オードリー・ニッフェネガー作品のページ


Audrey Niffenegger 1963年生。コロンビア・カレッジ・シカゴのCenter for Book and Paper Arts にて教鞭をとる。「タイムトラベラーズ・ワイフ」が処女作品。

 


 

●「タイムトラベラーズ・ワイフ」● ★★
 原題:"The Time Traveler's Wife"     訳:羽田詩津子

  


2003年発表

2004年12月
ランダムハウス講談社刊
上下
(各1600円+税)

 

2005/05/25

本書の題名からどんなストーリィを想像しますか?
まず、タイムトラベルものであることは疑いようがありません。生きる時間を異にした男女がタイムトラベルの故に出会って恋に落ちますが、やがて宿命的に別れざるを得ない、そんなストーリィと想像していました。
しかし、本書は上記と全く異なり、まるで想像もし得なかったストーリィ。タイムトラベルものの常識を根本から覆されたような気分です。
本書ストーリィの臨場感を味わってもらうには、本書を読んでもらう他ありません。きっと後悔することはないでしょう。

ヘンリーは時間障害者。自分の意に任せないまま、突然に過去へ未来へ、場所も特定できないままにタイムトラベルしてしまうという運命を背負っています。しかも、時間移動した先ではいつも丸裸。服までは移動できないのです。それはどんなに危険なことか。
36歳のヘンリーは、1977年へ時間移動した時、その時6歳のクレアに初めて出会います。その時から2人のラブ・ストーリィが始まります。
第一部は楽しい。クレアの成長していく姿が描かれ、彼女は未来からやってくるヘンリーとの出会いを繰返し、彼への愛を育てていきます。
しかし、第二部へ進むとストーリィは切なくなります。
同じ時間の中でクレアはヘンリーに再会(ヘンリーは初めてクレアに出会う)し、2人は結婚する。第一部ではヘンリーの訪れを楽しく待ち受けていたクレアは、第二部では愛する者が度々姿を消してしまうという辛さを背負う女性になります。それだけでなく、・・・・・。

本書の主人公はヘンリーとクレアの2人ですが、私はクレアを主人公とした視点から本書を読みたい。
「タイムトラベラーズ・ワイフ」という題名は、時間障害者の妻となったクレアを主人公とするのが相応しいと感じるからです。
本ストーリィは、ヘンリーの存在時間(時間移動した先を含め)に沿ってめまぐるしく展開していき、読み手はその時間の渦の中にすっかり巻き込まれてしまうのですが、ヘンリーと対照的にクレアは自分の重ねていく時間の中にだけ生きているのです。
ヘンリーは過酷な運命の中に生きていますが、クレアはそうした時間の中にいつの間にか縛り付けられたような恋人です。そんなクレアの方がもっと切ない。

とても短い文章の中では説明し切れない、楽しく、切ないラブ・ストーリィ。上下2冊という長さは少しも気になりません。
少しでも興味を惹かれたら、是非読んでみてくださいとお薦めします。

プロローグ/時をさまよう男/ミルクカップの中の血の雫/渇望の物語

     


 

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