羽鳥好之
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1959年生、群馬県前橋市出身、早稲田大学仏文科卒。64年文芸春秋に入社し、「オール讀賣」編集長、文芸書籍部長、文芸局長と、一貫して小説畑を歩む。2021年日経小説大賞最終候補作となり、大幅な改稿を経て22年文芸春秋退職後、「尚、赫々たれ」にて作家デビュー。同作にて第12回日本歴史時代作家協会賞新人賞を受賞。


1.尚、赫々たれ 

2.遊びをせんとや 

  


       

1.

「尚、赫々たれ−立花宗茂残照− ★★   日本歴史時代作家協会賞新人賞


尚、赫々たれ

2022年10月
早川書房

(2000円+税)



2022/12/29



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時代小説をいろいろ読んできたつもりですが、本作の主役である立花宗茂のことは殆ど認識していませんでした。
関ヶ原で西軍に属し、敗将。その結果改易となり領地を失うものの、本多忠勝の推挙で江戸城に召し出され、家康・秀忠から高く評価され、秀忠の御伽衆となり、改易後にただ一人旧領を回復した武将、とのこと。

本作が見事なのは、この立花宗茂を主人公に置いたことに他なりません。その経歴といい、中々面白い人物です。
「関ヶ原の闇」は、宗茂と毛利秀元家光に呼び出され、関ヶ原の真実を語る篇。
これまでも関ヶ原の勝因・敗因は多く語られてきましたが、家康の胸中を含め、本ストーリィで語られるものほど斬新なものはない、と思います。これにはちょっと興奮を禁じ得ず。
「鎌倉の雪」は、前章で宗茂が出会うに至った天寿院(千姫)に誘われ、天寿院の鎌倉行きに宗茂が同行する篇。
天寿院、
天秀尼(秀頼の遺児)、さらに甲斐のぼうの城)という3姫の語らいに宗茂が同席するという展開が面白い。
「江戸の火花」は、加藤家肥後熊本藩の騒動に絡み、宗茂が家光に決死の意見を言上する篇。これはかなりスリリングで読み応えあり。

本作を俯瞰してみると、敗者側、少数側の視点に立って描いた時代小説ではないかと思います。その点が面白い。
宗茂だけではなく、毛利秀元も、天寿院らも然り。そしてさらに家光までも?という処が絶妙。

本作で描かれる立花宗茂、戦国武将という枠を超えて魅力的な人物でした。


1.関ヶ原の闇/2.鎌倉の雪/3.江戸の火花

              

2.

「遊びをせんとや−古田織部断簡記− ★★☆   


あそびをせんとや

2023年11月
早川書房
(2000円+税)



2024/03/16



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千利休亡き後、茶の湯者の頂点に立ち、“武家式正茶”を確立させた古田織部
その織部は、何故
家康によって突然に自裁させられたのか。そしてその時、織部は何を思ったのか。
その謎を解かんとする、歴史時代ミステリ。

主人公となるのは、毛利の支藩主(長門)である
毛利秀元
そして
尚、赫々たれの主人公である立花宗茂がその朋友として登場します。同作の面白さから、それだけでも充分に気をそそられる、というものです。

秀元に元に博多の豪商から送られてきたのは、古田織部が書き記したらしい茶掛。
その上段には
「−あそびをせむとや」、下段には「−これにて仕舞い」という言葉が走り書きされていた。しかもその日付は、織部がまさに自裁したその日。
茶の湯の師である織部がその文に込めた意味を知りたい、いや知らなければならないと、織部が自裁を命じられた理由を含め、最後の茶客となった人物や事情を知るだろう人物を訪ね、聞き知ろうとします。

また上記ストーリーと並行して、秀元と、毛利本家の当主となった
秀就との対立、秀元の長門藩独立をかけた奮闘のことも描かれます。

本ストーリーから浮かび上がってくるのは、
・家康の思考傾向、それは信長や秀吉との対比で明らかに。
・また、家康が嫌ったものは何か。
・戦国大名たちと、幕府の官吏となった武士たちの違い。
それらを経て、最後に明らかにされる、古田織部が粛々と自裁に応じたその理由は・・・。

秀元の他、
立花宗茂、永井尚政、英勝院(家康の側室だったお梶)、細川三斎(忠興)といった人物たちの登場も、読み応えたっぷり。

歴史&ミステリ、さらに生き方まで論じた力作。お薦めです。


序/1.遊びをせんとや/2.比丘尼屋敷のダイアローグ/3.これにて仕舞い/エピローグ

         


  

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