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Claire Keegan
 1968年アイルランド生。高校卒業後渡米しロヨラ大学で学んだ後、帰国しウェールズ大学大学院、ダブリンのトリニティ・カレッジで学ぶ。99年デビュー短篇集「Antarctica」にてルーニー・アイルランド文学賞、第二短篇集「青い野を歩く」にてエッジヒル賞最優秀短篇集部門、2010年「Foster」にてデイビー・バーンズ賞、21年「ほんのささやかなこと」にてオーウェル政治小説賞およびケリー賞アイルランド文学部門を受賞。また、22年にアイルランドのウーマン・オブ・ザ・イヤー(文学部門)、23年にはアイリッシュ・ブック・アワードよりオーサー・オブ・ザ・イヤーに選れ、24年にはシェイマス・ヒーニー賞およびジークフリート・レンツ賞を受賞。

 


                 

「ほんのささやかなこと」 ★★☆
 原題:"Small Things Like These"       訳:鴻巣友季子


ほんのささやかなこと

2021年発表

2024年10月
早川書房
(2200円+税)



2025/06/13



amazon.co.jp

1990年代にその実態が明らかになり、アイルランド国民を震撼させた“マグダレン洗濯所”問題を題材にした中篇小説。

舞台は1985年の冬、アイルランドの小さな町ニューロス。
その町で石炭や薪の販売業を営んでいる
ビル・ファーロングが主人公。
ビルの母親は手堅く暮らしていたウィルソン夫人宅の女中、16歳でビルを妊娠、出産。父親が誰かは不明のまま。そんな境遇に生まれたビルでしたが、ウィルソン夫人のおかげで順調に成長し、今は妻アイリーンとの間に賢い五人の娘という、満足のいく暮らし。

クリスマスが近付くある日、女子修道院に石炭を配達にいったビルは、石炭小屋に閉じ込められている若い娘の姿を目撃してしまう。
女子修道院では何が行われているのか・・・・。
しかし、ビルが女子修道院のことを口にすると、皆が皆、女子修道院には関わるべきではないと言い、見て見ぬ風。 

そしてビルは、両親の疼きを無視できないとばかりに、ある行動を取るのですが・・・。

マグダレン洗濯所における非人道的な行為に国家まで関与していたというのは衝撃的ですが、見て見ぬふりをしてきた多くの人たちが、その事実を長く覆い隠してきたのも事実なのでしょう。
皆が見て見ぬふりをするなかで、ただ一人、一歩踏み出すというのは相当な覚悟が必要で勇気のあることです。

そうしたささやかな一歩が集まっていくことによって世界を正しいものにしていける、そう心から信じたい。お薦めです。

      


     

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