月
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題名自体、何のこっちゃ?と困惑させられますが、ストーリィ自体も奇想天外で、驚くというより呆れてしまうと言う他ない、古代文明に迫る歴史的冒険ストーリィ。 梵天、梵地、梵人(ぼんど)の榎戸三兄弟は三つ子。3歳の時に隕石が実家に墜落、両親が死去し、それ以来3人で生きていた。 この3人がそれぞれ「3秒」に関わる特殊な能力を持っているのですが、その3人の前に突然現れたのが、謎の女性。 その女性の仕業か、3人は陸上自衛隊に入隊させられ、あれよあれよという間に中東イラク派遣。 それで終わらず、さらに他国の軍人と共に、失われたメソポタミアの遺跡を追い求めることになるのですから、読み手としてももうついて行くのが大変。(笑) クライブ・カッスラー“ダーク・ピット”シリーズで様々な遺跡には出会い済ですが、本作ではなんとまぁ、メソポタミア、シュメール文化とは! もう幻の古代史世界ですね。 3秒の特殊能力、謎の女、イラク派遣に、謎の老人、そこからさらに・・・・。 冒険にやっと決着が付いたと思ったら、その後の全ての謎解きがまた・・・・で、どこまで行くの?という印象。 まさに何でもありの奇想天外な冒険ストーリィです。 ただ、次々と奇想天外弾が連続発射されるという展開に、ストーリィを追うのみで終わってしまい、ワクワク感、興奮はあまり感じないままに終わってしまった、という気がしないでもありません。そこは少々残念。 なお、銀亀三尉を登場させた点は評価したい。紅一点として十二分の存在感を発揮し、ストーリィに彩りを添えていました。 序章 2022.11.14 PM11:21/1.天/2.人/3.山/4.陸/5.砂/6.女/7.男/8.層/9.Z/10.都/11.頂/12.ヒトコブラクダ/終章 2024.11.5 PM1:36 |
14. | |
「あの子とQ」 ★★ |
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このところ荒唐無稽のレベルが行き過ぎて、かえって楽しめなかった感のある万城目作品でしたが、本作は久しぶりと言っていいくらい、単純に楽しめた万城目さんらしい一作。 「あの子とQ」という題名、その「Q」とは一体何?と思う処ですが、まさか「吸血鬼」の「きゅう」とは?! 主人公の嵐野弓子は高校2年生、まもなく17歳。 実はその弓子、両親は勿論、吸血鬼の一族。 しかし、昔のように吸血鬼が現代の世の中で生きていける訳もなく、とっくに“脱・吸血鬼”を果たしている。 その“脱”儀式が17歳の誕生日に行われるとあって、弓子が血に囚われていないかどうかを監視すべく派遣されたのが、トゲトゲのお化けといった姿の「Q」という次第。 このまま過ごせばどうということもなく無事に儀式を終えられる筈だったのに、親友のヨッちゃんに頼まれてでかけたダブルデートの帰り、弓子はとんでもない事故に見舞われます。 その結果は・・・・。 前半は、吸血鬼に一族だという弓子のキャラクターが楽しめます。 そして後半となると、純真というか怖いもの知らずというか、弓子の猪突猛進的な大冒険が繰り広げられます。 そこはまさに米国製映画のような活劇になっていて、たっぷり楽しめます。 まさに快作、です。 また、弓子の他、その親友ヨッちゃん(吉岡優)、弓子のQ、「原・吸血鬼」という佐久、吸血鬼一族の親玉であるブラド、それぞれのキャラクターもバラエティに富んでいて楽しい。 なお、最後の占い言葉が気になります。続編があるのかどうか。 もちろん、続編に出会えるなら、それはとても嬉しいこと。 1.おとずれ/2.あやまち/3.てがかり/4.おもわく/5.とこやみ/終章 |
15. | |
「八月の御所グラウンド」 ★★ 直木賞 |
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「鴨川ホルモー」「ホルモー六景」以来となる、京都を舞台にした青春ストーリィ2篇。 やはり万城目作品においては、京都が原点だと感じます。 ごく自然に、不思議なことが起きる・・・その舞台はやはり古都が相応しい。 「十二月の都大路上下ル」は、全国女子高校駅伝大会が舞台。 補欠故にのんびりしていた坂東(サカトゥー)、先輩の体調不良により急遽出場を命じられます。 超絶方向音痴を誇る坂東、コースを間違えやしないかと心配するのですが、一度右に曲がるだけだから心配ないと・・・・それって5区=アンカー? 坂東が襷を受けて走り始めると、観客側の道を和服姿で並走して走る7〜8人の男たちが現れます。一体彼らは・・・? 「八月の御所グラウンド」は、<たまひで杯>優勝を賭けた、大学生・社会人たちによる草野球大会。 多聞からの借金を返済できないでいる朽木、卒業が掛かっていると強引に協力させられ、寄せ集めチームに参加することになります。 しかし、試合が進むと、参加できないメンバーも出てくる。 そこで急遽メンバーに加わってもらったのは、中国人留学生のシャオさん、試合を見ていた自転車男性=えーちゃん、その後輩だという遠藤、山下。 えーちゃんが活躍した試合の後、シャオさん、えーちゃんがこの写真の人物にそっくりと見せてきたのは・・・・。 気持ち良く、楽しんで読めた2篇。 寒いし、暑い京都ですが、こうした京都の雰囲気は好いですね。 十二月の都大路上下(カケ)ル/八月の御所グラウンド |
16. | |
「六月のぶりぶりぎっちょう」 ★★ |
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直木賞を受賞した「八月の御所グラウンド」に続く、“京都の不思議”シリーズ第2弾。 現代と歴史的過去が交錯する、京都だからこそ感じられる、ありそうな出来事、だからこそ楽しい。 なお、表題の「ぶりぶりぎっちょう(振振毬杖)」とは、木製の槌をつえた杖で木製の毬を相手の陣に打ち込むという、ホッケーに似た遊びで、平安時代に始まり安土桃山時代に流行った子どもの遊びだそうです。 「三月の局騒ぎ」 京都の大学に進学した賢木若菜が入居したのは、<北白川女子寮マンション>という古い、女子学生向けの寮。 その寮、寮生たちを「女御」と呼ぶほか、「壺」「局」「御簾」等々、用いられている言葉がやはら古めかしい。 その寮でとりわけ謎だったのは、キヨという長く住んでいるらしい寮生の存在。漱石「坊ちゃん」の大ファンである若菜は、そのキヨという名前についつい惹かれてしまうのですが・・・。 まぁ京の都で「キヨ」と言えば、あの人以外いないでしょう。 「六月のぶりぶりぎっちょう」 高校の社会科教師である滝川、京都のホテルに泊まった6月2日、気づくと今まで居たとは全く異なる場所に転移。 そこでは、羽柴と名乗る男が、ボスが殺されたと騒いでいる。 その対応を巡って食堂に集まったのは、2人の他、柴田、丹羽、明智、徳川、フロイスという面々。 彼女は、本能寺の変の真相が知りたいと<易者>に言ったばかりに、その現場に送り込まれてしまったのか・・・・。 信長ファンとしては、信長が絡むととにかく面白い、と感じる次第。さて、万城目学さんが解き明かす<本能寺の変>の真相はどのようなものなのか。そこにグッと興味を惹きつけられます。 三月の局騒ぎ/六月のぶりぶりぎっちょう |