エイミー・ブルーム作品のページ


Amy Bloom  1953年米国ニューヨーク生、現在コネチカット在住。心理療法士として働く傍ら「ニューヨーカー」「ニューヨーク・タイムズ・マガジン」等に寄稿。93年初の短篇集「銀の水(原題:Come to Me)」が全米図書賞最終候補、2000年刊行の第二短篇集「A blind Man Can See How Much I Love You」が全米批評家教会賞最終候補。ドラマや映画の脚本を手掛けるとともに、イエール大学創作科で教鞭を執っている。

 


 

●「リリアン」● ★★☆
 
原題:"Away"        訳:小竹由美子




2007年発表

2009年06月
新潮社刊
(2000円+税)

 

2009/07/23

 

amazon.co.jp

ロシアの寒村で暮らしていたリリアン、ユダヤ人虐殺の難を受けて両親、夫を目の前で惨殺される。幼い娘ソフィーをニワトリ小屋に逃がしたものの、事件の後その姿が消えてしまう。
ソフィーが川の中を流れていくのを見たという叔母の言葉から、リリアンは全てを諦め、従姉のいるアメリカ・NYへ渡る。
そのNYで富裕な劇場主父子の愛人となり、豊かな生活を得たのも束の間、衝撃的な事実が従妹によってもたらされます。
ソフィーが生きていて、近所の夫婦に連れられシベリアへ行ったという。
全てを投げ打ち、陸路NYからアラスカを経てシベリアを目指そうという、リリアンの壮大な旅のストーリィ。時は1924年、リリアンは未だ22歳という若く美しい女性。

NYで自分の生活を確保するため、あれこれ願望し画策していたリリアンの姿は、シベリアを目指し一人旅立った以降はもうどこにも見当たりません。
しなければならないことがあるだけ。そこには迷いも選択もありません。娘の元へ向かう、という一事があるだけ。
金もなく頼る先もないまま陸路を経てベーリング海峡を渡ろうという若い女の一人旅が、どんなに困難と危険に満ちているか、わざわざ考えるまでもありません。しかし、そんなことは微塵も考慮せず、一心にシベリアを目指すリリアンの姿が圧巻、心打たれます。

母性愛の物語とも、若い女性による遍歴あるいは冒険物語とも、一人の女性の壮大な叙事詩とも譬えられる作品ですが、実のところそんな分類には何の意味もありません。
肝心なのは、リリアンという女性がいて、リリアンという女性が想像を絶する旅を辿ったこと、それが全て。
圧倒される思いを抱くのは、何もリリアンに対してだけではありません。リリアンが途中知り合う、少女のような黒人娼婦ガムドロップ、詐欺師一家の中国人娘チンキー、彼女たちもまた現在の境遇をものともせず、自分の歩むべき道をしっかりつかみ取っていく女性たち。彼女らの力強い生き方も圧巻です。

突き放すように淡々とリリアンの軌跡のみを語っていく、本作品の文章スタイルがとても印象的。
また、リリアン、ガムドロップらのその後の人生がきちんと語られているため、充足感があります。
そして本書を読み終えた今、深い感動が胸の内を静かに浸していることに初めて気づきます。
とくに女性読者へ、是非お薦めしたい逸品です。

1924年7月3日/1925年9月3日/1925年10月5日/1926年5月19日

   
新潮クレスト・ブックス

   


 

to Top Page     to 海外作家 Index