ナム・リー作品のページ


Nam Le  1978年ベトナム南部のラックザー生。79年生後3ヶ月で両親と共にボートピープルとしてオーストラリアに渡る。メルボルン大学卒業、大手法律事務所勤務を経て、渡米。アイオワ大学ライターズ・ワークショップに学ぶ。2007年ブッシュカート賞、08年ディラン・トマス賞、09年オーストラリア・プライム・ミニスター文学賞、メルボルン賞ほか多数受賞。NYでハーヴァード・レビューの文芸記者を務めると共に、09年にはライター・イン・レジデンスとして英国イースト・アングリア大学に滞在。

 


   

●「ボート」● ★★★
 
原題:"The Boat"        訳:小川高義

  

 
2008年発表

2010年01月
新潮社刊

(2300円+税)

 

2010/02/19

 

amazon.co.jp

生後3ヶ月で両親とともにボートピープルとしてベトナムからオーストラリアに渡り、渡米して研鑽を積み、新鋭作家として注目を集めるに至ったという作者の経歴を語らずして本作品集を語ることはできないでしょう。

何もよりもまず冒頭「愛と名誉と憐れみと誇りと同情と犠牲」という長い題名の篇。作者自身の境遇に似た作家志望の主人公の元を、ボートピープルだったベトナム人の父親が訪ねて来るというストーリィなのですから。
本書の入り口となる作品として、真に鮮烈、そして小説としてもお見事。読者の作者に対する関心を、ぐっと手繰り寄せる篇になっています。

ストーリィは無国籍にして、まさに舞台は世界中のあちこち。
アイオワ、南米コロンビア、NY、オーストラリア、何と広島まで。さらにテヘラン、ベトナムを脱出した後の大洋上。
そのうえストーリィも様々で、驚くほど多彩です。
主人公の年代層にしても、10代の少年・少女から初老の画家までと、実に幅広い。
作者の若さでここまで書くのかと、新鮮な驚きを覚えます。そして同時に、凄い才能だと思う。
この作家の持つこうした無国籍性・自在さは、ボートピープルだったという生い立ちとやはり無縁ではないと思います。つまり、国に縛られるところがない、ということ。
圧巻は、ベトナムから過密状態の難民ボートにたった一人で乗り込んだ少女の12日間を描いた、表題作の「ボート」
この一篇、凄すぎて、もう言葉もない、という状況です。

あえて7篇に共通するものを探すと、切羽詰った状態に置かれた時の人間の姿、ということになるでしょうか。
それもまた、ボートピープルという作家の生い立ちと無縁とは思えない。

愛と名誉と憐れみと誇りと同情と犠牲/カルタヘナ/エリーゼに会う/ハーフリード湾/ヒロシマ/テヘラン・コーリング/ボート

 



新潮クレスト・ブックス

    

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