イロン・ヴィークランド作品のページ


Ilon Wikland  1930年生、エストニアのハーブサルで育つ。44年、14歳の時に戦争から逃れるためスウェーデンへ亡命。54年にリンドグレーンの「ミオよわたしのミオ」に挿絵をつけ、子供の本の画家として本格的に活動開始。多くのリンドグレーン作品に挿絵をつける。69年エルサ・ベスコフ賞を受賞。

Rose Lagercrantzl  1947年生、父親はドイツのベルリン出身で、ナチスに追われてチェコスロバキア、ポーランドを経てスウェーデンに定住。母親はルーマニア生まれでアウシュビッツ収容所を経てスウェーデンに逃れる。80年全作品に対してニルス・ホルゲション賞を受賞。

 


   

●「ながいながい旅−エストニアからのがれた少女−」● ★★★
 原題:"DEN LANGA,LANGA RESAN" 
 (文:ローセ・ラーゲルクランツ、絵:イロン・ヴィークランド)訳:石井登志子


ながいながい旅画像

1995年発表

2008年05月
岩波書店刊
(1900円+税)

  

2012/10/16

  

amazon.co.jp

この絵本を知ったのは、梨木香歩「エストニア紀行を読んでのこと。
副題から判るように、エストニア生まれの少女がドイツ軍侵攻の危険を避けるため田舎に住む祖母の元へ避難。さらに第二次大戦後エストニアへ侵攻したソ連軍から逃れて単身でスウェーデンに亡命、やっと安息の暮しを得るまでを描いたストーリィ。この本の絵を描いたイロン・ヴィークランドの自伝と言える内容だそうです。

両親が離婚して以降母方の祖母の家で暮らしていた女の子は、戦争が始まったのを機に田舎に住む父方の祖母の元へ一人で汽車旅します。ところが駅に迎えに来ている筈の祖母の姿はなく、しばらく待った後に少女は自ら馬車を雇い祖母の家へと向かいます。そんな彼女の支えになってくれたのは、一匹の犬。
しかし、彼女をいつも守ってくれる存在だった犬は、侵攻してきたドイツ兵に銃殺されてしまいます。
そして戦争が終わると、今度はソ連軍の侵攻。その危険から逃れるため
イロンは、再び一人で亡命船に乗り込みます。運よくスウェーデンに辿りついたものの、そこでイロンは病気に倒れてしまう。

多彩な色の絵がイロンの幸せな暮らしを表現しているのと対照的に、イロンの悲しい状況は黒白の絵で表現されます。その違いがこれ以上ない位リアルに読み手の胸へと迫ってきます。
スウェーデンに住んでいた画家おばさんに引き取られたイロンは再び絵を描く楽しみを得、今度は自分が保護すべき
子犬サンメリを得て、漸く彼女の長い旅は終わります。
一つ一つの絵も素晴らしいのですが、何度も辛い体験をしながら自分の力でそれを乗り越え、長い旅を終えたイロンという少女の強さが印象的、強く惹き付けられる次第です。
梨木さんの本とは別に、名作といって良い一冊。お薦めです。

                


 

to Top Page     to 海外作家 Index