香納諒一作品のページ


1963年横浜生、早稲田大学文学部卒。90年織田作之助賞入選、91年小説推理新人賞受賞。「時よ夜の海に瞑れ」で長編デビュー。


1.
幻の女

2.
無縁旅人

 


      

1.
「幻の女 


幻の女画像

1998年06月
角川書店刊

(2000円+税)

2003年12月
角川文庫化

1998/11/21

5年前突如自分の前から姿を消した女。その愛した女・瞭子と偶然に再会したのも束の間、彼女は電話のメッセージを残して殺される。
挫折した過去を引きずる弁護士・栖本は、事件を調べるうちに、彼女が10年以上も別人として生きてきたことを知ります。彼女は誰だったのか、そしてそれは事件の真相に関わるものなのか。


過去を隠すため別人に成り変って生きてきた女という点で、宮部みゆき火車を思い出します。でも、「火車」が消えた女を探し求めるストーリィであるのに対し、本作品は既に殺された女の過去を調べていくストーリィ。興奮感においてかなり劣ります。
主人公が彼女の謎を追求する必然性、それに見合う彼女の魅力が感じられず、納得感が得られないまま読み進みました。
また、謎の陰には東西のヤクザ社会がからみますが、私はヤクザが出てくるハードボイルドって好きではないのです。
そんなことから、評価は辛くなりました。

    

2.
「無縁旅人 ★★


無縁旅人画像

2014年03月
文芸春秋刊

(1600円+税)

2016年11月
文春文庫化

   

2014/05/05

  

amazon.co.jp

死後数日経った遺体として発見された片桐舞子、16歳。
彼女に、一体どんな殺されるような理由があったのだろうか。
養護施設を抜け出した後、孤独の内に死んだその悲しい姿に、刑事たちが気持ちを篭めた捜査に乗り出します。
その過程でクローズアップされたのは、居場所を失い、ネットカフェを渡り歩く等して都会の片隅で生きる若者たちの姿。彼らがそんな状態に陥ったのは、決して彼らの所為ではない。
その一方、そうした若者たちを救う活動をするNPOの存在も浮かび上がってきます。そしてその一員として活動する
辻原竜もまた、舞子と同じようにネットカフェ暮らしを経験してきた若者だった。

過酷な状況に置かれても、片桐舞子は自分の力で強く生きようとしていた。だからこそ、彼女をこんな目に合わせた犯人への怒りがこみ上げます。それは捜査にあたる刑事たちだけでなく、読み手もまた共有する思いでしょう。
片桐舞子という一人の孤独な少女の面影が全篇を哀しく覆っていて、印象的です。
一応は殺人事件を捜査する警察ものというストーリィですが、主旨は、現代社会の歪んだ実相を告発する処にある作品ではないかと思います。

生死に捉われず、懸命に生きようとしていた舞子、そして辻原竜らの姿が、ストーリィが終った後いつまでも胸を打ちます。

   


 

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