清野かほり作品のページ


1968年生。雑誌編集、広告制作プロダクション等を経て、2003年「石鹸オペラ」にて小説新潮長篇新人賞を受賞。

 
1.
石鹸オペラ

2.テッキーヤ

 


    

1.

●「石鹸オペラ」● ★☆       小説新潮長篇新人賞




2004年02月
新潮社刊

(1400円+税)

 

2006/09/09

歌舞伎町のソープ嬢、リカ(利夏)を主人公とする長篇小説。
店でナンバーツーの美人であり性格もそう悪くないと思えるこの主人公が、何故ソープランドで働くのか。しかも、歌舞伎町近くのトイレも共同という安アパートで暮らして。
お金を貯めたいというのでもない、ホストに入れ揚げている訳でもない、まして借金を返すため、というのでもない。
本人は「セックスが好きだからやってんのよ」と答えるが、文字通りには受け止められない、荒涼としたものが利夏の内側から感じられます。
恋人でもなく単なるセックスフレンドとも言い切れない、混血の青年リチャード(慎二)との関係からも、それは感じられます。ただ風に吹かれるまま生きている、今の利夏の生活にはそんな雰囲気を感じます。
それが一転して変わるのは、自分がHIV感染していることが判ってから。つい先日、初めての経験をするためソープに来たという少年の客に移しているかもしれない。慎二の協力を得て必死で利夏はその少年を捜し求め始めます。

誰とも深く繋がろうとしなかった利夏そして慎二が、真剣に他人を追い求め、お互いを気遣うようになったきっかけがHIV感染だったとは何と皮肉なことか。
それは2人だけのことではなく、捜した相手の秀人、僅か一時のことでしたが臓器売人の神谷にも通じること。追い詰められた究極の状況に至って初めて、彼らは人と繋がり合うことの温もりを知ることができたのです。
本作品を通して漂う、冷たく荒涼感のある雰囲気が印象的。
その中で彼らが手に入れた温もりはほんの僅かなものに過ぎませんが、だからこそ貴重なものに感じられます。

  

2.

●「テッキーヤ!」● ★☆




2006年05月
講談社刊

(1600円+税)

 

2006/09/10

縁日やお祭で屋台を出す“テキヤ”の世界を舞台にした長篇小説です。
高校3年の光(ピカル)は友人の和弥から誘われ、その叔父“柿澤組”でテキヤのバイトを始めます。
学校に行かず柿澤組に住み込んでバイトを、今の女子高生がやっているということが愉快。
テキヤの仕事もそれなりに力仕事がありますし、暑い最中に鉄板でお好み焼きを一日中焼いているのも決して楽じゃない。それでもきちんと自分の担当の商売を勤めやり応えを感じている光の姿を見ていると、学校へ行くだけが大事ではないようなぁという気分になります。
その光が、柿澤組と敵対するテキヤ“遠藤組”若い衆の一人に恋してしまいます。さしづめテキヤ版ロミオとジュリエット
本作品はてっきりこの反目し合うテキヤ同士の中での恋愛騒動というストーリィと思っていたのですが、どうも違ったようです。

柿澤組の面々は、組長であるおやっさんに、鷹兄ちゃんノブ兄ちゃんパン姉ちゃん。それにおやっさんの母親で元お嬢様のハル婆、家で留守を守っている現在妊娠中の百合姐さん。そこに加わったのが、仕事場でピカルにまとわりついてきたヤセ犬のイチロー
狭い住まいにワイワイガヤガヤと皆が一緒に暮らし、何のかのと協力し合ってテキヤの仕事を営んでいる柿澤組の様子がとても楽しい。光と一緒に柿澤組の一員になったような気分です。
しかし、鷹にしてもノブ、パンにしても、他に行くところなく辿りついた先がこの柿澤組だったことが後に判ります。それでもここには“家族”といって良い繋がりがある。

本作品は、青春+ラブストーリィという要素もありますが、根底においては石鹸オペラと同じく人と人が繋がり合う大切さを描いた作品と思います。
今の学校は、知識とかITとか個性とか言う前に、人が繋がり合うことの大切さをきちんと教えた方が良いのではないか、高校と柿澤組との間を行ったり来たりしている光を見ていると、そんな気持ちになります。
一直線に行動する女の子、主人公の光も魅力ありますが、図抜けて魅力的なのは元お嬢様で元テキヤ未亡人のハル婆。また、百合姐もなかなか好い。この柿澤組、女性上位のようです。

 


   

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