イタロ・カルヴィーノ作品のページ


Italo Calvino イタリアの国民的作家。1923年キューバの首都ハバナ近くの村で生まれる。両親がイタリアに戻り、サンレーモにて20歳まで過ごす。トリノ大学農学部に入学。SF小説、幻想文学、児童文学と作品のジャンルは幅広い。1985年死去。

 
1.
むずかしい愛

2.
冬の夜ひとりの旅人が

 


  

1.

●「むずかしい愛」● ★★☆
 
原題:"Gli amori difficili"        訳:和田忠彦

 
むずかしい愛画像
  

1958・70年発表

1995年04月
岩波文庫刊

(560円+税)

 

2004/02/26

 

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ありきたりな出来事が、ちょっとしたズレから日常生活が一変してしまう、そんなストーリィ12篇。
前半の作品は、それ程重大ではない出来事に執着を膨らませ、かえって自分を追い詰めて苦境に陥る、あるいは失望に至るといった主人公たちが主。淡々と語られるため作者の意図をつかみにくいのですが、繰り返し読む程その味わい、苦みが膨らんでくる気がします。
見物客気分でいる限りは、何とつまらないこと、何と愚かに思い煩っているのかと滑稽さ・哀れささえ感じてしまうのですが、我が身を振り返ると笑ってはいられません。結構同じ様な悩みを繰り返していることに気付き、思わずがっくりしてしまいます。
また、後半の作品は、男女2人を中心にした気持ちのすれ違いが愉快。中には哀切感漂うストーリィもあります。

列車で隣り合った婦人が反応を示さない為に、触れる程度から痴漢行為にまでエスカレートしてしまう兵士(ある兵士の冒険)、海水浴場で水着が取れて困っているのに他の人間は無関心と憤りを募らせる婦人(ある海水浴客の冒険)、列車内の一晩を快適に過ごそうと用意周到な旅行客(ある旅行者の冒険)、鍵を忘れて外出したために朝の時間帯の楽しさを知ってしまう人妻(ある妻の冒険)の話が、とくに楽しめます。
また、海岸で知り合った若い女性に対し、早く読書に戻りたい、早く結末に至りたいばかりに、誘いに応じてさっさと抱擁を済ませようとする「ある読者の冒険」が、最高に愉快。ほんの一時のことだというのに、女性より読書を選ぶ男性がいるものでしょうか。少なくとも私はそこまで本好きではありません。

ある兵士の冒険/ある悪党の冒険/ある海水浴客の冒険/ある会社員の冒険/ある写真家の冒険/ある旅行者の冒険/ある読者の冒険/ある近視男の冒険/ある妻の冒険/ある夫婦の冒険/ある詩人の冒険/あるスキーヤーの冒険

      

2.

●「冬の夜ひとりの旅人が」● ★★
 
原題:"Se una notte d'inverno un viaggiatore"      訳:脇 功

 
冬の夜ひとりの旅人が画像
  

1979年発表

1981年12月
松籟社刊

(1500円+税)

1995年10月
ちくま文庫化

  

2013/01/12

   

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本、そして作家、さらに読者にまでまつわるお話。

本書は「あなたはイタロ・カルヴィーノの新しい小説『冬の夜ひとりの旅人が』を読み始めようとしている」という印象的な一文から始まります。
さて、どんな物語かというと、誰しもすぐ困惑してしまうのではないでしょうか。いったいこれはどんな物語なのか?と。そして読み進むにつれ、困惑の度はさらに大きくなることでしょう。
そこで少々整理してみるとまず、
「男性読者」「女性読者」が登場する本筋の物語があります。
「冬の夜」を読みだした男性読者は、ストーリィの繋がりがどうもおかしいことに気づきます。本屋に出向いて問い合わせたところ、別の物語と帳合いしてしまったという出版社のミスが告げられます。あなたの直前にやはり本屋に問い合わせに訪れていたのが女性読者。
そこから、とにかく続きを読みないのだという
女性読者=ルドミッラと、同じ思いを抱きながらこれを機会に女性読者と親密になりたいという念願を抱く男性読者=あなたによる、本を巡る、まるで迷宮に入り込んだような物語が展開します。

折角読み始めたのに、本当に同じ物語かと困惑も生じれば、途中で物語が中絶してしまうということが繰り返し。
物語を続きを求める男性読者、女性読者の前にその都度、別の物語が次々と登場します。各章の間にはさまれた表題が、それら各小説作品の題名という次第。
何故物語が途切れてしまうのか、そこはそれ、小説を書く側の苦労等に合せ、読者側にも多難あり、と語られている風です。
そんな展開と趣向に、本好きだからこそ感じられる、ワクワクする様な面白さが味わえます。
ただし、その面白さを充分に味わうためには、かなりじっくり読む必要がありそうです。しかしながら、いつも図書館からの借出し本、予約本を多数抱える我が身、とてもじっくりなど読んでいられず、かなり飛ばし読みしてしました。いつか読み直しの機会が持てればいいのですが、難しいだろうなぁ。

※なお、本の迷宮に入り込むという辺り、小田雅久仁「本にだって雄と雌がありますに共通するところを感じます。

第1章/冬の夜ひとりの旅人が/第2章/マルボルクの村の外へ/第3章/切り立つ崖から身を乗り出して/第4章/風も目眩も怖れずに/第5章/影の立ちこめた下を覗けば/第6章/絡みあう線の網目に/第7章/もつれあう線の網目に/第8章/月光に輝く散り敷ける落葉の上に/第9章/うつろな穴のまわりに/第10章/いかなる物語がそこに結末を迎えるか?/第11章/第12章

    


   

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