蓮見恭子作品のページ


1965年大阪府堺市生、大阪芸術大学美術学科卒。2010年「女騎手」にて第30回横溝正史ミステリ大賞優秀賞を受賞し作家デビュー。20年「たこ焼きの岸本」にて第8回大阪ほんま本大賞を受賞。


1.ガールズ空手 セブンティーン(単行本刊行時題名:拝啓 17歳の私)

2.襷を、君に。


3.襷を我が手に(文庫改題:輝け!浪華女子大駅伝部)

4.始まりの家

5.メディコ・ペンナ 

6.人魚と過ごした夏
 

 


                  

1.

「ガールズ空手 セブンティーン Girls Karate Seventeen ★☆
 (単行本刊行時題名:拝啓 17歳の私)


ガールズ空手 セブンティーン

2013年06月
角川春樹事務所

2015年02月
ハルキ文庫

(680円+税)



2018/12/31



amazon.co.jp

高校の空手部に所属する女子高校生を中心にした、連作風の学園もの青春ミステリ。

6章からなる連作風ストーリィですが、主人公は3パターンに分けられます。
ひとつは、
此友学園空手道部に所属する結城姉妹
ひとつは、結城姉妹と親しい写真部の
辰巳晴人
そしてもうひとつは、結城姉妹とどういう関係なのか、同じ姓をもつ
和穂。こちらは摂北学院の1年生、どうも訳アリで空手を止めたらしい。

ミステリといってもそこは学園ものですから、謎は仲間内の不協和音に関するものだったり、過去の出来事だったりと、内々のトラブルが主体。
そうした中、中学時代は団体の
<形>で優勝した結城姉妹が高校になってから団体<形>を嫌がり個人競技に注力するようになったのは何故なのか。2人以上に才能があった選手がいなくなったからなのか。晴人がその辺りを調べ始めるところから、和穂の存在がクローズアップされていきます。

結城という姓をもつ3人の女子高生が登場し、やたら名前を連呼させることがむしろストーリィを複雑にしているところがあるのですが、その辺りは凝り過ぎ、という印象を受けます。
ただ、ミステリ上の仕掛けもやり過ぎると惑わされるばかりで、面白さに繋がらない、という気がします。
最後、和穂ちゃん、頑張れ!という気持ちで読み終えられるのは、気持ち良いところですが。

被写体は初夢の彼方に/炎暑の怪談咄/花曇りの頃の憂鬱/拝啓 17歳の私/長雨ふって地固まる/そして、季節は巡りくる

       

2.
「襷を、君に。 ★★


襷を、君に。

2016年02月
光文社
(1500円+税)

2018年11月
光文社文庫化



2016/03/16



amazon.co.jp

福岡県にある港ケ丘高校陸上部を女子選手たちを中心に描く、爽快な青春&スポーツ小説。
本来はそれが目的競技ではないと鬼コーチは言うのですが、題名に「襷」とある通り、本ストーリィの主役は“駅伝”です。

主人公は倉本歩、中学時代はソフトボール部だったのですが、中学最後の駅伝に陸上部から頼まれて出場、走ることが好きと自覚します。
陸上部入部を目指して港ケ丘に進学するのですが、予想もしていなかった障壁が歩の前に立ち塞がります。
その一方、TVでその美しい走りに魅せられて自分も走りたいと思った選手が、何と同じ陸上部に・・・・。

読み始めの頃、本ストーリィについてはありふれたという印象を感じるところがあります。主人公の歩が目覚ましい成長や活躍を見せる訳でもなし。
しかし、視野を広げると、主人公以外の部員たちにも広く目を向けていて全体のバランスがよく取れていることに気が付きます。
そこに本作品の良さがあります。
また、こうした作品にしては 360頁と大部であるのは、それだけ丁寧に描いているということで、そこにも好感が持てます。

いわば、一応の主人公として歩の存在があるものの、本ストーリィの主役は部員たち全員、チームこそが主役であると言って的外れではないと思います。
部員の中には、皮肉屋だったり、引きがちな性格だったりする者もいますが、それら部員たちも含めて全員が愛おしい。

典型的な、これ以上ないというくらい爽快な、正統派青春&スポーツ・ストーリィ。
気持ち良さを味わいたい、という方に、是非お薦め。

                         

3.

「襷を我が手に ★★
 (文庫改題:輝け!浪華女子大駅伝部)


襷を我が手に

2017年11月
光文社

(1600円+税)

2021年01月
光文社文庫



2017/12/26



amazon.co.jp

実業団で有力なマラソン選手だった千吉良朱里(じゅり)は、陸上部が休部となるのをきっかけに引退を決意し、要請を受けて浪華女子大学駅伝部の監督に就任します。
しかし、大学駅伝部といっても、駅伝好きな新理事長の肝煎りによって創設されたばかり。朱里の監督仕事はまず選手を集めるところから始まりますが、有望選手はみな行き先が決まっていて朱里の付け入る余地はまるでない、といった状況。
それにもかかわらず、創設3年目には女子駅伝全国大会へ出場という目標を背負わされます。
奔走するうち、何とか駅伝部選手の人数だけは確保できたのですが・・・。

創部されたばかりの大学女子駅伝部を舞台にした、清新なスポーツ小説。
駅伝というと、箱根駅伝を描いた傑作=
三浦しをん「風が強く吹いているが思い出させられますが、同作のテーマが“挑戦”であったのに対し、本作のテーマは“成長”にあると言って良いでしょう。
もちろん、かつて実業団マラソン強豪選手であり、31歳となった今は監督という立場にある朱里と、まだ一人前のランナーとは言えない部員たちの関係は、片や指導者であり、片や指導される側であるのは当然のこと。
その一方で、過去に悔恨を抱えながら指導者の道を歩み始めた朱里、そして大学選手として新たに長距離ランナーの道を歩もうとしている部員たち。それぞれがこれまでの自分から脱却し、さらなる高みを目指す自分へと成長を遂げる、というストーリィは極めて爽快です。

前半こそ、主人公の朱里に負けず読み手もまたげんなりしてしまう展開ですが、それだけに終盤、一気に景色が切り替わっていくところは、空に突き抜けるくらい、すこぶる気持ち良い。


爽快な青春スポーツ小説がお好きな方には、是非お薦めです。


序章/転身/黎明/発進/停滞/団結/終章

                   

4.
「始まりの家 ★★


始まりの家

2018年08月
講談社刊

(1550円+税)



2018/10/05



amazon.co.jp

美容院を営む母と、その4人の娘+一人の息子という宇奈月家を描く家族ストーリィ。

宇奈月家一人一人の状況を、連作形式で描き出していくというストーリィ構成。
四女の葉月は企業経営者の妻に収まり、専業主婦として安定した生活。
長女の弥生はベテラン女優の専属ヘアメイクとして順調。
次女の如恵三女の文は、カリスマ美容師だった亡き父親が遺した“宇奈月ヘアーサロン”を守る母親の益美を手伝っている。
長男の睦は、妻とイタリアンレストランを経営中。

一見順調極まりないと思えた宇奈月一家でしたが、葉月が思い切った決断をしたことを皮切りに、宇奈月家に内在していた問題や秘密が次々と露わになっていく、まるで連鎖反応のように一気にボロボロと崩れ出す、というような展開へ。

それでも最後に踏みとどまれたのは、家族で助け合おうという気持ちが繋がったこと、そこには益美という、まるでゴッドマザーのような存在がしっかり足を踏ん張っていたから、と言って良いでしょう。

実際には、一人ずつもっと複雑な事情を抱えていますし、弥生がその専属となっていた女優=朝倉ミチが宇奈月家の埒外にいながら何故かひっかき回している、という印象。

登場人物は皆、30代〜40代と一人前の大人ばかり。それなのに、いざとなればしっかり繋がっているという処が、貴重な家族ストーリィと感じます。
なお、男性読者よりは女性読者向け、でしょうね。


大崎葉月/宇奈月弥生/宇奈月益美/宇奈月睦/伊澤文/鹿島如恵/深雪

               

5.
「メディコ・ペンナ Medico Penna−万年筆よろず相談− ★☆


メディコ・ペンナ

2021年11月
ポプラ社

(1600円+税)



2021/11/25



amazon.co.jp

神戸は三宮の山手、間口の小さな石造りの洋館がその店「メディコ・ペンナ」(ペンの医者という意味)はあります。
看板には
「万年筆には、人の生き方を変える力があります。あなたの人生を変えてみませんか」という文言が。

店の主人は、若そうだけれど白髪頭の男性=
冬木透馬
使う人に合わせた万年筆の調整と、国内外の様々な万年筆の販売と買取を行っています。
何も店の主人が占いや人生相談を受けている訳ではありません。訪れてきた客に丁寧に万年筆の試用や説明に応じているだけ。
それでも、それがきっかけとなって来店客に前に進もうという気持ちを起こさせる、メディコ・ペンナはそんな店です。

主人公の一人は、就活中の大学生=
野波砂羽(さは)。就活にことごとく失敗しどうしていいか分からない状態。バイト募集の貼り紙をみてメディコ・ペンナでバイトを始めます。
もう一人の主人公は
橋口博子、新聞社でずっと校閲記者。その一方で投稿サイトに自作小説を投稿中。そんなある日、出版社の編集者から声が掛かってくるのですが・・・。
上記2人を始め、この店を訪れる人がどんな悩みを持ち、どのようにして新しい道を見出していくのか。どうぞお楽しみに。

万年筆・・・私自身は、中学生になったばかりの頃使ったことがありますが、その後はずっと無縁。でも、今でも大事に万年筆が使われていることは認識していますし、本作を読むとそんな方たちが羨ましくも感じます。
新しい道に踏み出すきっかけにはいろいろなことがあるだろうと思いますが、それが万年筆、神戸、石造りの洋館と並ぶと、とてもお洒落な気がします。

新しい門出に新しい万年筆、それもまた良き哉。


1.あなたの人生が変わります/2.幸せな万年筆/3.不揃いなコレクション/4.我が道を行け/5.魔法の万年筆

                   

6.
「人魚と過ごした夏 ★★


人魚と過ごした夏

2023年06月
光文社

(1800円+税)



2023/07/19



amazon.co.jp

アーティスティックスイミングを素材にした、それぞれ個性的な高校二年女子3人の青春譚。

陣内茜は、小学校の頃から神崎水葉と一緒にオリンピックを目指してアーティスティックスイミングに取り組んできましたが、練習中に他の選手と足がぶつかって足指の骨にひびが入り、練習を休むことになります。
そうした中、クラスで変人視されいつも独りぼっちでいる同級生=
西島由愛の水泳練習を手伝うことになり、偶然にも趣味が一致することを知った茜は、由愛に急接近していきます。

独りぼっちでいることに慣れ、
Vlog(Video&Blog) を展開し将来は動画配信で生きていこうと考えている由愛は、茜の接近にペースを狂わされますが、水中での茜の動きはまるで人魚のようだと驚愕する。
一方、怪我の治った茜は練習に復帰しようとしますが、水葉たちからのプレッシャーを重く感じると同時に、思うように動かなくなった身体に限界を感じてしまう。
そして水葉は、茜の復帰を待ち望んでいるにもかかわらず、茜が由愛にかかずらっていることに苛立ちを感じてしまう。

体育系のアーティスティックスイミングとIT系のVlog、まるで対照的な世界をもつ少女たち、という取り合わせが楽しい。
そして気づけば、強化選手あるいは大学進学と次の段階に向けた岐路を迎えているという点で、3人は共通しているのです。

3人が次のステップを選択するまでに、どういう屈折があり、どうそれを乗り越えるのか、を描くストーリィと言えます。

新しい友との出会い、初めて見る世界、進路の選択、そして時には厄介なものにもなる友情・・・。
それはやはり高校青春ストーリィならではのもの。
競技への興味と合わせ、読後感はとても爽やかです。

アースイ始動!/デュエットの小さい方/風変わりなクラスメート/ユーチューバーと「モフモフ商店街」/夏休みの宿題?/人魚たちの夏/移行期/十月・リスタート/私の心はツインズカム/それぞれの場所へ/フィナーレ

    


   

to Top Page     to 国内作家 Index