浅倉卓弥作品のページ


1966年北海道札幌市生、東京大学文学部卒。レコード会社勤務後小説を書き始め、翻訳会社等を経て、2002年「四日間の奇跡」にて第1回<このミステリーがすごい!大賞>大賞金賞を受賞し作家デビュー。

 
1.
雪の夜話

2.ビザール・ラブ・トライアングル

  


 

1.

●「雪の夜話(よばなし)」● ★☆




2005年01月
中央公論新社

(1500円+税)

 

2005/06/25

こんなに暑くなってから「雪」の物語を読みたくはなかったというのが本音ですが、図書館依存故にそれはやむなし。
雪が降りしきる深夜の公園で、主人公は雪子と名乗る少女に出会います。最初は高校生の時、そして都会でのサラリーマン生活に見切りをつけて実家に戻ってから幾度も。しかし、雪子はいつも15歳の少女のままだった。

雪子との逢瀬を幾度も繰り返しながら、主人公がやっと自分に欠けているものを見出していくという、ファンタジーな自分探しのストーリィ。
ただこの小説、ファンタジーである割に、またいくら自分探しとはいえ、かなり理屈が先に立つストーリィです。その辺が折角のファンタジー要素をかなり相殺していると感じます。
主人公の相模和樹は東京の美大に進学し、スカウトされるままにデザイナーとして働き始めます。しかし、デザインに才能を発揮する一方で会社内の人間関係には一切無関心のまま。結局その泥臭い人間関係に押し退けられるようにして辞職し、実家に戻って無為の時間を送ることになります。
他人との関係を築けないまま自らの姿をも見出せない主人公と、主人公がその姿を見出すことができた故に雪子として存在しうる少女との関係は、対照的であると同時に比喩的です。
ただ、それがそれとして判るのはかなり終盤になってから。

雪子の人物造形に惹かれますし、私としては好きなタイプの作品ですけれど、理屈っぽさがファンタジーな面白さへの仇となっている印象は拭えません。
やはり、夏より冬に読みたい作品です。

 

2.

●「ビザール・ラヴ・トライアングル」● ★★




2007年06月
文芸春秋刊

(1429円+税)

 

2007/07/10

 

amazon.co.jp

優しく、切なく、そしてファンタジック。そんな味わいの内に人間のはかなさと人間の強さ、そして人と人が繋がることの深さを謳いあげたような作品集。
ホラー的な話も悲劇的な話も、タイムトラベル的な話もある作品集なのですが、暗い気持ちを味わうことはなく、心地良い安らぎを感じる一冊です。人と人との繋がりに夢を抱く願いが籠められているからでしょうか。

掲示板でお勧め戴いたのですが、これは出会えて良かった!と思える一冊。
冒頭の「ヨーグルトをください」にすっかり魅了されました。
なにも私がヨーグルト好きだという単純な理由からではありません。深夜のコンビニ、店員のバイト青年。そこにいつもふっと現れる若い女性客。いかにも現代的な舞台でありながら、古典的な仕掛け。そのうえ甘美な後味が残るという、まさに複雑かつ微妙な味わい。いいなぁ、コレ。内田百の作品を現代風にしたらこんな感じになるのではないか、と感じられるのです。

「夕立のあと」、この作品の仕掛けも私は好きです。
「紅い実の川」では、残された母親の意地のようなものが感じられて、その強さが好ましい。
「向日葵の迷路」は、ファンタジーな話には割りとある仕掛けですが、向日葵の中という舞台設定が魅力。
そして表題作「ビザール・ラヴ・トライアングル」は、本書収録の作品を総括するような、とくに深い味わいのストーリィ。
人が人に寄せる想い、人に託す想いは軽々と現実を超える。人の意識の広がりはそれだけ深く広い、ということを感じさせられる一篇です。
現実だけに捉われないストーリィである処が、本書の魅力です。

ヨーグルトを下さい/夕立のあと/紅い実の川/向日葵の迷路/ビザール・ラヴ・トライアングル

 


  

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