ミゲル・デ・セルバンテス作品のページ


Miguel de Cervantes  1547〜1616 スペイン黄金世紀の作家。代表作である風刺小説「ドン・キホーテ」は世界文学の傑作のひとつにかぞえられる。貧しい外科医の家に生まれる。71年レパントの海戦に参加、その後無敵艦隊の食糧徴発係、滞納税金の徴収吏の職に就くが、徴税活動の不備により数回投獄される。その投獄中に構想を得た物語が「ドン・キホーテ」。


1.
ドン・キホーテ

2.セルバンテス短篇集

 


      

1.

●「ドン・キホーテ」● ★★★
 
(「才智あふれる郷士ドン・キホーテ・デ・ラ・マンチャ」)

 

1605年
前編発表
1615年
後編発表

  
 
河出世界文学全集

 


1979/11/25

「前編」はドン・キホーテサンチョ・パンサの道中記。
風刺的な滑稽さが狙いだったように感じられる。
風車との対決、羊の群れとの対決。そうした奇矯な振る舞いに対する単純な笑いが根底を成しているが、「後編」になると様相はだいぶ変わる。

「前編」が単純・明快であったのに対し、「後編」は手が込んできている。
ここでは「前編」の話があまねく世間に知れ渡っており、ドン・キホーテとサンチョ・パンサの狂気沙汰を他の人間も知っているというところにミソがある。
公爵夫妻の悪戯や、サンチョ・パンサの太守、等々。
「後編」におけるドン・キホーテとサンチョ・パンサは、遍歴の騎士という誤った意識の上に立っているが、それはそれとして時折彼ら2人の高尚さ、聡明さを十分に現すことがある、ということなのである。
2人の主従の手紙のやりとり、パンサが太守に就いた時の言動、その他諸々。2人の善意、真剣さは疑う余地のないものである。人生というものに対する訓示的な要素が、この「後編」では強まっている。

この作品の最も大きな意義は、ドン・キホーテとサンチョ・パンサという2人の人物を創り出したことだろう。
「前編」での一回目の遍歴の如き、ドン・キホーテ一人のみの旅では、ちっとも面白味はない。この2人の珍妙なコンビが、この物語をして生き生きとせしめているのである。

      

2.

●「セルバンテス短篇集」● ★★★




1613年発表
「模範小説集」
等から抜粋

1988年6月
岩波文庫刊

5刷
1999年11月
(700円+税)

 


2000/02/26

実はこの本、20年前に読みかけ中、電車に飛び乗る際に落としてしまい、そのまま読了しないままとなった忘れ難い本なのです。それだけに、漸く読み終えたことがとても嬉しいのです。
セルバンテスと言えば「ドン・キホーテ」が余りに有名過ぎ、その他の作品がまるで知られていません。それだけに、この短篇集は貴重と言えます。また、「ドン・キホーテ」は長篇であるため手が出しにくいのですが、本書は短篇集ですので手軽にセルバンテスを楽しむことができます。

4篇のいずれも古典的な物語であって、不自然なところがいくつもありますが、ストーリィとしてはとても面白くかつ読み易いものです。
滑稽ですけれど最後にはジ〜ンとくる話(若い妻を閉じ込める老人の夫)、非常に教訓的な話(妻の貞節を試験を親友に頼む夫)、戯画的な面白さのある話、若者2人の愉快な恋愛+冒険物語、という4話。ありきたりな古典物語のような感じを受けますが、一度物語の中に踏み込めば、そこにはやはりセルバンテス独自の世界があります。
どれも興味尽きない作品ですが、最も風変わりなのは
「ガラスの学士」。 媚薬を盛られて正気を失い、自分はガラスでできていると思い込んだ学士の話です。狂気である一方、彼の語る言葉は溌剌として明敏な智慧をひらめかす、 という物語。
ストーリィの根幹を成すものは、現代におきかえても通じる題材であるだけに、少しも古さを感じません。読み応え充分な一冊です。

やきもちやきのエストレマドゥーラ人/愚かな物好きの話/ガラスの学士/麗しき皿洗い娘

 


 

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