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Chris Vick 英国、バース・スパ大学大学院修了。作家、作家養成講座講師。海洋生物保護活動も行う。

 


                                   

「少女と少年と海の物語」 ★★☆   
 
原題:"Girl.boy.sea"           訳:杉田七重


少女と少年と海の物語

2019年発表

2021年05月
東京創元社

(3000円+税)



2021/07/19



amazon.co.jp

少年と少女の漂流物語です。 カーネギー賞最終候補作。
 
セーリング・コンテストのための訓練に出ていた
ビルたちは、嵐に見舞われヨットが転覆、救命ボートに乗り移りますが、ビルだけ取り残され、たった一人手漕ぎボートへ。
嵐が収まった後ビルは、樽の上に乗って漂流する痩せこけた少女を発見、ボートに救いあげます。
そこから、
英国少年のビルと、ベルベル人(北アフリカの先住民族)のアーヤという2人による、数ヶ月にわたる大西洋での漂流物語が始まります。

民族も違えば、生まれ育った環境も考え方もまるで異なる2人、言葉もカタコトが通じるのみ。
中々打ち解けない2人が、反目し合いながらも時に協力し合い、困難な時を共にしていきます。
ビルが励まされ、希望を繋いだのは、アーヤが語る物語。
困難な中で人が勇気をもって生きていくためには、水や食料だけでなく、物語あるいは希望が必要なのだ、というメッセージを聞く思いです。

不毛な島への漂着、再び海へ乗り出す勇気。
お互いがいたからこそ勇気を奮い、局面を打開し続けることができたのだと、強く感じさせられます。
そうした2人の姿、人物造形が圧巻。繰り返される苦難に何度も胸詰まらせられる気がします。
その2人に加わる、最後の仲間も良いんだなァ、これが。

結末は、途中予想もしなかったものですが、人が生きている限り物語は続いていく、決して終わらない、ということを感じ取らされる、この余韻が素敵です。

※なお、読みながら連想させられた漂流記は2作、
ヴェルヌ「十五少年漂流記」と、ヤン・マーテル「パイの物語でした。

パンドラ/太陽/陸/海/どこでもない場所/骨の道/漁師

     


        

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