テッド・チャン作品のページ


Ted Ghiang  1969年米国ニューヨーク州生、ブラウン大学でコンピュータ・サイエンスを専攻。90年発表のデビュー作「バビロンの塔」にてネビュラ賞を受賞。その後、発表作品は高い評価を受け、SF界最大の文学賞であるヒューゴー賞を「地獄とは神の不在なり」「商人と錬金術師の門」「息吹」「ソフトウェア・オブジェクトのライフサイクル」にて4度受賞。代表作「あなたの人生の物語」は2016年にドゥニ・ヴィルヌーヴ監督により映画化(映画化名「メッセージ」)され、原作者チャンの名は世界中に広まる。

 


                                   

「息 吹」 ★★☆             ヒューゴー賞等
 
原題:"EXHALATION"     訳:大森望


息吹

2019年発表

2019年12月
早川書房

(1900円+税)



2020/03/29



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ヒューゴー賞を受賞した3作を含む、第二短編集。

海外SF界には疎く、テッド・チャンについても本書で初めて知ったのですが、「あなたの人生の物語」の映画化作品
「メッセージ」、主演のエミリー・アダムズが好きな女優さんだったため観ていました。いつの間にか接点はあったのですね。

・本書に魅了されたのは、冒頭の
「商人と錬金術師の門」
「千夜一夜物語」的な構成で、舞台もバクダッド。
その魅力は、語りの面白さとSF要素の融合にあります。
そもそも「千夜一夜物語」の面白さって、不思議な話を物語って聞かせるところにあるのですが、その話がタイムトラベル、しかも起きた事実を変えることはできない、という前提付き。
そして作中掌篇
「妻とその愛人の物語」がお見事、痛快です。

・表題作
「息吹」、さて主人公はどんな存在なのだろう?と想像を巡らせざるを得ないところが面白み。
人間ではないことは明らかです。人間が一切登場しないストーリィ、とのことですし。

「ソフトウェア・オブジェクトのライフサイクル」
内容は、来るべき近未来社会で当然に予想されるような出来事。
デジタル存在であっても、知能を持たせ躾という要素を導入すれば、いずれペットではなく子育てに共通してくるし、やがて人間とデジタル存在、アバターとの間にどれだけの違いがあるのか、という問題へと繋がっていきます。
興味深く面白いという面と同時に、警告要素も感じる中編作。

「大いなる沈黙」、成る程なぁ・・・。

全体を通して感じるのは、SF世界の冒険物語というより、SF的な着想をもって現実的な社会を描いた一冊、という印象です。

商人と錬金術師の門(ヒューゴー賞・ネビュラ賞・星雲賞)/息吹(ヒューゴー賞・ローカス賞・英国SF協会賞・SFマガジン読者賞)/予期される未来/ソフトウェア・オブジェクトのライフサイクル(ヒューゴー賞・ローカス賞・星雲賞)/デイシー式全自動ナニー/偽りのない事実、偽りのない気持ち/大いなる沈黙/オムファロス/不安は自由のめまい

     


        

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