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1.時空旅行者の砂時計 2.孤島の来訪者 3.名探偵に甘美なる死を 4.アミュレット・ホテル 5.少女には向かない完全犯罪 |
「時空旅行者の砂時計 The Time and Space Traveler's Sandglass」 ★★ |
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2023年09月
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加茂冬馬の妻=伶奈は急病で生死が危ぶまれる状況。 そして彼女が口にしたのは、「竜泉家の呪いからは絶対に逃れられない」という言葉。 絶望感にかられる冬馬のスマホに電話を掛けて来たのは、マイスター・ホラと名乗る人物。そのホラ、冬馬が1960年の過去に戻り、当時起きた妻の祖先である竜泉家を襲った惨劇の真相を明らかにして惨劇を防げば、運命が変わり伶奈を救うことができる筈と明言します。 その言葉を信じ、冬馬は<奇跡の砂時計>により1960年にタイムトラベル。 辿り着いた先は志野、竜泉家の別荘。当主である竜泉太賀の誕生日祝いに一族が大勢集まっていた。 土砂崩れで竜泉一族が死ぬに至った「死野の惨劇」まであと4日間、冬馬は別荘で起きた殺人事件の真相を解明することができるのか・・・。 冬馬とマイスター・ホラのタイムトラベルは、単なる舞台設定、ミステリ解明のための時限設定のためと思いきや、それにとどまらないところが本作の特徴。 なにしろ、冬馬が1960年に戻って最初に出会った人物、13歳の竜泉文香に早々から未来から来た人間であることがバレてしまうのですから。 前半、竜泉一族の人間が次々と殺害されるという展開。そして後半に至って真相解明という展開。 とにかく驚かされ、呆れる程なのは、仕掛けの多いこと。真に限りなし、という具合です。 そもそもタイムトラベル自体が、ミステリの真相と不可分に結びついているのです。まさにミステリ&タイムトラベルもの。 その仕掛けの多さは、タマネギの皮を剥くに等しい。 本作を気に入るかどうかは、読者を翻弄し尽くす仕掛けの多さを是とするか否とするかでしょう。 私については、エピローグの仕掛けが気に入りましたので、是という結論です。 仕掛けの多さに興味を持たれた方、是非挑戦してみてください。 ※かのエラリー・クイーンのように「マイスター・ホラによる読者への挑戦」もありますよ。 マイスター・ホラによる序文/プロローグ/第一章〜第六章/マイスター・ホラによる読者への挑戦/第七章/エピローグ |
「孤島の来訪者」 ★★ | |
2024年01月
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<竜泉家の一族>シリーズ第2弾。 ミステリと思って読み始めたのですが、主人公たちが撮影のため赴いた幽世島(かくりょじま)で待ち受けていたものは・・・。 これってホラー?? でもやはりミステリなんですよねー。 「時空旅行者の砂時計」でも驚かされましたが、本作でも驚かされました。よくやるなぁ、の一言。 読む人の好み次第と思いますが、前作と同様、特殊な舞台設定に何層にも仕掛けられた謎解き、私は存分に楽しめました。 45年前に起きた<幽世島の獣>事件で島民12人全員が殺され、今は無人島となっている鹿児島県の幽世島。 撮影のためその島に赴いたのはTV制作会社のスタッフ、カメラマン、学者等、計8人、 その内の一人である主人公=竜泉佑樹は、メンバーの内3人に対し、殺された幼馴染の復讐を計画していた。 しかし、島には45年毎に現れるという異世界からの化け物<マレヒト>が待ち構えていて、佑樹に先んじて仇を殺してしまう。 そこから佑樹は、復讐者転じて探偵役となり、マレヒトとその謎に対決することになるのですが・・・。 竜泉の一族といっても本ストーリィに竜泉家は絡みません。 また、マイスター・ホラも、前作のような鍵を握る重要な存在となることはなく、単にストーリィの案内役兼「読者への挑戦」を仕掛ける役割というだけ。 普通、<挑戦>の後は<真相解明>で完結する筈なのですが、そこから二転三転する処が、方丈さんの喰わせ者らしさ。 ※マレヒト、不気味で恐ろしいのですが、中々面白い存在です。 マイスター・ホラによる序文/新聞記事と「アンソルヴド」(一)/プロローグ.船上にて/菜穂子の死/第1章.本島−撮影準備/「アンソルヴド」(二)/第2章.本島−撮影開始/菜穂子の遺書と新聞記事/第3章.本島−撮影中断/第4章.本島−異常事態/三雲の父/第5章.本島・神域−分断/第6章.本島・神域−合流/マレヒトの独白(一)/第7章.本島−暗号解読/マレヒトの独白(二)/第8章.本島−襲撃対策/マイスター・ホラによる読者への挑戦/第9章.本島−推理披露/第10章.船上−事件終結/エピローグ.船上にて |
「名探偵に甘美なる死を Delicious Death for Detectives」 ★★ | |
2024年05月
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<竜泉家の一族>シリーズ第3弾。 相も変わらず複雑な構成のミステリです、このシリーズは。 でもそこに中毒的な魅力がある訳で、手に取らずにはいられません。 今回は、仮想空間メタバース(VR空間)と現実世界、その双方にまたがる殺人事件の謎を追うミステリ。 加茂冬馬の元に、世界有数のゲーム会社=メガロドンソフトのゲームプロデューサーだという椋田千景から、VRミステリゲームのイベントで犯人役を務めてほしいという依頼があります。 引き受けた冬馬は事前作業を経て、瀬戸内海の戌乃島にあるメガロドン荘に赴きますが、そこに集められていたのは冬馬を含む素人探偵8名。なんとその中には、妻の従兄弟である竜泉佑樹の姿もあった。 しかし、思わぬことにそのイベントは、単なるゲームなどではなく、彼らに対する復讐の罠だった。 彼ら自身の命ばかりか、および彼らの大事な人たちまで人質に取られ、素人探偵8名は否応なく生死をかけたゲームに参加させられます。 それも何と、VR空間と現実世界の双方で起きる殺人事件の解明という複雑な設定。そして早速、彼らの中の1名が死体となって発見されるという事件が発生し・・・。 VR空間と現実世界での事件がごちゃまぜとなって進んでいきますから、頭を整理して付いていくのは、中々至難のこと。 それでも犯人を特定するための丁々発止のやりとりは、結構スリルがあります。 その辺りも面白いのですが、事件の背後にあった思わぬ謎が事件解決後に明らかにされる、というところが特に私には面白い。 成る程、だから<竜泉家の一族>シリーズなのかと納得させられます。 なお、マイスター・ホラによる「読者への挑戦」、本作では2回あります。お楽しみに。 マイスター・ホラによる序文/プロローグ/ 第1章.キックオフ・ミーティング/第2章.試遊会 一日目 オープニング/第3章.試遊会 一日目 チュートリアル/第4章.試遊会 一日目 第一波/第5章.試遊会 二日目 調査フェーズ@/第6章.試遊会 二日目 調査フェーズ@/第7章.試遊会 二日目 解答フェーズ@/第8章.試遊会 二日目 第二波と調査フェーズB/マイスター・ホラによる読者への第一の挑戦/ 第9章.試遊会 二日目 解答フェーズA/第10章.試遊会 二日目 第三波/第11章.試遊会 三日目 調査フェーズC/マイスター・ホラによる読者への第二の挑戦/ 第12章.試遊会 三日目 解答フェーズB/第13章.試遊会 三日目 解答フェーズC/エピローグ |
「アミュレット・ホテル Amulet Hotel」 ★★ | |
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方丈貴恵さんと言えば<竜泉家の一族>シリーズ。このシリーズはかなり難解なところがあるので読むのも大変でしたが、今回は連作ミステリと趣向が変わり、まず興味を惹かれます。 舞台はなんと、犯罪者御用達という“アミュレット・ホテル”。ただし、<本館>は一般者向け、<別館>が厳重に管理され会員である犯罪者のみが利用できるという仕組み。 その別館で利用できるサービスが凄い。要望すれば、偽造パスポート、兵器、機密情報等々、何でもあり、というのですから。 その別館で起きる殺人事件といえば、当然ながら被害者も関係者も全員、トップクラスの犯罪者たちという訳。したがって、警察に通報するなど問題外。 オーナーの諸岡やフロント係の水田が見守る中、“ホテル探偵”である桐生が、限られた時間内で推理を巡らし、事件の真相を解明しその後の処理も行う、というのが本書ストーリィ。 第一章の冒頭、女性が男性を絞殺するという場面から始まりますが、もうそこからゾクゾクする面白さを感じます。 そして各事件の謎はいずれも相当に難解なもの。限られた時間(その場限り)の中で桐生はいかに真相を解明するのか、その緊張感にもまた、ピリピリするようなサスペンス感あり。 とくに最終章、「タイタンの殺人」が圧巻です。 趣向の面白さが本作の魅力。お薦めです。 ・「アミュレット・ホテル」:密室殺人事件。しかも遺体の傍らにはホテル従業員。犯人は彼か? ・「クライム・オブ・ザ・イヤーの殺人」:桐生がホテルに雇われる前の事件。犯人は桐生? ・「一見さんお断り」:4篇の中ではちょっと異色。 ・「タイタンの殺人」:犯罪王たちが集まった会議中での殺人。有力容疑者は諸岡? 1.アミュレット・ホテル/0.クライム・オブ・ザ・イヤーの殺人/2.一見さんお断り/3.タイタンの殺人 |
「少女には向かない完全犯罪」 ★★ | |
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本作題名、ホリー・ジャクソンの三部作似ていたのでつい連想してしまったのですが、全く異なるストーリー。 そこはやはり方丈貴恵さんらしい、独自の世界観に基づくミステリ・サスペンス。 黒羽烏由宇は、何者かによってビルの屋上から突き落とされ、病院で4ヶ月間意識不明のまま。しかし、ふと気づくと幽霊となっていた。 その黒羽が必然的に出会ったのは、両親を殺された小6少女の三井音葉。 黒羽を殺そうとし、また音葉の両親を殺した犯人は、共に“完全犯罪請負人”なのか? 二人は<幽霊+小6少女>という強力タッグを組み、真犯人を捕らえて復讐するため、行動を開始します。 しかし、音葉曰く、幽霊が存在できるのは7日限りという。 行動を開始した二人の前に現れるのは、“逆さま殺し”の異名をとる連続殺人鬼に、県警捜査一課の超人刑事=唐津警部補。 果たして黒羽は、音葉の安全を守りつつ、真相を突き止めることができるのか。 これまでの<竜泉家の一族>シリーズに比べて本作が親しみやすく感じられるのは、音葉の存在があるからでしょう。 前半、黒羽が迷コンビとなった音葉相手に、謎を解くための思考法、技術等を伝授しながら、事件追求を進めていく展開は、十分に面白い。 そして後半、2人が行き着いた真相は、一転、二転、三転と驚くべき展開へと至り、読み手としてはもうお手上げ、付いていくのがやっとという具合です。 事件の真相は如何に? どうぞお楽しみに。 なお、音葉の聡さ、度胸、行動力は、本作における大きな魅力です。 プロローグ/第一章/インタールード1/第二章/インタールード2/第三章/インタールード3/第四章/インタールード4/エピローグ |