近衛龍春
作品のページ


1964年生。大学卒業後、通信会社勤務、フリーライターを経て「時空の覇王」にて作家デビュー。


1.九十三歳の関ケ原

2.
将軍家康の女影武者
(文庫改題:家康の女軍師)

  


     

1.
「九十三歳の関ヶ原−弓大将大島光義− ★★


九十三歳の関ヶ原

2016年07月
新潮社

(1700円+税)

2019年02月
新潮文庫



2016/08/25



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織田信長の美濃攻略の際は美濃側。そこから始まり、93歳で関ヶ原の戦いにも参戦した弓大将=大島光義を描いた時代小説。

現代でさえ93歳で未だに「現役」といったら驚かれるに違いないというのに、戦国時代に長命を保ち、それに留まらず現役武士として戦に加わったというのですからいやはや・・・。

信長による美濃攻略と天下統一、明智光秀の謀叛、秀吉と三七信孝&柴田勝家の後継者争い、関ヶ原の戦いと、出来事の流れはもはや既知のことなので特にどうということもありませんが、本書主人公の大島光義という人物がユニーク。
上記の天下を揺るがす騒動にしてもどこか他人事、飄々として、傍観者的に眺めている印象があります。
そのうえ、他の武将のように“家”の隆盛や存続に固執することなく、戦場をまるで自分が弓矢を極めるための競技会の場、と思っているらしい。

孤児となった境遇から自分を押し上げるために選んだ手段が“弓矢”。いつしか弓矢を極め尽くすことが生き甲斐であり、目的にもなったのが、大島光義という人物。
ユニークな視点から信長〜秀吉〜家康という時代の流れを見定めた歴史の証言者を描いた長編という趣があります。

そんな主人公ですから、いつも光義の傍らにあり「矢を渡す役」を任じている従者の小助とのやりとりはまるで漫才コンビのような味わいがあります。
また、昔将来を誓い合いながら別れるに至った
冨美との再会、農民の娘にもかかわらず弟子入り志願してきた於茂との絡み合いも魅力ですし、また光義が仮想ライバル視した太田信定との関係も面白い。

ユニークな主人公を抱いた時代小説ですから、ユニークな面白さを見い出せるかどうかも読み手次第、と言って良いでしょう。


序章.老将の剛矢/1.敗北、無禄、再仕官/2.新たな試み/3.鑓でも弓でも/4.仇討ちの娘/5.本能寺の騒乱/6.天下分け目/終章.最高の矢

        

2.

「将軍家康の女影武者 ★☆
 (文庫改題:家康の女軍師)


将軍家康の女影武者

2019年06月
新潮社

(1600円+税)

2022年01月
新潮文庫



2019/07/24



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家康の側室の一人である於奈津の方を主人公にし、家康の天下取りを女性視点から描いた戦国歴史小説。

元武家の出である
卯乃、武家から商人に転身していた叔父の店において、その才覚から女番頭の立場。
そこを茶屋四郎次郎から見込まれ、勧められて家康の元に女中奉公に出るに至ります。兄弟らの武士復帰に貢献できれば、というのがその応諾理由。
その後、入浴中に襲ってきた暗殺者から、その身代わりとなって家康を助けた機転と度胸を買われ、あれよあれよという間に側室として迎えられ、「於奈津の方」に出世。
以降、豊臣との戦に同行し、影武者の役目を務めたり、家康の相談に応じたり、励ましたりという役割を果たします。

奈津の存在を際立たせるために、家康を小心者、臆病な処多し、と描いているため、家康像を矮小化している印象。
また、女性視点からみた<関ヶ原>、<冬の陣>、<夏の陣>という趣向は判りますが、無理に話を作っている印象が否めず、興奮や面白さというものは余り感じられず。
この辺りの顛末は、
司馬遼太郎「関ヶ原」等の歴史小説で結構読んでいるため、ストーリィとして重複感もありましたし。

一方、個人的に興味を惹かれたのは、秀吉の側室で最後まで大阪に残ったという
甲斐姫の存在。
和田竜「のぼうの城に登場した、成田家から秀吉の側室に入ったあの甲斐姫という訳で、再会でき、その後の様子が知れたことは嬉しかったです。

序章.助言/1.刺客撃退/2.太閤死去/3.影武者/4.関ヶ原合戦/5.大阪冬之陣/6.大阪夏之陣/終章.泰平の中で

  


  

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