|
|
1.イッツ・オンリー・トーク 2.海の仙人 3.袋小路の男 4.逃亡くそたわけ 5.ニート 6.沖で待つ 7.絲的メイソウ 9.ダーティ・ワーク 10.豚キムチにジンクスはあるのか(文庫改題:絲的炊事記) |
ラジ&ピース、ばかもの、北緯14度、絲的サバイバル、妻の超然、末裔、不愉快な本の続編、不愉快な本の続編、忘れられたワルツ、離陸、薄情 |
小松とうさちゃん、夢も見ずに眠った、御社のチャラ男、まっとうな人生、神と黒蟹県 |
●「イッツ・オンリー・トーク」● ★☆ 文学界新人賞 |
|
2006年05月
|
文学界新人賞を受賞した「イッツ・オンリー・トーク」と「第七障害」の中篇小説2作を収録。
「イッツ・オンリー・トーク」は、蒲田の古いアパートに移り住んだ優子が主人公。以前精神を病んで入院した後、OLを辞めて絵を描き始めた。最初こそ賞をとって絵も売れたものの、今はさっぱりでOL時代の貯金を取り崩しての生活。男性関係はうまくいかず、薬も未だ欠かせないという、滅入っても当然のような状況。繋がりが保てているのは、痴漢のkさんに鬱病のヤクザ、元ヒモの従兄。しかし、そんなヘンな人たちとでも、人と人との繋がりを保てている分、そして従兄を気遣うことができる分、優子には明るさを窺うことができます。 「第七障害」は、競技中の事故で愛馬を死なせてしまった早坂順子が主人公。自責の念から群馬を離れ、また元恋人からも逃れるように東京に移り住む。 2篇とも、滅入るような状況の中でも明るさを見出すことはできる、そんなメッセージを感じる作品です。押し付けがましくないいところが好い。まとまりの良さ、文章の滑らかさも魅力です。糸山さんの今後への期待が膨らむ一冊。 イッツ・オンリー・トーク/第七障害 |
●「海の仙人」● ★☆ 芸術選奨文部科学大臣新人賞 |
|
2007年01月
|
敦賀の海近くに一人ひっそりと暮らす主人公。その元に現れたファンタジー。 帯の紹介文は「心やさしい男と女と神様」。 |
●「袋小路の男」● ★★☆ 川端康成文学賞 |
|
2007年11月
|
「袋小路の男」は、高校時代から始まる12年間、指さえ触れることのないままに一人の男性を想い続けたストーリィ。 「小田切孝の言い分」は、前作が女性主人公の一人称で語られたのに対し、両人を俯瞰的に眺める三人称で語られます。前作からさらに延びての18年間。 ※「アーリオ オーリオ」は夢を追う弟を主人公に、現実的な兄と、叔父の感性に共感する高校生の姪の三者関係を描いた作品。 袋小路の男/小田切孝の言い分/アーリオ オーリオ |
●「逃亡くそたわけ」● ★★ |
|
2007年08月
|
福岡にある精神病院に躁鬱病で入院中だった私(花ちゃん)は、同じく入院患者だった24歳のサラリーマン・なごやん(蓬田司)を無理やり誘い出し、病院から逃亡します。 率直に言うと、本書についてはあれこれ言う必要なし、興味を惹かれたなら迷わず読んでみればいい。余計な言葉は不要、と感じます。 主人公となごやんは古いルーチェで走り出し、一路阿蘇へと向かいます。その後は当然のように更に南へ南へ。この2人以外の登場人物は時折、そして僅かしか登場しません。殆ど2人だけのストーリィですが、むしろそこが良い。 最初の頃のハラハラするような雰囲気が、旅をずっと続けることによって徐々に前向きなものに変わっていきます。 一面、漫才コンビの道中記の如きコミカルな部分もありますが、2人の間に広がっていく温もり、連帯感が素敵です。 |
●「ニート」● ★☆ |
|
2008年06月
|
絲山さんがあえて新境地に挑んだといえる短篇集。 「ニート」と「2+1」は、ようやく作家として売れ始めた女性主人公が、ニート青年を家に引き取って面倒をみるというストーリィ。 私好みのなのはむしろ「へたれ」。東京のホテルマンである青年が大阪に住む恋人の元へ向かう新幹線車中での心模様を描いた作品です。大阪で歯医者をしている松岡さんのことを思う一方で、自分を育ててくれた名古屋の笙子さん(亡母の従姉妹)に思いを馳せます。最終的に彼は松岡さんと笙子さんのどちらを選んだのか。ぼぉーっと現れた影が徐々に姿を整えていくような展開に、軽やかで楽しげな雰囲気が感じられて好ましい。 ニート/ベル・エポック/2+1/へたれ/愛なんかいらねー |
●「沖で待つ」● ★★☆ 芥川賞 |
|
2009年02月
|
「勤労感謝の日」は軽快かつ痛快。 「沖で待つ」は楽しく、気持ち良い。そして笑える一篇。 勤労感謝の日/沖で待つ |
●「絲的メイソウ」● ★★ |
|
2009年09月
|
絲山さんの初エッセイ集。薄いし割とあっさりと読めてしまう一冊です。 会社員時代の経験に基づくエッセイが主体。 「自分の取説」とは何の意味かと思ったら、「取扱説明書」の省略形でした。本書を通じて判る絲山秋子像のエッセンスを端的に書き出した章と言えます。 絲山の由来/禿礼賛/さあ、モテましょう!/うまい話があるんだよ/寝言は寝て言え/男は外、飯は別/祭嫌い/世の中よろず五七調/タンスの大奥/アンチグルメ体験/喫煙党/講談社24時/勝ち負けなんてしみったれ/下り坂ドライブ/自分の取説/恋のトラバター/男たちよ、本を読むな!/群馬人絲山/無駄と無意味 |
●「エスケイプ/アブセント」● ★★ |
|
2010年01月
|
改めて絲山秋子っていう人は、凄い作家だなァと思う。 「エスケイプ」は、学生時代からの革命運動家、江崎正臣40歳がセクトを抜け、故郷で妹の始める託児所を手伝う決意をする。その故郷に帰る前、ふと寝台急行・銀河に乗り込み、行き着いた先は京都。その京都での正臣の一幕を描いた篇。 どちらも特に何かが起きる、というストーリィではありません。でも、一方は東京から京都へ(正臣)、もう一方は福岡から京都へ(和臣)と、ほんの短い旅の中に2人の越し方がはっきり浮かび上がってくるようです。平凡ですけれど、それこそ人間らしい生き方だと感じさせられるところがあります。 エスケイプ/アブセント |
●「ダーティ・ワーク」● ★☆ |
|
2010年05月
|
正直なところ、主題がどこにあるのかつかみにくい連作短編集なのです。 そのうちふと気づきます。後の章にて苗字で登場する人物が、前の章にて名前で呼ばれていた人物であることを。 第一章の主人公である、熊井望(のぞむ)というごつい名前の女性ギタリスト。彼女が忘れられないでいるかつての仲間TTが、後の章で出てきたのは他人事ながら嬉しい。 worried about you/sympathy for the devil/moonlight mile/before they make me run/miss you/back to zero/beast of burden |
●「豚キムチにジンクスはあるのか−絲的炊事記−」● ★☆ |
|
2011年01月
|
雑誌「Hanako」に一年間連載(06.01〜07.01)したエッセイ「絲的炊事記」の単行本化。 かなりハチャメチャな、料理作りエッセイです。 昔、作家という人種はどこか変人で型破りな人間が多いと思っていたのが、最近では作家もごく普通の人と思うようになっていましたが、本書でまた元に戻りました。 |
絲山秋子作品のページ No.2 へ 絲山秋子作品のページ No.3 へ