ニール・サイモン作品のページ No.2


 
11ブロードウェイ・バウンド−戯曲集No.4−

12ファルス−戯曲集No.5

13ヨンカーズ物語−戯曲集No.5−

14ジェイクの女たち−戯曲集No.5−

15書いては書き直し

16第二幕−ニール・サイモン自伝2

1723階の笑い−戯曲集No.6−

18ロンドン・スイート−戯曲集No.6−

19求婚−プロポーザルズ−戯曲集No.6−

  

【作家歴】、カム・ブロー・ユア・ホーン、プラザ・スイート、ジンジャー・ブレッド・レディ、二番街の囚人、サンシャイン・ボーイズ、名医先生、第二章、カリフォルニア・スイート、ビロクシー・ブルース、おかしな二人(女性版)

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11.

●「ブロードウェイ・バウンド」● ★★
 
原題:"Broadway Bound"     訳:酒井洋子




1986年発表

1988年08月
早川書房刊
戯曲集4
(2500円+税)

  

1988/10/10

自伝的なBB3部作の3作目。
本作品は、まさに作家として飛躍しようとする瞬間を描いたものです。その為か、ストーリィとしてはまとまりを欠き、中途半端な感じがします。しかし、それは作者の所為というより、むしろストーリィの所為と言えるでしょう。
舞台は、第1作の「思い出のブライトン・ビーチ」同様、ブライトン・ビーチのジェローム家。けれども、それは第1作のジェローム家と余りに異なり、暗く、一人一人が皆自分勝手です。第1作では、貧しいながらも、家長のジャックを中心としたユダヤ人一家の姿がありましたが、第3作ではその面影は全くありません。
ユージンと兄スタンリーは、成功の道を目指してこの家を飛び出していきますが、それはこのまとまりのあった家庭の崩壊の姿に他なりません。
一家の主人であるジャックは妻と離婚し、ユージンの母親ケートはただ一人とり残されます。
しかし、この作品にも唯一美しい場面があります。ケートが娘時代の最も華やかだった時のことを思い出し、明るい表情でユージンと踊る場面です。
とにかく、この作品に解決はありません。すべては崩壊したのです。そして、ユージンとスタンリーは、もはや引き返せない道に踏み込んだということです。

          

12.

●「噂−ファルス−」● ★★★
 
原題:"Rumors"     訳:酒井洋子  




1988年発表

1993年07月
早川書房刊
戯曲集5
(2800円+税)

  

1994/09/18

典型的なドタバタ劇です。しかし、すこぶる面白い作品。
登場人物同士の機微とか、人間の中味の問題とかは一切ありません。その意味ではサイモンらしくないとも言えるのですが、ドタバタの面白さ、テンポの良さは、サイモンならではの持ち味です。
要は、サイモンのドタバタの面白さだけを結集した作品と言えます。
ですから、読後の感動とかには一切無縁ですが、とにかく読んでいる最中は笑いが途切れません。そして、最後の落ちも、極めて洒落たものです。
ストーリィの舞台は、チャーリー・ブロック夫妻の結婚○周年記念の内輪のパーティ。
銃の発砲騒ぎがあり、チャーリーは自分の耳たぶを打ち抜いてしまい、一方、妻のマイラは行方不明。おまけに、チャーリーは薬を飲んで睡眠状態。
最初に到着したゴーマン夫妻は、チャーリーが自殺したのか否か事情がつかめないままうろたえるばかり。ガンツ夫妻、クーサック夫妻、クーパー夫妻と到着する度に、混乱と騒動は大きくなるばかり。爆笑の連続です。
最後には巡査2人も登場し、レニー・ガンツがチャーリーになりすまして銃声の言い訳をでっち上げる羽目に陥ります。
さて、事件の結末とその真相は如何? それは読んでのお楽しみです。 

   

13.

●「ヨンカーズ物語」● ★★
 
原題:"Lost In Yonkers"     訳:酒井洋子

  

 
1991年発表

1993年07月
早川書房刊
戯曲集5
(2800円+税)

 

1994/09/25

昔懐かしい気持ちにさせられる作品です。
各々どこか問題点を抱えた一人一人から構成される家族。いかにもユダヤ人的家族であり、サイモン的家族の姿です。
意地悪で人を寄せ付けない祖母、頭の足りない叔母のベラ、ギャングの子分となった叔父ルイ。母親の前ではまともに話ができない叔母ガート
そんな祖母とベラが住む家に、父親エディに連れられて、アーティジェイの兄弟がやってきます。借金を抱えた父親は、息子2人を自分の母親に預けて行商に出ようという訳。
このアーティとジェイは、観察者の立場であるようです。家族全体の問題を描いていますが、中心となるのは祖母とベラの関係です。
自分の頭の足りないことを自覚しつつ、人を愛し、子供を持ちたいという普通の人と同じ思いを告白するベラ、娘への愛情から殊更にベラに冷たく当たってきた祖母、エディに冷たかったのも息子を自立させたいという母親の願いから。子供を愛しつつ、それを素直に表現できず、意地悪で頑固な老人の役しか演じられない祖母と、ベラの2人が凌ぎあう場面は圧巻です。
すべてのベールが取り払われ、家族としての絆が浮かび上がる、そして2人の兄弟もまたその絆の中にいることを自覚する、サイモンの新たな家族劇と言える作品です。

   

14.

●「ジェイクの女たち」● ★★  
 
原題:"Jake's Women"     訳:酒井洋子

 

 
1992年発表

1993年07月
早川書房刊
戯曲集5
(2800円+税)

  

1994/09/25

作家ジェイクと2番目の妻マギーとの結婚の危機を主題とした劇。
サイモン自身の、癌で死んだ最初の妻ジョーンへの捨てきれない思いと、現在の妻との間で揺れ動く心情を描き出した、サイモン自身の悩み、苦しむ姿だと思います。
この劇の殆どは、ジェイクの頭の中で展開するストーリィです。頭の中で考えすぎることがジェイクの欠点として、予め指摘されています。
登場するのは、妻マギー、妹カレン、娘モリー(12歳と、21歳の現在の姿)、精神科医イーディス、交通事故で死んだ最初の妻ジュリー(結婚する前21歳と死ぬ時35歳の姿)、マギーとの別居中つき合ったシーラ
舞台で上演された場合、これは楽しむことのできる劇なのでしょうか。ちょっと難しい気がします。しかし、成功、不成功に拘らず、サイモンがこの劇を書かずにはいられなかったのは、当然のことと思えるのです。
最後に、妄想に現れた女たちに責め立てられ、「マギーに会いたい」と本音を吐露する場面が圧巻です。これは、サイモン自身が望む、そうありたいという声なのかもしれません。
サイモンの2番目の妻がマーシャ・メイソン、そして3番目かつ4番目の妻がダイアン・ランダー。作品中のマギーによる「結婚を観察して書かないで、結婚を生きて欲しい」という意味のセリフは、再々婚にあたってダイアン夫人が弁護士立会いのもの、サイモンに申し入れて文書化した1ヵ条だそうです。
そのエピソードだけでも、この劇のもつ意味が判る気がします。

 

15.

●「書いては書き直し」● ★★★
 原題:"Neil Simon Rewrites"     訳:酒井洋子




1997年12月
早川書房刊
(3600円+税)

 

1998/01/24

アメリカの超売れっ子劇作家、ニール・サイモンの自伝です。 自伝といっても、生まれてからずっとを書いているのではなく、彼の処女作創作の頃から、 愛妻ジョーンの癌による死の時まで。
初期の頃の作品の舞台裏をそのまま読むことのできる面白さと、主演俳優らの素顔を見ることができる楽しさがあります。とくに、「はだしで散歩」、「おかしな二人」、「ジンジャー・ブレッド・レディ」等。
多くの演出はマイク・ニコルズ(あの映画“卒業”)、登場する俳優は、ロバート・レッドフォード、ピーター・セラーズ、ヴィクター・マチュア、コニー・スティーブンス、ウォルター・マッソー、ジャック・レモン、ジョージ・C・スコットら、多々。ことにジョージ・C・スコットには笑ってしまいました。
でも、何より感激したのは、サイモン自身の世界がサイモン喜劇の世界と全く同質であることです。それは即ち、サイモン喜劇が、現実の一般的な庶民生活そのものであるということだと思います。だからこそ、あれだけの人気をもって観客に迎えられたのでしょう。
ただし、本書の面白さは、まず戯曲そのものを読んでおかないと味わえないものかもしれません。早川書房からサイモン戯曲集5巻が刊行されていますが、いずれも高いので、読むには図書館から借り出すのが適当かと思います。第1、2巻がお勧め。

 

16.

●「第二幕 ニール・サイモン自伝2」● ★☆
 原題:"The Play Goes On"      訳:酒井洋子




2001年06月
早川書房刊
(3200円+税)

 

2001/11/18

書いては書き直しに続く、自伝2作目。
本書は、前書の最後で最愛の妻ジョーンが死んだ、その直後から書き始められます。
娘2人を抱え、最愛の妻に死なれて呆然としているサイモンの姿があります。ところが、名医先生の舞台で知り合った女優マーシャ・メイソンに魅せられ、サイモンは瞬く間に彼女と結婚してしまいます。
サイモン原作の映画“グッバイガール”以来、マーシャ・メイソンの大ファンであるが故に、彼女を主役にした映画第二章泣かないでの背景、彼女との結婚生活、そして離婚に至る経緯は興味尽きないもので、読み応えがありました。
しかし、その後は、劇作家サイモンの仕事振り、ダイアン・ランダーとの再婚、再々婚、離婚と、サイモンの半生を辿っただけという印象が強まります。
勿論、2人の娘に対する思い、結婚への葛藤、離婚による挫折、2度とも失敗に終わったマーシャ、ダイアンという2人の元妻に対する心情の吐露、というサイモンの真摯さはありますが、「書いては書き直し」のような興奮をかきたてるものではありませんでした。
ただ、代表的なサイモン劇の多くは、本書で語られる時期に書かれているだけに、サイモン劇の副読本という面も有しています。それ故、サイモン劇を改めて読み直したいという気持ちに駆られたのは当然のこと。いずれ、本書を片手に戯曲集を再読しようと思います。

            

17.

●「23階の笑い」● 
 
原題:"Laughter on the 23rd Floor"     訳:酒井洋子  

 
1993年発表

2008年04月
早川書房刊

戯曲集6
(2600円+税)

 
2008/05/17

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1950年代、サイモン自身がTVのショー番組のライターをしていたという修業時代を、虚実織り交ぜて描いた作品。

登場人物はニール・サイモンがモデルと思われる駆け出しのライター=ルーカスと、NBCの人気コメディ・ショー番組のホストであるマックス・プリンス、その彼を囲む幾人ものコメディ・ライターたち。

のっけから騒々しくドタバタしていますが、皆20〜30代と若く、目一杯頑張っていた時代だと思うと、その活力と狂騒振りが伝わってくるような気がします。
感動とか面白さというより、そんな時代があったんだなぁという感慨を味わわせてくれる作品です。

   

18.

●「ロンドン・スイート」● ★★
 
原題:"London Suite"     訳:酒井洋子  




1995年発表

2008年04月
早川書房刊
戯曲集6
(2600円+税)

 

2008/05/17

 

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プラザ・スイート」「カリフォルニア・スイートと同じく、ホテルの一室を舞台にしたオムニバスもの。
場所は今回、ロンドンです。
この“スイート”ものには、ニール・サイモンらしい軽快さと、オムニバスものらしい歯切れの良さがあって、私は大好きです。

第1幕目「清算」は、資産運用を任せていた相手に作家が前資金を横領され、銃を片手に決着をつけようとする会話が繰り広げられます。何故やったのか?という問いに対する答えに唖然としつつも、起死回生の挽回を果たすという結末が小気味良い。
同幕「帰国」は、ロンドン旅行に来た母娘2人の話。親を思う娘の気持ちを超えて、実は母親に内緒の恋があったという痛みが切ない。女同士だから通じ合う事柄なのかもしれません。

第2幕目「ダイアナとシドニー」は、「カリフォルニア・スイート」の第2幕目「ロンドンの客」の続篇とのこと。
離婚した元夫、ゲイのシドニーとロンドンで再会するダイアナ。酔っ払わないとシドニーに会う勇気がでない彼女が、未だ愛する元夫が病を得て余命長くないと知るや否や、一転して凛々しくなり、彼の為尽くそうと決意する姿がお見事。
なお、シドニーにはゲイの恋人が居て、ダイアナの傍にはレズビアンらしい秘書が居るというのは、現代アメリカ社会では最早特別なことではないと考えるべきなのでしょうか。

第3幕目「床の男」は、何度も声に出して笑ってしまう、単純なコメディ劇。
腰を痛めて床の上から動けなくなってしまったアメリカ人男性客を、ケヴィン・コスナーのために早く部屋を空けて欲しいと督促する女性副支配人や、頼りにならない医師、何だかわからないボーイに、男性客の妻までドタバタネタをさらに増やして、という具合。

清算/帰国/ダイアナとシドニー/床の男

   

19.

●「求婚−プロポーザルズ−」● ★☆
 
原題:"Proposals"     訳:酒井洋子  

 

 
1997年発表

2008年04月
早川書房刊

戯曲集6
(2600円+税)

 
2008/05/18

 
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ニール・サイモンには珍しく、舞台は避暑地の山荘と屋外。そして黒人の家政婦も登場。

「求婚」という題名からは、明るいコメディ劇のような内容を予想しますが、実際には哀感も多く漂います。
病気の父親バートと独身の娘ジョージー、家政婦クレンマという家族の住む山荘に、離婚し今は別の男性と結婚している元妻アニー、ジョージーから婚約解消されたが未練たっぷりのケン(ケニー)、実はジョージーが愛する相手でケンとその父親に恩義を抱えているレイという青年、勝手にジョージーを追いかけてきたヴィニーという粗野な男、レイの恋人であるモデルのサミイも加わり、複雑な愛情模様を繰り広げます。
そのうえクレンマの元に、失踪して7年も経つ元亭主のルイスが戻ってきます。

さしづめシェイクスピア「夏の夜の夢」のごときゴタゴタが繰り広げられますが、若い男女だけの話ではなく、また若い男女にあっても関係が複雑に絡み合うとあって、一応ハッピーエンドに収まると入っても全員が満足するという訳にもいかず、面白さより哀感を感じてしまうという次第。
長き生きていればこんなこともあるさ、結びつきもあれば別れもある、そんな人生の一面が描かれているという感じ。
行き場を失ったケンがもっぱら笑いを買っていますが、クレンマの存在がピリッとスパイスのように効いています。

  

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