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「ほんのささやかなこと」 ★★☆ 原題:"Small Things Like These" 訳:鴻巣友季子 |
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2024年10月
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1990年代にその実態が明らかになり、アイルランド国民を震撼させた“マグダレン洗濯所”問題を題材にした中篇小説。 舞台は1985年の冬、アイルランドの小さな町ニューロス。 その町で石炭や薪の販売業を営んでいるビル・ファーロングが主人公。 ビルの母親は手堅く暮らしていたウィルソン夫人宅の女中、16歳でビルを妊娠、出産。父親が誰かは不明のまま。そんな境遇に生まれたビルでしたが、ウィルソン夫人のおかげで順調に成長し、今は妻アイリーンとの間に賢い五人の娘という、満足のいく暮らし。 クリスマスが近付くある日、女子修道院に石炭を配達にいったビルは、石炭小屋に閉じ込められている若い娘の姿を目撃してしまう。 女子修道院では何が行われているのか・・・・。 しかし、ビルが女子修道院のことを口にすると、皆が皆、女子修道院には関わるべきではないと言い、見て見ぬ風。 そしてビルは、両親の疼きを無視できないとばかりに、ある行動を取るのですが・・・。 マグダレン洗濯所における非人道的な行為に国家まで関与していたというのは衝撃的ですが、見て見ぬふりをしてきた多くの人たちが、その事実を長く覆い隠してきたのも事実なのでしょう。 皆が見て見ぬふりをするなかで、ただ一人、一歩踏み出すというのは相当な覚悟が必要で勇気のあることです。 そうしたささやかな一歩が集まっていくことによって世界を正しいものにしていける、そう心から信じたい。お薦めです。 |