ルーシー・モード・モンゴメリ作品のページ No.2



12.果樹園のセレナーデ

13.ストーリー・ガール

14.黄金の道−ストーリー・ガール2−

15.青い城

16.もつれた蜘蛛の巣

17.銀の森のパット

18.パットの夢

19.丘の家のジェーン


【作家歴】、赤毛のアン、アンの友達、アンをめぐる人々、赤毛のアン、アンの青春、アンの愛情、風柳荘のアン、アンの夢の家、炉辺荘のアン、虹の谷のアン、アンの娘リラ

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12.

●「果樹園のセレナーデ」● ★★
 原題:"Kilmeny of the Orchard" 

  

1910年発表

1961年01月
新潮文庫刊

第57刷
1998年01月



2000/03/04

本作品は「赤毛のアン」「アンの青春」に続いて3番目に出版された長篇ですが、実際に書かれたのは「アン」以前、つまりモンゴメリの処女長篇のようです。

舞台はやはり、カナダのプリンス・エドワード島。本作品は、友人に代わって臨時に田舎の中学校で教えることになった主人公エリックと、キルメニイという少女とのラブ・ストーリィ です。
夕方の散歩に出たエリックは、島の自然の美しさを象徴するような古い果樹園で、キルメニイという少女に出会います。妖精のような雰囲気をもったキルメニイですが、彼女は生まれてからずっと隠れるように育ち、しかも口がきけないという、謎めいた少女。

アンのような活力あるストーリィと違い、本作品はもの静かで、終始エリックとキルメニイ2人だけの恋物語です。ラブ・ストーリィにしても、あまりに綺麗すぎる、という気も します。
でも、ストーリィ展開はなめらかですし、読んでいてとても気持ちの良い作品です。そして何より、作者モンゴメリのプリンス・エドワード島への愛着を強く感じます。
処女長篇としては充分な出来栄えと言える作品で、
アンとはまた異なった味わいがあります。

         

13.

●「ストーリー・ガール」● ★☆
 原題:"The Story Girl"      訳:木村由利子


ストーリー・ガール画像

1911年発表

1980年03月
篠崎書林刊

2010年01月
角川文庫
(743円+税)



2010/03/06



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母親が早くに亡くなっているベバリー13歳フェリックス11歳の兄弟。
父親がリオデジャネイロへの転勤辞令を受けたことから、父親の故郷、プリンス・エドワード島の小村カーライルに住むアレックおじのところに預けられることになります。
アレックおじのところには、ダン13歳と、料理上手な美少女フェリシティー12歳、その妹のセシリー11歳といういとこ。
そしてさらに、近所に住むロジャーおじとその妹オリビアおばの元には、やはり母親が早くに亡くなり、放浪の芸術家である父親から預けられているセーラ・スタンリー14歳といういとこたちがいました。
このセーラ・スタンリーが、表題の“ストーリー・ガール”
話が上手いうえに声もまた素敵。彼女が話を始めると、皆そろってその話に聞き惚れてしまう、というのがその命名の由来。

ただし、本書はそのストーリー・ガールが繰り出す夢のような物語、ということではありません。
キング家の子供たち+ロジャーおじの家に雇われているピーターという7人の子供たちが、プリンス・エドワード島を舞台に織りなす、5月から11月までという半年余、島で過ごす夏を中心にした物語。
ごく日常的な出来事であっても、子供たちにとっては大事件、あれこれと子供たちの日々が淡々と語られていきます。
その中に、ストーリー・ガールが語る、フィクションや、村や一族の人たちの間で実際に会った数々のエピソードが随所に織り込まれ、ストーリィに彩りを与えています。

このストーリー・ガール、赤毛のアンのアンと相似形であることは疑いありません。物語ることの上手さは、アンを彷彿とさせてくれます。ただし、アンのように突拍子もない空想家でありませんし、といってとかく対立関係に陥りやすいフェリシティーに比べ、格別良い子という訳でもありません。
その意味で、ストーリー・ガールが物語る部分を除くと、穏やかで平凡な子供たちのひと夏がスケッチブックのように描かれているという印象。したがって、ストーリィに起伏が少ない分、長いなぁと飽きてしまうのも否定できないところ。
プリンス・エドワード島への愛着があってこその物語、ということができるでしょう。

        

14.

●「黄金の道−ストーリー・ガール2− ★☆
 原題:"The Golden Road"      訳:木村由利子


黄金の道画像

1913年発表

1983年12月
篠崎書林刊

2010年10月
角川文庫
(705円+税)


2011/09/09


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ストーリー・ガールの続編。
前作同様、プリンス・エドワード島を舞台に、
ストーリー・ガールことセーラ・スタンリーらキング家の子供たちの日常生活を描いた長篇作品です。

本ストーリィの特徴は(前作と同じですが)、主人公はストーリー・ガールということではなく“子供たち”全員であること、ごく普通の日常が繰り返し描かれているところにあります。
実は私、こういうパターンの小説は苦手。ストーリィに勢いに乗って一気に読み進んでしまう、というタイプなので。

前作と異なるのは、子供たちが自分たちの新聞「われら」を編集・発行し始めたこと。本書中では計4回発行されますが、子供たち一人一人の個性が発揮されているとともに、徐々にうまくなっているという変化が見受けられて楽しい。
そして、ストーリー・ガールによって語られる
「ぶきっちょさんの恋物語」は、とてもロマンチック。単独の物語にしてもいいくらいの抒情性があり、果樹園のセレナーデを久々に思い出させられました。

一緒になって遊んだ子供たちも、一人一人子供から大人へという時期を迎え(最年長のカレンダー・ガールはもう15歳)、そして現実面でも別れの時期を迎えます。
本ストーリィはあくまで、プリンス・エドワード島における子供たちの物語なのです。

             

15.

●「青い城」● ★★☆
 原題:"The Blue Castle"      訳:谷口由美子


青い城画像

1926年発表

1983年01月
篠崎書林刊

2009年02月
角川文庫
(705円+税)



2009/07/29



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主人公は29歳のオールド・ミス、ヴァランシー・スターリング
彼女のこれまでの人生は、母親を初めとし、数多いスターリング一族の伯父・伯母らからひたすら抑圧されてきた日々。
29歳にして未婚であることを彼女の欠点であるかのように言われる一方、幼い子供であるかのように母親たちの許可なしには何もさせてもらえないという状況。
そのヴァランシーが親たちに内緒で医師の診察を受けたところ、重い狭心症で余命1年と宣告される。
あと1年しか生きられないのならばと、ヴァランシーはそれまで思いも寄らなかった行動に出ます。さてその結果は・・・。

赤毛のアンと異なり、本書は大人の女性を主人公にしたストーリィ。
でも、「アン」と比較して読んでこそ、より楽しむことができる作品です。何故なら、「アン」と共通するところがある一方で、「アン」と対照的なところを備えたストーリィなのですから。
まず、何度躾けられても、その夢みがちで突拍子もない行動をとる性分を抑えられなかったアンに対し、ヴァランシーはずっと抑圧される一方だった内気な女性。
その一方で、夢想するということにおいて程度の差こそあれ、ヴァランシーとアンは共通する魂をもっています。
とはいえ、少女の無邪気さで突っ走っていたアンに対し、ヴァランシーは必死の決意をもって初めて自分の意思に添った行動をとることができる訳です。

本作品の圧巻は、それまで恐れていた伯父・伯母たちに向かってヴァランシーが思ったとおりのことを怖気ずに言い放つところ、そして自らの本心に従って率直に行動するところです。

ヴァランシーが愛することになるミスタウィス湖周辺の風景描写も美しいのですが、自らの行動によって幸せを勝ち取ったヴァランシーの姿がとても清々しい。
「赤毛のアン」に負けず劣らず、そしてより大人向けの、モンゴメリによる名作です。

    

16.

●「もつれた蜘蛛の巣」● ★★
 原題:"A Tangled Web"      訳:谷口由美子


もつれた蜘蛛の巣画像

1931年発表

1981年06月
篠崎書林刊

2009年08月
角川文庫
(781円+税)



2009/09/23



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青い城に続く、モンゴメリ作品の文庫化・復刊、第2弾。
本書は、複雑に絡み合った一族の間における複数男女、中年男女もあれば若い娘もいるといった幾組もの古典的ロマンスを描いた長篇作品です。

長い年月、幾組もの結婚を通じて複雑に絡み合ったダーク家ペンハロウ家
その両家の長老格であるベッキーおばが間近に死を感じて、一族の主だった面々を接見に集めた処からストーリィは始まります。
このベッキーおば、記憶力良く辛辣な女性で、皆を震え上がらせていますが、読者としてはなかなか愉快。
遺品分けにおいて欲しがる相手には与えず、貰って迷惑という相手に渡すというパターンを繰り返すのですから、相当に意地が悪いというか、笑わせてくれるというか。
その中で皆が欲しがるのが、何故か水差し。その水差しを誰に与えるかという答えの公表を1年間保留したことから、水差しが思わぬ一族間のロマンスを邪魔立てし、方向転換をもたらし、ひいては安着ももたらすという、シニカルですけどドタバタ風でもあるといった、群集喜劇的ロマンス・ストーリィ。

ちょうどアンの友達に描かれたようなコミカルな恋愛を、一気に一つ網の中にぶち込み、多重ロマンス小説に仕上げたといった観のある作品。
結婚当夜に何があったか当人たち以外には不明のまま破綻状態を長年続けている男女、ふと目が合っていきなり熱愛に陥ってしまった戦争未亡人と冒険家、美青年との恋に舞い上がっている若い娘と、ロマンスの当事者たちは実に多彩です。
それを周囲から眺めて、口さがない一族の老男女たち。しかし、様々な人生経験を越えてきた老人たちの目が、当人たちより結構確かである、というところが人生の、思うに任せぬ面白いところです。

冒頭、ダーク家とペンハロウ家に属する多数の登場人物が紹介される章、やたら姓がダークとペンハロウばかりで頭が痛くなりますが、一気にそこは突破してしまいましょう。
幾組にわたるロマンスの成功、失敗が描かれる分、ロマンスの醍醐味はやや物足りませんが、人生訓も含めて展開される多様なロマンスには、それ相応に人生の味わいあり。
なお、アンギルバートの面影をちらり感じる部分もあります。
モンゴメリ・ファンには「青い城」と共に是非お薦め。

        

17.
●「銀の森のパット ★☆
 原題:"Pat of Silver Bush"      訳:谷口由美子


銀の森のパット画像

1933年発表

2012年02月
角川文庫
(952円+税)



2012/08/12



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白樺の森に囲まれているところから名づけられた“銀の森屋敷”。
本書の主人公は、この屋敷に暮らすガードナー一家の次女、この屋敷を心から愛して死ぬまでずっとこの屋敷で暮らしたいと願っている少女
パット(パトリシア)です。
冒頭の彼女は7歳、そして最後では18歳。つまり彼女の11年間をめぐる成長物語。

ところが実はこの作品、余り面白くない。私には余り面白いとは思えません。
赤毛のアンのように個性的な登場人物たちが次々と登場し、それに沿ってストーリィが展開していく、といったところが欠けているからです。
本作品の欠点というより、そもそもモンゴメリ自身はアン・ストーリィが余り好きではなかったというのですから、むしろ本書の方が本来モンゴメリ好みのストーリィであるのかもしれません。
その意味で本書は、“アンチ・アン”小説といって良いのではないでしょうか。

パットも、プリンス・エドワード島の美しい景色や詩等を愛する少女ですが、アンに比べずっと抑制されている印象。その一方で思い込みが激しい性格で、逆にそれしかないとも言えそうです。
そのパットよりもユニークな存在なのが、ずっとこの屋敷に仕えてきた“ばあや”こと
ジュディ・プラム。パットにいろいろな話を聞かせて諭す存在で、ストーリー・ガール」セーラの系統を引く人物です。
“アン”の性格が、パットとジュディばあやの2人に分け与えられていると言って良いかとも思えます。
また、アンにとってのギルバートと似た位置にたつ存在が、パットの幼馴染である
ジングル(ヒラリー・ゴードン)

余り面白くなかった割に本書、あぁ長かった。

    

18.
●「パットの夢 ★☆
 原題:"Mistress Pat−A Novel of Silver Bush−"      訳:谷口由美子


パットの夢画像

1935年発表

2012年04月
角川文庫
(952円+税)


2012/08/12


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銀の森のパットの続編。
本書は、
パット20歳からその11年後まで、パットが真実の愛を見つけるまでの物語となっています。

相変わらず主要な登場人物は、パットとばあやのジュディ・プラム。それに加え、成長したパットの妹=カドルス(レイチェル)に尽きます。
年頃を迎えたパットに対し、求婚者として多くの男性が登場します。その回数、そして何度経験しても中々そこから学ばないパットの姿は、この点では“アン”を遥かに凌駕しています。

それにしても前作と変わらず、本書もまた長ったらしい。続けて読むとじれったい程。
基本的に、銀の森屋敷を愛するが故にそこから少しも離れたくないと思っているパットの考え方を象徴するかのように、本書では登場人物の動きも、地理的な面でも動きが極めて少ないから、と言えるでしょう。
なお、そんなパットと対照的に、気の合う幼馴染だった
ジングルは、勉強するために島を出て、長く戻ってきません。

本作品の訳本刊行があまり広がらなかった理由が、理解できたように感じます。

               

19.
●「丘の家のジェーン ★★☆
 原題:"Jane of Lantern Hill"      訳:木村由利子


丘の家のジェーン画像

1937年発表

2011年08月
角川文庫
(705円+税)



2011/09/09



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トロントにある重苦しい祖母の邸、そして厳格で抑圧的な祖母の元で母親と共に暮すジェーン
そんなジェーンの元にある日突然、死んだと思っていた父親から、ジェーンを
プリンス・エドワード島の自分の元に寄越して欲しいという手紙が届きます。
祖母、母、そしてジェーン本人も不本意ながら、夏の3ヵ月をジェーンは父親の元で過ごすことになります。

突然現れた父親に対して懐疑的だったジェーンですが、会った途端、父親が自分を愛していること、お互いに気が合うことを発見します。
そして父親は2人の為に、海が見下ろせる
ランタン丘に建つ小さな家を購入。トロントでは何もできなかったジェーンが、ここでは自ら大工仕事もし料理も覚え、さらに近所の子供たちともすっかり仲良くなり、全く新しい自分を見出していきます。
プリンス・エドワード島での暮らしを契機に、それまで冴えなかった少女が見事に自立・成長していくストーリィ。

というと、いくらでもある少女の成長物語のように思われるかもしれませんが、本作品はモンゴメリ晩年の物語。身内の大人に対する辛辣な目線も有しており、アンのような夢見る少女物語には決してなっていません。
両親の別居には、両方に愚かな誤解と思い込みがあり、さらに2人を何とか引き離そうとする人間の手中に知らず知らずまんまと嵌っている、という事実があります。その点、ある意味でジェーンの方が両親よりずっと大人に見えます。

トロントでは愚かで鈍で不美人と思われていたジェーンが、プリンス・エドワード島での生活を機に聡明で溌剌とし、度胸もある少女に一変。これまでと違って祖母に対しても堂々とした受け応えができるようになる、という展開は小気味よく痛快です。
「アン」がプリンス・エドワード島を舞台にした子供〜大人読者のための少女物語なら、さしずめ本書は大人の読者のための少女物語と言えるでしょう。
噛みしめて読む程、深い味わいが滲み出て来そうです。
お薦め。

         

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