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 1998年5月
 文春文庫
 (619円+税)
   1998/06/18 | まず訳題が良い。つい引き込まれてしまいそうな題名です。ストーリィの大筋はカバーで下記のように説明されています。でも実際読んでみると、その大筋以外の肉付けの部分に多くの感動、素晴らしさがある本です。時に涙をこらえつつ読んだ、という個所が何度もありました。
 「夫に捨てられたあげく、わが子まで奪われるなんて! 裁判で養育権を失ったスザンナは名前を変え、髪を染め、赤ん坊連れの逃避行に出た。キャリアなし、資金なし、身寄りなし。おまけに、潜伏先で仕事用に中古のパソコンを買ったら、奇妙なファイルが残っていた。爆破リストだ…。赤ちゃん大活躍のロマンチック・サスペンス。」
 最後の赤ちゃん大活躍、というのは誤りです。まだ歩くことも出来ない赤ん坊に何ができると言うのでしょう。でも、その赤ん坊・タイラー(変名後はコディ)がなんとも魅力的なのです。そこにいるだけで存在感が絶大。主人公である母親スザンナ(変名後はキム)をくってしまっている、と言っても誤りとは言えないくらい。
 読み終わると同時に、もう一度ざっと読み返したいという気持ちに駆られる本は少ないのですが、本書はそのひとつ。理由はもう一度コディに会いたいという気持ちからです。
 この作品はサスペンスのようではあるものの、実体は母子の逃避行であり、母親が自立するための成長物語。また同時に母子間の強い愛情物語です。
 もうひとつの魅力は、登場する人物がごく一部の例外を除いて善良な人ばかりという点。これは特筆すべきことだと思います。
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