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1.帰れない山 2.フォンターネ |
1. | |
「帰れない山」 ★★★ |
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2018年10月
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山の少年と街の少年、山を舞台にした出会いと友情、2人の半生を描いた長編。 主人公となるのはピエトロ。共に山登り好きの両親のもとにミラノで生まれますが、母親が夏を過ごす場所として見つけたモンテ・ローザを望むグラーナ村で、羊飼いの少年ブルーノと出会います。 出会ってすぐ2人は親しくなり、ブルーノに誘われるままピエトロは共に山へ登ります。 その2人を山へ、山へと誘った存在が、ピエトロの父親。最初は息子を連れて、グラーナ村でブルーノを知ってからはしばしば3人で山を登ります。 彼の登山スタイルはストイック。ひたすら先を急いで山を登り、頂上に着けばすぐ降りるというパターン。 レジャーや楽しみとしての登山ではなく、そこに山にこそ人生がある、といった風。それはピエトロとブルーノの2人にも共通するようです。 やがて別れ、長じてからの再会、2人の山での共同作業、そしてまた葛藤・・・・。 ピエトロとブルーノの2人、山ではまるで双子のようですが、夏季が過ぎればピエトロは街に戻り、ブルーノはずっと山の村で生きているという点で対照的。 2人の先々には切なさ限りないものもありますが、それよりも本作で胸打たれるのは、2人の山への思い、山での生活ぶりでしょう。 山の空気の素晴らしさ、都会や街から離れた高地における清々しさ、自由さ、孤高の気高さが、本作の中に充満しています。 なお、本作を読みながら私は、2つの文学作品を思い出させられていました。 ひとつはヨハンナ・スピリ「ハイジ」、「山は美しいんです!」というハイジの言葉が今も忘れられません。 もうひとつはヘルマン・ヘッセ「ペーター・カーチメント(郷愁)」、町での暮らしから山の村での暮らしに戻ったペーターには2人と共通するのがあるのでは、と思った次第。 第一部 子ども時代の山/第二部 和解の家/第三部 友の冬 |
2. | |
「フォンターネ 山小屋の生活」 ★★ 原題:"Il ragazzo selvatico" 訳:関口英子 |
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2022年02月
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30歳になって何もかも枯渇してしまったという作家、ミラノを離れ、アルプスの山小屋生活を始めます。 題名の「フォンターネ」とは、標高1900m の山中にある小村ブリュソンの、わずか4軒の山小屋からなる集落の名前。 その意味では副題の「山小屋の生活」の方が本書の内容に適っています。 都会から離れた山の上での生活というと、本書中でも引用されていますが、ソロー「森の生活」を思い起こさせられます。 また、アルプスというと、シュピーリ「ハイジ」を連想します。 ところが実際の山小屋生活となると、そう理想的には進まないようです。 夜は中々寝付けないし、野生動物の声が気になるし、と。 一方、意外と山小屋の生活は忙しいようで、常に何かしらすることがある。その意味では気分転換には最適だったのだろうと感じます。 しかし、ずっと山の上の生活というのは、それはそれで問題もあるのでしょう。都会の生活と比べられるからこそ楽しく、爽快なのだろうと思います。 読み手も作者と一緒に楽しめる、山小屋暮らしの体験談です。 第一章 冬-眠りの季節 街で 第二章 春-孤独と観察の季節 家/地形図/名残り雪/畑/夜/隣人 第三章 夏-友情と冒険の季節 牛飼いよ、どこへ行く/干し草/アイベックス/野宿/登山小屋/格別な一本/ むせび泣き 第四章 秋-執筆の季節 山小屋に戻る/言葉/来訪者/幸運な犬/牧下り/銀世界で/最後のワイン |