彩坂美月(あやさかみつき)作品のページ


1981年生、山形県天童市出身、早稲田大学第二文学卒。2008年「ひぐらしふる」(結城未里名義)にて第18回鮎川哲也賞最終候補。09年「未成年儀式」にて第7回富士見ヤングミステリー大賞に準入選し、同作にて作家デビュー。


1.ひぐらしふる

2.夏の王国で目覚めない

3.柘榴パズル

4.僕らの世界が終わる頃

5.金木犀と彼女の時間

6.みどり町の怪人

7.向日葵を手折る

8.思い出リバイバル

 


           

1.

「ひぐらしふる」 ★☆


ひぐらしふる画像

2011年06月
幻冬舎
(1500円+税)

2016年04月
幻冬舎文庫



2013/02/03



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祖母の葬儀をきっかけにY県天堂市の実家に戻った主人公。久々に高校時代の友人らと再会する中、目の前に提示された謎を推理するという、ひと夏の連作ミステリ。
※1年半前の刊行当時、本書の表紙絵に惹かれました。綺麗なペン画、如何にも夏らしく、そして郷愁を呼び起こすような雰囲気で私好み。読む機会が中々得られなかったため、ついに読むのは真冬の時期となりました。(苦笑)

元々ミステリ好きの主人公が、友人らと高校時代を回想、あるいは高校時代の先輩と再会する等々の折に、高校時代に遭遇した事件、あるいは現在目の前に現れた謎の真相を次々と明らかにしていくという趣向の青春ミステリ。
一話一話のミステリはちと飛躍もあるように感じますが、それなりに楽しめるストーリィ。しかし、どこかに物が挟まったまま、という感がしないでもありません。
そして最終章となり、本書は一話一話のミステリだけでなく、実は本書全体が一つのミステリ、読者に対する仕掛けになっていたことが明らかになります。
そういえばなぁ、何か不自然に感じるところあったのです。それがそのまま本書の仕掛けだった、という次第。

しかし、ちょっと読者を引っ掛け過ぎな処があって、私はこの趣向、余り好きではありません。
読者の虚を突いたという処で、フェアとは思えない故。
その辺りは読者の好み次第ですが、主人公の身近で生じる謎ばかりですから、それなりに楽しめる夏情緒たっぷりの連作ミステリでした。

プロローグ/1.ミツメル/2.素敵な休日/3.さかさま世界/4.ボーイズ・ライフ/最終章.八月に赤/エピローグ

               

2.

「夏の王国で目覚めない」● 


夏の王国で目覚めない画像

2011年08月
早川書房
(1600円+税)

2018年08月
ハヤカワ文庫



2011/10/08



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書店の棚で「ひぐらしふる」という本を見つけて以来何となく気になっていた作家ですが、3作目である本書も評判が良いらしいと聞いて、試しに読んでみるかと思った次第。

主人公は高校生の天野美咲。父親がお互いに子連れ再婚をして以来、新しい家族になじめないでいる。
その反動でもあるかのように、幻想的なミステリ作家・
三島加深(かふか)のファンサイトから裏サイトに入り込み、同じ加深ファンの仲間との交流を楽しむようになります。
そのサイトに
ジョーカーと名乗る人物が現れ、彼らに「架空遊戯」への参加を呼び掛けてきます。その3日間にわたるミステリツアーに秘密厳守で参加し、各々に割り当てられた役を演じながら劇中の謎を解くと、最終勝利者には三島加深の未発表作品が貰える、というもの。
美咲を含め7人の参加者が集まりますが、ツアーの進行に連れ実際に事件らしい出来事が次々と起こり、その度に1一人ずつ、参加者が姿を消していきます。
美咲、恐怖にかられますが、もはやツアーから降りることは不可能。恐怖の内にツアーは続いていく、というストーリィ。

ストーリィの構成、仕掛けがしっかり構築されていて、主人公の美咲ならずとも、頁を繰るにつれ否が応でもスリリングさが増していきます。その辺り、見事なもの。
ただ、惜しいかな終盤、ダレル感じ。ひとつには、登場人物たちの人物像が少しも膨らんでいかないという点。ストーリィの仕掛けだけで終ってしまい、登場人物に関する面白みが今一歩。
もうひとつは、私があまりこうしたミステリを読まない、慣れていないという所為なのでしょうけど、謎解きがやけに七面倒くさい、こじつけのように感じられる点。

結局は好みの問題と言えそうですが、作家としての骨太さは感じました。今後の活躍を期待したい作家であるとは思います。

        

3.
「柘榴パズル ★★


柘榴パズル

2015年08月
文芸春秋

(1650円+税)

2021年05月
文春文庫



2015/09/20



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ちょっとボケが入り始めているが賢明な祖父=源一郎、一家の中心である母親=ショーコ、イケメンで2歳年上の兄=友広、10歳になるのに甘ったれな妹=桃子&猫の龍之助。主人公の美緒19歳を加えた山田一家は、最近の日本家庭には珍しくお互いが大好きで、いつもとても仲が良い。
そんな山田一家の周辺で起きる日常的なミステリを、主に美緒がワトソン役、兄の友広がホームズ役になって解決するというパターンで繰り広げられる連作ミステリ。

そしてもう一つ、本ストーリィにおける長編ミステリ要素は、ストーリィの中心である山田一家に関わるもの。
その証でもあるのか、各章の最初には、一家惨殺事件の新聞記事が織り込まれています。
思えば、冒頭から美緒や桃子らの山田一家には少々不自然なところがあったのです。しかし、それは後になって気づくこと。

・・・と言いたいところですが、実は本書の仕掛け、最初から察していました。何かで既に知っていたか、同じようなストーリィを何処かで読んでいるような気がしたからです。
それでも、お互いに家族を大切にし合っていることがはっきりと判る山田一家を中心に据えたストーリィは十分楽しいものです。

題名にある
「柘榴」とは、家族繁栄の象徴なのだそうです。
“家族”とは何なのか。皆がお互いに繋がろうとするから“家族”なのではないか、と思う次第です。
最後の衝撃の余韻はとても大きいものがあります。ちょっとやそっとでは忘れられそうにない程に。
だからこそ山田一家一人一人への愛しさがそこに篭ります。


プロローグ/1.金魚は夜泳ぐ/2.月を盗む/3.ゆりかご/4.家族狂奏曲/5.バイバイ、サマー/エピローグ

  

4.
「僕らの世界が終わる頃」 ★★☆


僕らの世界が終わる頃

2015年10月
新潮社

(1500円+税)



2015/11/19



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予想を遥かに超えて面白い作品でした。読めてとても満足。

主人公の
工藤渉は14歳。1年前に学校で起きたある事件以来、不登校、自分の部屋に引き籠り。
そんな状況の中で渉がふと始めたのは、ネットに自分の書いた小説を投稿すること。作品の題名は
「ルール・オブ・ルール」、作者名は「匿名少年」としたうえで現在引きこもりにあることを補足。
投稿したサイトで予想外に自分の書いた小説の人気が高まっていくことに喜びと居場所を見つけた気分だった主人公の気持ちを凍らせたのは、小説に書いた出来事によく似た事件が実際に起こったこと。そして、怖くなって作品を削除したのに、何者かが勝手にその続きを投稿したこと。しかもそこでは、主人公である
門倉詩織がどんどん窮地へと追い詰められていく・・・。
自分の思いに反して騒ぎが次第に大きくなっていくのに、渉は何もできず、ただ恐れおののくばかり・・・。

学校での居場所を失ったばかりか、ネット上とはいえやっと見つけた居場所さえまたしても奪われていく不安、自分の存在が抹殺されていくような恐ろしさ。そんな渉の内心がひしひしと伝わってきて、単なる読者に過ぎないというのに、渉と一緒に狂おしいような恐ろしさに駆り立てられる思いがします。そのことだけでも本作品は凄い、その迫真さたるや実にお見事!

そんな渉であっても、彼を心配して度々訪ねて来てくれる友人がいることに、何とも救われる気持ちがします。
本ストーリィは、作中小説のストーリィと並行して進行していく二重構造。加えて双方の登場人物が生き生きとしているので、両方のストーリィに深く絡み取られた気分です。
また、本ストーリィ中の事件も、作中小説での事件も共にスリリングですが(1年前に何が起きたのか、それもまた読者にとっては大いに気になる謎)、それ以上に心理的に追い詰められていく渉の内面が壊れずに耐えられるのかどうか、というスリリング面でも二重構造になっています。
友人たちを心配する渉の気持ちが、渉自身を変えていく。ストーリィ中で時折り洩らす渉の幾つもの言葉が胸に響いて来て、実に秀逸。
サスペンスとしても、渉の再生&成長ストーリィとしても、傑作と言って過言ではないと思います。お薦め!


プロローグ/1.匿名少年/2.虚構と現実/3.殺人鬼/4.悪い夢/5.挑戦状/6.世界とセカイ/エピローグ

               

5.

「金木犀と彼女の時間 ★★☆


金木犀と彼女の時間

2017年09月
東京創元社

(1800円+税)

2021年04月
創元推理文庫



2017/10/29



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いやー、面白かった。たっぷり楽しめました。
青春学園ミステリの傑作のひとつと言って過言ではありません。

主人公の
上原菜月は東條高校の3年生。
文化祭中、廊下の外を落下してきたもの。それは何と、屋上で菜月に告白してきたばかりの人気者、
天野拓未だった。
あり得ない? 何故? そこから始まるミステリ。

実は菜月、7歳と中2の時、2度に亘りタイムリープを繰り返すという信じ難い体験をしていた。同じ時間を5回繰り返し、その5回目で事実が確定するという事象。
そして、この文化祭の最中に3度目のタイムリープが起こる。
何としてでも天野君を死なせてはならない、5回のタイムリープ中、文化祭開催中の学校内を菜月は懸命に駆け巡ります。
しかし、天野が転落す事情、そしては犯人は少しも明らかにならない・・・。
残された時間はあと僅か(5回)という設定が、読み手のスリル感を掻き立てます。

過去を何度も繰り返すといえば
ケン・グリムウッドの傑作リプレイを思い出しますが、本作はその展開を青春ミステリというパズルにはめ込んだ点が秀逸。
リプレイヤーという事実を隠すために、人に自分をさらけ出さず抑制、決して本気にはならない、というのが菜月のスタンス。
その結果、親友2人から拒絶される事態も引き起こします。
そんな菜月がリープを重ねる内にますます必死になり、なりふり構わず学校内を駆け巡るようになる中、様々な同級生たちの心模様や関係にも首を突っ込み、自分自身の本気度も試されるという展開に。もちろん、青春らしい恋愛要素もあり。

彩坂さん、青春ミステリの騎手としてすっかり上手くなったなぁと実感。本作も、是非お薦めです。


プロローグ/1.繰り返しの時間/2.文化祭の幕開け/3.起こるはずのない事件/4.深まる謎/5.彼女の時間

                       

6.
「みどり町の怪人 ★★


みどり町の怪人

2019年06月
光文社

(1700円+税)

2023年01月
光文社文庫



2019/07/24



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何とも気になり、つい惹かれてしまう題名です。
「怪人二十面相」「オペラ座の怪人」という存在があったのですから、いくら小さな町とはいえ、怪人がいないとも限らない、という思いがありますので。

地方FMラジオ局で出演者2人から語り出される
“みどり町の怪人”という都市伝説。番組にはリスナーからの、怪人を目撃したという体験話が次々と寄せられます。
怪人話の始まりは、20数年前、若い母親と幼児が殺された事件。犯人は突き止められず、怪人の仕業という噂が広まります。
その“みどり町の怪人”との遭遇話7篇が語られる、連作形式の長編作。

怪人の存在を信じる、怪人を見たように思う、その底には登場人物それぞれの心の中に闇があったからではないか。
<怪人>というモチーフが、何といっても刺激的で面白い。そしてその真相は衝撃的、という一言に尽きます。

「みどり町の怪人」:春孝と一緒にみどり町に引っ越してきた奈緒。怪人に目をつけられたのではないかと畏怖。
「むすぶ手」早紀子、同居した姑の介護に追われるうち、ふと魔が差す。しかし、怪人の所為だから仕方ない、と。
「あやしい隣人」:悟が何かと気になるのは、年上の同僚=柏木の振る舞い。もしかして柏木こそ怪人なのか?
「なつのいろ」光太が大好きな担任教師の友美子先生が突然退職? 怪人の存在を証明すれば退職を止められるかもと行動。
「こわい夕暮れ」:大学生の、友人を誘って怪人の正体を突き止めようとします。でも、その行動の理由は?
「ときぐすり」:高校生のゆり、塾の優等生である日高薫が怪人にさらわれたという噂を聞き、探し出そうとする・・・。
「嵐の、終わり」:自治会で防犯委員を長く務める須藤は、母親の死後ずっと孤独な中年男性。その事情は・・・。

各篇の登場人物の子どもたちが、仲間となって独立した物語を創り上げているところが楽しい。
親世代だけでなく、子ども世代にもまたがる連作ストーリィとなっているところが、心憎い。
怪人という着想は流石と思いつつ、最後に一応の決着をつけてくれたことから、得心して読了です。


1.みどり町の怪人/2.むすぶ手/3.あやしい隣人/4.なつのいろ/5.こわい夕暮れ/6.ときぐすり/7.嵐の、おわり

               

7.
「向日葵を手折る(たおる) ★★☆


向日葵を手折る

2020年09月
実業之日本社

(1700円+税)

2023年06月
実業之日本社文庫



2020/10/22



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父親がくも膜下出血で急死し、小6の高橋みのりは母親と共に、母の実家がある山形県の桜沢集落に引越し、祖母と同居することになります。
引越早々みのりが出会ったのは、すぐ近所だという聡明な雰囲気を漂わせる
藤崎怜と、その怜と親しい仲だが対照的にひどく乱暴な西野隼人という2人の少年。

住民の誰もがお互いの家族のことをよく知っているという集落での生活の中で、都会では考えられない楽しみを見出していくみのりの生き生きとした姿が嬉しい。
その一方、乱暴者の隼人の周辺にはいつも不穏さが漂う。
また、子供の首を斬り取るという
“向日葵男”の噂がみのりの心に畏怖をもたらします。

みのり、そして怜と隼人という同級生の3人を中心に、小6から中3まで、みのりの濃密な4年間が描かれます。
桜沢分校での1年間、桜沢での生活と並存する町の中学校での3年間、丹念に順々と描かれるみのりの成長ストーリィはまさにたっぷりの読み応え。
それと同時に、怜と隼人という2人の日々の暮らしの中に、みのりの思いもよらぬミステリが幾つも隠されていた、というストーリィ構成が圧巻。

成長、信頼、子供たち同士の絆、それを見守る大人の存在。
季節感あふれるみのりの、そして怜と隼人の青春&成長ストーリィであると同時に、それがそのままミステリになっているところが素晴らしい。
彩坂美月作品に改めて惚れ直した、という気分です。
是非、お薦め。


1.分校/2.向日葵流し/3.黄色い影/4.卒業/5.ハナ/6.変化/7.事件/8.祭りの夜/最終章.再び

                      

8.
「思い出リバイバル Revival of the Memory ★★


思い出リバイバル

2022年11月
講談社

(1600円+税)



2022/12/12



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思い出をひとつだけ<再上映(リバイバル)>してくれるという存在、“映人”
忘れ難いあの時をもう一度体験することができたなら、自分の今の人生は変わるかもしれない・・・。

映人によって思い出を再上映してもらった人たち、彼らはそれを胸に新しい一歩を踏み出していく、という連作ストーリィ。
はて? どこかで読んだような・・・と気づいて思い出したのが
辻村深月「ツナグ
しかし、どこかに違いがある筈。読み進んでいくにつれ、本作は「ツナグ」とは全く別の世界であるということが判ってきます。

本作で各篇主人公が視るのは、過去の光景です。そこに何を視るかは、あくまで現在の自分次第と言えます。
そこから気づくものがあれば救われるし、何も気づかなければ何も変わらないまま。その意味で思い出とは、先に進もうとする自分自身を励まし、勇気づけてくれるものなのかもしれません。
そうした組み立てが、本作の魅力。

「父の思い出」:父が殺された日を再上映してほしい。
「恋人との思い出」:高校時代の恋人と最後に過ごした一日に戻してほしい。
「青春の思い出」:自分が一番輝いていた高三・文化祭の一日を再上映してほしい。
「ある犯罪の思い出」:誰からの依頼なのか、いきなり思い出の一日が始まります。

「映人の思い出」最後の本篇はスリリングな内容。
SNS上、都市伝説となった<映人>を誹謗する書き込みが増えます。また、映人を騙って不法行為に出る者も現れたのか。
大学生の
遼太は偶然出会った少女=未来(みき)と共に、被害に遭いかねない女性を救おうと奮闘します。
その過程でついに遼太は映人に出会うことに・・・。

本物語を締めくくる最後の篇が鮮やか。彩坂さんに拍手です。

1.父の思い出/2.恋人との思い出/3.青春の思い出/4.ある犯罪の思い出/5.映人の思い出

        


   

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