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22.父と子の旅路 23.父からの手紙 24.検事沢木正夫−公訴取消し 26.もう一度会いたい 27.家族 28.裁判員 29.決断 30.声なき叫び |
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検察者、裁きの扉、殺意の川、宿敵、容疑者、曳かれ者、失跡、それぞれの断崖、偽証法廷、落伍せし者 |
罪なき子、逃避行、死の扉、母子草の記憶 |
●「殺人法廷」● ☆ |
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2004年01月
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小杉さん久々の法廷ミステリです。小杉作品の魅力は法廷ものにあるというのが私の思いですので、久々の法廷ミステリと知って読む気をそそられました。 茨城県相川町で起きた保険金殺人と疑われる事件。フリーライター・粟野がその取材中に失踪します。粟野の親友であり、不祥事から警察を退職した元刑事・夏見丈一が、粟野の行方を追って、この事件の真相を追究することになります。 真相は、幾つかの愛憎劇を含んで、それなりに複雑なドラマに仕上がっていますが、本作品については、切れが悪いという印象に留まりました。 |
●「父と子の旅路」● ★★ |
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2005年06月
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冤罪事件をめぐって、父と子の深い絆を描いた感動的はヒューマン・サスペンス。 法廷推理、冤罪事件、家族の絆は、小杉作品には多い題材です。最近では時代小説も多く、サスペンス分野において小杉さんの存在はあまり目立ちませんが、私にとっては変わらず信頼して読める作家の一人です。 末期癌で死期間近な母親に別れたままとなっている異父兄を合わせてやりたいと、娘の礼菜は行方を調べ始めます。そして判ったことは、その父親が死刑囚として収監されており、息子(礼菜の兄)の行方を一切黙秘していること。しかも、その男・柳瀬光三はどうも無実らしいこと。 秘められた真相は関係者にとって驚愕のもの。しかし、その重要な鍵は中盤であっさり明らかにされてしまいます。それは、本作品のテーマが事件解決にあるのではなく、父親の子に対する深い愛、絆、そして真相を知った子供たちの苦悩にあるからです。 私の好きな小杉作品らしい、私好みの感動ストーリィです。 |
●「父からの手紙」● ★★☆ |
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2006年03月
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いかにも小杉さんらしい、そして小杉作品の中でもオーソドックスと言えるミステリ。 小杉作品を読むのは久々ですが、かつては愛読した作家。ヒューマンドラマ要素の高いミステリという点に惹かれていました。ヒューマンドラマ+サスペンスという帚木蓬生作品に通じるものがありますが、ミステリとしての骨格をきちんと備えているところが小杉作品の特徴です。 冒頭ふたつのストーリィが展開します。ひとつは、殺人罪の服役を終えて出所した秋山圭一が、義姉を探すとともに兄の焼身自殺の真相を追うストーリィ。もうひとつは、婚約者が殺害されるという事件に直面した麻美子が、昔失踪した父親を探すとともに、容疑者とされた弟の無実を晴らすため殺人事件の真相を追うストーリィです。 ミステリ自体は、むしろ平凡と言うべきかもしれません。それにもかかわらず、切々とした思いで読み進んでしまうのは、お互いに支え合おうとする、家族、夫婦、恋人等の姿がそこに描かれているからです。その象徴と言えるのが、麻美子と弟の誕生日に毎年届く失踪した父親からの手紙。そこには、我が子に対する強いメッセージと深い愛情がこめられています。 結末に待ち受ける、予想外の真相とメッセージに、静かな感動を覚えます。 |
●「検事・沢木正夫 公訴取消し」● ★ |
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2006年12月
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主人公名を冠した題名は久しぶり。小杉さんならではの法廷推理と期待したのですが、割と平凡な作品に終わったという印象。 主人公である検事・沢木正夫が、結局は“公訴取消し”を狙った事件の立会い者的な存在に留まった故でしょう。 ※「公訴取消し」とは、起訴処分にした事件を検察が自ら取り下げること。取消し後の再起訴は、余程の証拠がない限り出来にくくなるというもの。 刈谷努は少年院出の青年。森島製作所社長の懸命な支えを受けてまともな生活を続けていた。しかし、その森島が病院側の手術ミスにより脳死状態になってしまう。森島製作所を引き取った経営者は、少年院出の努の引取りを拒む。そしてその2年後、殺人事件の容疑者として刈谷努が逮捕されます。証拠はいずれも刈谷努を犯人と示すものばかり。しかし、事件を担当した検事の沢木正夫は、事件の真相が全て明らかにされていないと感じる。 殺人事件解明というストーリィの中で、病院の医療ミスにおける被害者の無力さ、妻を失った沢木検事の喪失感、一人息子の引篭もりに戸惑う人権派弁護士の朝川、親の愛情を得られなかった息子の孤独感が描かれますが、いずれも迫力不足。中途半端に終わってしまったという印象が残ります。 |
●「検事・沢木正夫 第三の容疑者」● ★ |
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2010年08月
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“検事・沢木正夫”シリーズの第2弾。 今回は、元甲子園のエースが強盗殺人の主犯として起訴された事件が皮切りになっています。無実を信じる2人の青年が、新田弁護士とともに弁護活動に奮闘中。 その新田事務所の近くにある公園で、もうひとつ別の殺人事件が起こります。容疑者が逮捕され、担当となったのが沢木検事。 2つの事件の真相はどうか。それに沢木検事はどう関わるのか、がストーリィの主眼。 サスペンスという点では、あまり大した事件でもなく、率直にいって面白さに興奮するという程のストーリィではありません。 事件の真相は、思いもかけぬものですが、小杉さんの傑作「陰の判決」と殆ど同じ構図。したがって、驚愕するようなこともありませんでした。 |
●「もう一度会いたい」● ★☆ |
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2010年11月
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70歳過ぎてアルツハイマー病が進んでいる老人・福山源一郎が今になって忘れられないのは、一旦婚約したが上司の娘との縁談を迫られ別れることになったかつての恋人、岸野幸江のこと。 自分は社会から必要とされない人間だと絶望して引きこもっていた青年が、自分を頼りにする老人の信頼に応えようとして、少しずつ立ち直っていく様子が、本作品のミソです。 なお、本書には「容疑者」と「曳かれ者」の矢尋文吉と知坂允という2人の刑事が脇役で登場し、読者は再びあの曳山祭、城端に連れ戻されることになります。予想もしていなかったことで、これは懐かしい。 夕暮れ/越中城端/もうひとりの女/曳山祭 |
●「家 族」● ★☆ |
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2013年06月
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認知症を患っていた老女を殺害した犯人として、ホームレスの男性が逮捕されます。 このところ裁判員制度を前提にしたミステリ小説がいろいろと出版されているようですが、私としては乃南アサ「犯意」に続いて本書が2冊目。 もちろん事件の真相は何か?が問われるのは勿論ですが、それ以上に本書で問われているのは、弁護士、あるいは裁判員の側。 本ストーリィでは最後に、みな子が裁判員としての立場を逸脱する行動を取ることによってドラマチックに真相が明らかになりますが、それは本来あってはならないことでしょう。 |
●「裁判員−もうひとつの評議−」● ★☆ |
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裁判員制度を題材にした法廷ミステリ。 妻が家を出て、その悩み事を抱えつつ裁判員として法廷に臨んだ主人公、そんな悩みを抱える状態できちんと審理ができるのだろうかという疑問を抱きつつ。 第一幕が裁判員制度に内在する問題点を追及するストーリィとしたら、第二幕というべき後半は、いかにも小杉さんらしい延長法廷ミステリ。 |
29. | |
「決 断」 ★☆ |
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久々の小杉作品、推理サスペンスもの。 銀座高級クラブのホステスが絞殺されて発見されます。 東京地検の担当検事は、江木秀哉。父親はかつて警視庁で名刑事と謳われた江木秀蔵ですが、捜査のために母子はほったらかし。その確執のため江木はずっと父親と絶縁状態だったが、肺がんで入院し余命半年と叔母から知らされ、病院に足を運ぶことになります。 一方、足跡をまるで残していない犯人は余程の大物に違いない、捜査陣に緊張が走りますが捜査は一向に進展せず。 その過程で偶然にも江木は、名刑事と言われた父親が唯一解決できなかった20年前の事件と本事件との間に何らかの関わりがあることに気付きます。 そして捜査の進展に連れやがて江木は、何故父親が捜査の鬼となったのか、その理由を知ることになるという、推理サスペンスであると同時に父子のドラマ。 事件、捜査、親子の確執と理解、そして真相と、如何にも小杉さんらしい筋立ての作品です。しかしながら、以前の同傾向の作品に比べると、まるでパンチ不足であることをつくづく感じざるを得ません。それが少々悔しい。 |
30. | |
「声なき叫び」 ★★ |
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2020年06月
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自転車に乗った青年に近づくパトカー、自転車が倒れ逃げ出そうとした青年を、追いかけた警官たちは蹴ったり殴ったりと散々な暴行を繰り返す。 その様子を偶々ファミレスの席から目撃した広野ゆかりは、警官たちの余りの行動に警察に電話しますが、梨の礫。 一方、警察から連絡を受けて指示された病院へ駆けつけた高尾宏は、知的障害のある息子の翔太が既に死亡したと聞かされ、愕然とします。 警察の説明は、翔太が自転車で蛇行運転し、前の自転車にぶつかり、取り押さえようとした警官に対して暴れ、取り押さえようとした結果だという、全く信じられないもの。 そして、自宅に戻された翔太の遺体には、身体中にひどい暴行を受けた痣が残っていた。 一体何があったのか。いくら警察を問い質しても、却ってくるのは警官の行動に全く問題はなかったの一点張り。 かつて冤罪事件で警察を糾弾したことから左遷された新聞記者の八田が、広野ゆかり等の証言者を見つけ、高尾宏に水木弁護士に依頼するよう勧めます。 それに対し、警察側はあらゆる手段を使って事件を隠蔽しようとする。 目撃者たちの弱みを突いて証言を辞退させたり、あろうことか元警官に偽証させてまで、と。また、法廷の場において裁判官までが警察に有利なように審理を進めるといった偏向姿勢を露わに。 そんな孤立無援状況の中、水木弁護士はどう立ち向かうのか。 本ストーリィで描かれるのは、良心はないのかというぐらいの、徹底した身内擁護+不祥事の隠蔽。 幾ら何でもここまではという程の極端例ですが、いざという時の身内擁護・隠蔽体質があることは否めません。 しかし、何よりも恐ろしいと感じるのは、正義など何処かに放り出したような、警察組織を挙げての目撃者に対する脅迫行為。 もし自分がそんな状況に置かれたら正義を貫けるのだろうかと思うと、まるで自信がありません。そんな状態に置かれないようにと祈るばかりの気持ちになります。 本作に登場した水木邦夫弁護士、小杉さんの傑作「陰の判決」以降、幾つかの作品に登場している正義派の人物ですが、本作ではもう60代半ば。時間の推移をつくづく感じます。 1.目撃者/2.告訴/3.不起訴処分/4.審判/5.偏向裁判 |
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