山秋子作品のページ No.3



21.小松とうさちゃん

22.夢も見ずに眠った。

23.御社のチャラ男

24.まっとうな人生 

25.神と黒蟹県 


【作家歴】、イッツ・オンリー・トーク、海の仙人、袋小路の男、逃亡くそたわけ、ニート、沖で待つ、絲的メイソウ、エスケイプ/アブセント、ダーティ・ワーク、豚キムチにジンクスはあるのか

 → 絲山秋子作品のページ No.1


ラジ&ピース、ばかもの、北緯14度、絲的サバイバル、妻の超然、末裔、不愉快な本の続編、不愉快な本の続編、忘れられたワルツ、離陸、薄情

 → 絲山秋子作品のページ No.2

 


          

21.
「小松とうさちゃん ★★☆


小松とうさちゃん

2016年01月
河出書房新社

(1400円+税)

2019年12月
河出文庫



2016/02/11



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最初、題名に絲山さんらしからぬものを感じてどうなんだろう?と思ったものです。
新幹線車中で知り合った大学非常勤講師の
小松さんと、人に言うのが憚られる“見舞い屋”仕事のみどりさんという52歳同士の恋愛を、小松さんの飲み友達であるネトゲのサラリーマン=うさちゃん(宇佐美)が応援するという中年恋愛ストーリィ。

130頁余りの中編小説なのですが これが実に良いんです。
恋愛事にまるで疎い小松さんとバツイチであるみどりさんの、知り合ってから徐々に親しみを深めていく様子が何とも穏やかで素朴、そして安らぎが感じられて微笑ましいのです。
ところが問題が一点、それは“見舞い屋”の仕事を仕切る
八重樫という男の存在。八重樫、みどりさんをあくまで自分の手中に収めて起きたいのか、小松さんに向けて直接的な行動に出てくるんです。
恋愛指導役のうさちゃんと、妨害者の八重樫、果たして勝利はどちらの手に・・・・という趣向ではないのですが、小松さんとみどりさんの恋愛が成就するかどうかは、どうも2人にかかっているようです。

本ストーリィの雰囲気がとても好きです。恋愛は決して若い人たちだけのものではないですよね。

掌篇
「ネクトンについて考えても意味がない」、南雲咲子さんという老女の意識と精神を持つミズクラゲが海の中で出会って会話する話。“ネクトン”とは、イルカとか水の流れに逆らって自力で泳ぐことのできる生き物のことだとか。咲子さんとミズクラゲはそれとは対照的な存在ですが、それでもいいよなァと感じさせてくれるところが快い。

掌編
「飛車と騾馬」は、「十年後のこと」というテーマに沿って沿って書かれた作品とのこと。飲み仲間である小松さんとうさちゃんを描いた掌篇で、これが「小松とうさちゃん」に繋がったそうです。その意味では興味津々。

小松とうさちゃん/ネクトンについて考えても意味がない/飛車と騾馬

                     

22.
「夢も見ずに眠った。 ★★


夢も見ずに眠った

2019年01月
河出書房新社

(1750円+税)

2022年11月
河出文庫



2019/02/22



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大学時代の仲間という関係から進んで夫婦となった沙和子、高之の2人を主人公に、スレ違い、離別、そして再会という年月と足跡を、それぞれの視点から描いた長編。

各章において、沙和子、高之は、一緒に、別々に、全国のいろいろな土地を歩き、旅します。
人生とは、あたかも様々な土地を旅することに似ている、と語っているかのようです。
旅であれば、出会いがあり、そして別れがあるのは、行き先が違えば当たり前、仕方ないこと。
でも、運が良ければまた出会うこともある、というもの。

夫婦だからといって、互いを束縛するのはどうなのか。お互い解き放つことがあっても良いのではないか。
新しい夫婦の在り方が、そこに芽を覗かせているように感じられます。

ただし、この夫婦、いろいろな細部において少々特別、だからこそのこの展開、という気もします。
高之はちょっとヘンなところがありますし、沙和子もまたわがままなところがある、といった印象。
それでも、憎み合うような関係にならないで済んだことは、幸いと言うべきでしょう。

なお、2人があちこちの土地を散策し、あるいは旅する場面は、旅好きとしては楽しいところです。


1.晴れの国−2010年9月/2.メソポタミアの娘−2011年11月/3.大きな窓の家−2014年5月/4.居留守の世界−2014年7月/5.猫の名前−1998年11月/6.生きるスピード−2015年10月/7.街のトーン−2016年4月/8.東へ走る猪−2016年9月/9.なにもかもがそこに−2016年11月/10.遠い楽園−2017年12月/11.大きな木のもとに−2022年4月/12.沙和子さん、行っておいで−2022年6月

               

23.
「御社のチャラ男 ★★☆


御社のチャラ男

2020年01月
講談社

(1800円+税)

2024年01月
講談社文庫



2020/02/11



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まず題名の「チャラ男」とは何ぞや? 
「チャラチャラした」という、言動が軽薄な若い男性に対する形容語からの派生らしいのですが、会社員としてみるならば軽薄、無責任、というところでしょうか。

舞台は、地方企業の<
ジョルジュ食品>。
その会社で「チャラ男」とは、コネ入社して現在部長の職にある
三芳道造のことらしい。
本作は上記の三芳部長のチャラ男ぶりを、部下社員ら多くの人々の目から描き、そして各人の人物なりも同時に炙り出すといった構成の連作式ストーリィ。

三芳部長をコケにする発言もあれば、好意的に見る発言もある、といったように人によって評価は様々。
それは、三芳部長との関係にもよるのでしょう。
上司ともなれば、迷惑、厄介、その尻拭いで仕事が増える、といった具合。
一方、直接の利害関係がないとなれば、ああした人間でもいられるのだと、安心していられるという具合。

各人のチャラ男評を読んでいる内に、ふと「チャラ男」とはどんな存在なのだろう、と考えるに至ります。
何処にでもいる、そして誰しも時にそうなることがある存在なのではないか、と思えてきます。
チャラ男を批判する各人も、決して完璧な人物という訳ではありませんし。
ですから相見互い、チャラ男とそうでない人間との差は、そう大きくないのかもしれません。
また、チャラ男の存在が許されているってある意味、気持ちが楽になることではないかと思います。

様々な会社員像+αを描いた“会社員”小説の傑作。
絲山秋子さんの上手さ炸裂、といった印象です。お見事!

当社のチャラ男−岡野繁夫(32歳)による/我が社のチャラ男−池田かな子(24歳)による/弊社のチャラ男−樋口裕紀(24歳)による/社外のチャラ男−一色素子(33歳)による/地獄のチャラ男−森邦敏(41歳)による/愛すべきラクダちゃんたちへの福音−三芳道造(44歳)による/わたしはシカ男−穂積典明(69歳)による/各社のチャラ男−佐久間和子(48歳)による/チャラ男のオモチャ−山田秀樹(55歳)による/チャラ男における不連続性−伊藤雪菜(29歳)による/チャラ男の前釜−磯崎公成(58歳)による/イケメンの軸−池田治美(50歳)による/御社のくさたお−葛城洋平(36歳)による/酢と油、祝いと呪い−岡野繁夫(33歳)による/ゴールズワージー、それがどうした−伊藤雪菜(30歳)による/その後のチャラ男

                       

24.
「まっとうな人生 ★★


まっとうな人生

2022年05月
河出書房新社

(1720円+税)



2022/06/08



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逃亡くそたわけ、20年ぶりのその後。

上記作で逃走劇を繰り広げた
花ちゃんは今、富山で10歳上の夫=アキオちゃんと10歳の娘=佳音と平凡な日々を過ごしています。
といって、昔の躁鬱病(今は双極性障害)が完全に治ったという訳ではなく、今も時々不安に駆られることもあり。

その花ちゃん、何と富山市内で
なごやん一家(妻:亜里沙、息子:拓海・小一)と十数年ぶりにばったり出会ってしまう。
そこから両家族の間に、一緒にキャンプへ行ったりと交流が始まるのですが・・・。

ごく日常的な出来事が綴られていきます。佳音の成長を感じさせられる出来事もあれば、新型コロナ感染の影響でいろいろな苦労も生じます。
でもそれはあった当たり前、そうしたことの繰り返しがごく普通の人生でしょうし、それこそが「まっとうな人生」と言うべきものなのでしょう。

そんな平凡なストーリィになりかねないところに刺激を与えているのは、なごやんの登場であり、なごやん一家との交流。
なにしろ花ちゃん、過去になごやんという男性と一緒に逃走劇を繰り広げた過去があるのですから。
そんな二人のやりとりが、ユーモラスで面白い。良いことばかりではなく、喧嘩も2人の間で繰り広げられますが、それもあって当然のこと。

平凡な家族生活の大事さ、温かさをじっくり味わえる一冊です。

2019年4月〜7月@/2019年4月〜7月A/2019年12月〜2020年2月/2020年2月〜4月/2020年5月〜7月/2020年9月〜11月/2020年11月〜2021年2月/2021年3月〜6月/2021年7月〜8月/2021年8月〜10月

               

25.
「神と黒蟹県 ★★


神と黒蟹県

2023年11月
文藝春秋

(1800円+税)



2023/12/11



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架空の県を舞台にした、連作ストーリィ。

他県から赴任してきた会社員、地元TV出演のためにやってきた芸能人らに、この県で生まれ育った者が自分たちが暮らすこの土地について語る中で、この土地がもつ様々な顔が浮かび上がる、という案配。

県庁を有し、新幹線も止まるビジネス中心地の
紫苑市と、黒蟹城を擁し歴史的な街並みの残る灯篭寺市の仲の悪さ、その他の市や町が抱える事情、もうひとつぱっとするものがないといったボヤキ、日本全国あちこちの県で如何にもありそうな“あるある”話が実に面白い。

また、それだけでは平凡な話に終わりかねないところ、この地に住む
“半知半能の神”(全知全能ではない)の登場がとても面白い。やけに人間的であったり、無知だったりして。

日本に八百万の神がいるのであれば、ここ黒蟹県にも神がいて何の不思議もありません。でも半知半能とは・・・・それがあってついつい黒蟹県に親しみ、愛嬌を感じてしまいます。

まずは貴方も本書の頁を繰り、「遠くへ行きたい」の旅気分で、この黒蟹県に足を踏み入れてみてください。
きっと愉しい時間を過ごせることと思います。


※各章の末尾に付されている<黒蟹辞典>、架空のものもあれば、実在のものもあり。この辞典部分だけでも結構面白き哉。

黒蟹営業所/忸怩たる神/花辻と大日向/神とお弁当/なんだかわからん木/キビタキ街道/赤い髪の男/神と提灯行列

      

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