黒野伸一作品のページ No.2



11.あさ美さんの家さがし

12.国会議員基礎テスト

13.AI(アイ)のある家族計画

14.お会式の夜に


【作家歴】、万寿子さんの庭、女子は一日にしてならず、どうにかしたい!、限界集落株式会社、極貧!セブンティーン、綾香、経済特区自由村、脱・限界集落株式会社、となりの革命農家、本日は遺言日和

黒野伸一作品のページ No.1

  


  

11.

「あさ美さんの家さがし ★☆


あさ美さんの家さがし

2016年11月
河出書房新社

(1400円+税)



2016/12/21



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<家>、家族、幸せを絡めて描いたオムニバス小説6篇。

まず登場するのは、地方銀行勤めから転じて激安店のキャバ嬢になった、
あさ美32歳
意地からタワーマンション高層階の購入を考えますが、返済負担等を考えて逡巡。
その他、人気新興住宅地に一軒家を買ったものの周囲と張り合ってギスギスしていく主婦。結婚しても火遊び癖が抜けず、やがて家族を失い、リストラで仕事も失ってホームレスとなった中年男性。結婚して子が生まれ、中古住宅を買ってさあこれからという時にリストラされて窮地に立った夫婦、古くなった家に定年退職した夫と2人だけになった主婦、再びあさ美と、それぞれの家族ドラマが描かれます。

<家>とはもちろん家屋のことですが、同時に家族、自分の居場所、ということも指しているのだなぁと考えさせられます。
それぞれの登場人物、決して高望みをしている訳ではありませんが(まぁ、一部にはありますが)、そんなささやかな幸せさえも苦労なしには手に入れることが難しくなったのが現代かもしれません。家計のために水商売、リストラ、ホームレス、定年後の問題等々、現代の世相が色濃く反映されている作品でもあります。
あさ美が構想マンションの購入に中々踏み切れないのも、そんな高額住居を購入したからといって幸せになれるかどうか確信が持てなかったからではないかと思います。

世知辛い内容ではありますが、黒野さんが語ると何となくほのぼのとしてユーモラス。シリアスな問題は背後に隠されますが、決して無くなった訳ではない、という辺りが黒野さんらしい達者なところです。


1.タワーマンション(前編)/2.マイホームマイファミリー/3.空き家とホームレス/4.シェアハウスの恋人/5.終の棲家/6.タワーマンション(後編)

        

12.

「国会議員基礎テスト ★☆


国会議員基礎テスト

2018年02月
小学館刊

(1600円+税)

2020年02月
小学館文庫



2018/03/12



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政治とは? 議員とは? そんな政治の仕組みに対する問いかけを各章の題名とし、ある国会議員の波乱万丈のストーリィを具体例として絡ませた政治劇エンターテインメント。

主人公の一人である
橋本繁は元キャリア国家公務員。地方国立大卒のため東大派閥に進路を阻まれ、与党重鎮政治家の勧めで黒部優吾の政策秘書に転じます。しかし、実情は政策立案とは程遠い仕事ばかり。そのうえ、優吾引退後後を継ぎ3代目議員となった息子の黒部優太郎は、議員の仕事そっちのけで若い女の子との付き合いに現を抜かすばかりというチャランポランさ。
ついに野心を抱くに至った橋本は、スキャンダルで窮地に至った優太郎に、さらに公開TV番組で国会議員資格試験に挑ませるという罠にかけ、辞職に追い込みます。
優太郎に代わって補欠選挙で与党議員となった橋本は、
<国会議員基礎テスト>導入という政策を第一に掲げますが・・・・。

ストーリィは橋本繁と黒部優太郎、転職して議員秘書となったものの元々は若い素人女性に過ぎない
杉本真菜、という3人の視点から描かれます。
政治の仕組みを知るうえで勉強になることも多いストーリィですが、こうなれば理想的、と言える程政治は簡単なものではありません。
日本の将来は二の次で、自分の当選可否が最重要という国会議員も困ったものですが、そうした国会議員を生み出しているのは選挙民の責任であるということも否めない事実。

本作品の意義は、本書をきっかけに、政治のあるべき姿について一人一人が考え始めることにあるのではないかと思います。

1.基礎編/2.中級編/3.上級編/4.実践編−選挙に出馬して議席を獲得せよ/エピローグ/最終問題

        

13.
「AI(アイ)のある家族計画 ★★


AIのある家族計画

2018年03月
早川書房刊

(1700円+税)



2018/04/12



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AI=ロボット、それもアンドロイドが人間社会に広く参入するようになり、人間の雇用機会を奪うようになるまでに至った近未来社会が舞台。
本作は、そんな近未来社会におけるある家族の物語。

AI、早川書房という組み合わせから、山本弘さんの新作?とつい思ってしまったのですが、よく見れば作者は黒野さん。
限界集落とか現代社会の抱える問題を描いてきた黒野さんとしては、あれれ?と感じる程珍しい作品。

杉山一家は、母親が離婚していなくなり、父親=健司、祖父=蔵弘、祖母=、高校生の娘=瑠璃、小学生の息子=という5人家族。いや、最近そこにという若い女性が加わり、老いた祖父母の世話、食事や家事に奮闘しています。しかしどうも鈍感、不器用らしく、マサさんから叱られてばかり。
AI技術の発展により自動車事故が減り、健司の勤務先だった損保会社はロボット製作会社に買収され、今や中古ロボットのレンタルに転換済。しかし、ロボット技術などまるで分らない社員たち、苦戦ばかり。そのうえ新任の営業所長は何と・・・・。

いろいろ不満はあっても、家族たちの不満を恵が吸収している風で、杉山一家は和気藹々といった雰囲気です。
プーさん、リーちゃん、ハカセくん、メグちゃんと呼び合っていますし。
しかし、ある事件が起きたことによって、杉山一家は突然、家族の危機に晒されます。杉山一家、一人一人の思いは・・・・。

AI技術が進歩し、いずれアンドロイドが人間社会に入り込んでくる未来はもはや当然に予想される未来と思います。
本作は、そんな社会で「AIとは?」と問うてみた作品ですが、AIがどこまで人間に近づくかという問題より、限りなく人間に近づいたAIを人間は果たして受け入れることができるの?ということこそ、真の問題点ではないでしょうか。

前半はもたつき感のある展開でしたが、終盤の展開は圧巻。
恵の言動はとても愛おしく、そして、杉山一家や
九条というエリート役員らの言動に、深く感銘を受けます。
近未来、そしてAIに関心がある方なら、是非お薦め!

山本弘「プラスチックの恋人もお薦め。また、“ロボット三原則”の原典であるK・チャペック「ロボット(R.U.R)も、興味を引かれたらお薦めです。 

        

14.

「お会式(えしき)の夜に ★☆


お会式の夜に

2019年08月
廣済堂出版

(1400円+税)



2019/09/20



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まず「お会式」って何?ということになりますが、日蓮宗において日蓮の命日に合わせて行われる法要のことだそうです。
中でも数十万人の参拝者が訪れる祭りとして知られるのが、東京都大田区の
池上本門寺万灯参詣等、大掛かりなお祭りと言って良い行事。
ただし最近では、伝統行事を大切にする地元民と、格好のベッドタウンとして引っ越してきた新住民との間で、何かといざこざが絶えないらしい。

そんな池上に住むようになったのが、主人公の一人=
紺野美咲、28歳。祖母の後を追うように父親が死去、折しも勤務先からリストラ解職されて社宅を追い出され、祖母のマンションに越してきたという次第。求職中であるが未だ宛て無し、という状況。

もう一人の主人公は
小三の紺野尊。シングルマザーの母親が尊を置き捨てて男と出奔。伯父の元に引き取られますが、狭いマンション住まいとあって居心地はひどく悪い。たまたま美咲と同じマンション、同じフロア。

2人とも地元民と仲の悪い新住民。しかし、この町で出会った人たちとの交流がきっかけとなり、祭りに参加するため
(信徒団体)に加わったりして、この町に居場所を見つけていきます。

途中、思いも寄らぬ悲劇、思いも寄らぬロマンスを経ての、2人の再出発ストーリィ。
それに、お寺の多い池上という町の独特な有り様、雰囲気が描かれている処が楽しめます。

※新婚時東急沿線に住んでいたので、池上本門寺に一度行きました。本ストーリィ中にも登場しますけれど、
くず餅が名物なんですよね。

1.仕方なく引っ越しては来たけれど/2.最悪の環境/3.ゆっくりと始動/4.三番勝負/5.しょんべん横丁とキャンドルナイト/6.解けた誤解/7.外から来た人 前からいる人/8.謹中/9.大人なんか嫌いだ/10.流転/11.忌中/12.ありえないこと/13.合同町内回り/14.お会式の夜に

     

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