ゲアリー・ブラックウッド作品のページ


Gary Blackwood 青少年向き小説を数多く書いているアメリカの作家。「シェイクスピアを盗め!」にて1999年度全米図書館協会ヤングアダルト部門最優秀賞を受賞。


1.シェイクスピアを盗め!

2.シェイクスピアを代筆せよ!

3.シェイクスピアの密使

 


 

1.

●「シェイクスピアを盗め!」● ★★☆      全米図書館協会最優秀賞
 
原題:“The Shakespeare Stealer”   
訳:安達まみ




1998年発表

2001年1月
白水社刊
(1700円+税)

 

2001/02/11

1600年頃のイギリスが舞台。
孤児のウィッジは、最初の主人の元で彼が開発した速記を仕込まれますが、突然現れた悪人風のフォルコナーに金貨10ポンドで売り渡されます。
2番目の主人サイモン・バスからウィッジが命じられたのは、シェイクスピア宮内大臣一座が演じる「ハムレット」のセリフを速記で書き取り、台本を盗め、というもの。
ところが、ウィッジは書き取ったメモを紛失し、挙句の果てに宮内大臣一座に見習いとして迎え入れられることになります。
孤児で、他人から温かい手を差し伸べられたことなど無かったウィッジは、一座に徒弟として加わって、友人扱いしてくれるサンダー、ジュリアン、また自分を気遣ってくれる大人たちに出会いますが、なかなかそれを理解できません。
本書は、孤児ウィッジが友情や希望を知り、善悪を学んでいくという、少年の成長物語です。宮内大臣一座の中には嫌な奴もいますが、雰囲気は概ね温かく、嬉しい気分になります。
シェイクスピアの生きていた時代の物語というだけで、沙翁ファンとしては楽しくなってしまうのですが、当時の演劇風景、一座の舞台裏が描かれているのが更に楽しいところ。また、バーベッジを初め、登場人物の多くは実在の人物だということですから、興味尽きません。ただ、シェイクスピアの出番が少ないことがちょっと残念。
本書は、大人だけでなく、子供も楽しめる作品です。

    

2.

●「シェイクスピアを代筆せよ!」● ★★☆     全米図書館協会最優秀賞
 
原題:“Shakespeare's Scribe”     
訳:安達まみ




2000年発表

2002年1月
白水社刊
(1800円+税)

  

2002/01/25

シェイクスピアを盗め!の続編。
今回、ペストが再び流行の兆しを見せたことから集会・演劇が停止され、シェイクスピアの属する宮内大臣一座も地方巡業に出ることになります。
主人公ウィッジは一座の徒弟として雑用、稽古に追われる一方、舞台でも女役として活躍始めたことが冒頭で語られています。(※役としては「十二夜」のマライア、「恋の骨折り損」のロザライン、「空騒ぎ」のヒアロー等)

地方巡業は、役者一座にとって決して楽なものではありません。予定地で約束に反して上演を禁じられたり、追いはぎにあったりと、様々。この辺り、エリザベス期演劇を中心に当時の生活風景が生き生きと描かれていて、楽しい部分です。
そして、シェクスピア・ファンとして何より嬉しいのは、ウィッジを口述書記として、シェイクスピアが新作書き下ろしに奮闘する有様が描かれる部分です。題して「恋の骨折り得」(ですから、前作よりシェイクスピアの出番はかなり多い)。

上記のような楽しみもありますが、中心ストーリィは、孤児ウィッジが一座の中で成長をとげる姿です。
一座をすっかり好きになったウィッジが一番恐れることは、一座から「もういらない」と言われること。ですから、ウィッジは一座の中で一生懸命働く一方、内心常に恐れをいだいている部分があります。
そんなウィッジの新たな試練は、自分の父親と思われる人物との出会い、新たに加わった少年俳優とのライバル争い等。

シェイクスピア当時の演劇の雰囲気を味わいつつ、ウィッジの成長物語を楽しむ一冊。シェイクスピア・ファンにとっては魅力いっぱいの作品です。
もちろん、ファンでなくても楽しめることは間違いなし。

   

3.

●「シェイクスピアの密使」● ★★☆
 
原題:“Shakespeare's Spy”     
訳:安達まみ




2003年発表

2005年3月
白水社刊
(1800円+税)

 

2005/03/26

少年俳優ウィッジを主人公とするシリーズ第3弾。
読み始めこそ、マンネリ化し前2作に比べて面白さが落ちたかなと思ったものの、読み進んでいけばそんなことはまるでありません。前2作に負けず劣らず、この3作目もすこぶる面白い。

本書が面白い理由は、いろいろな面白さに充ちているからです。
まず、物語要素が実に多彩。
ウィッジやシェイクスピアが属する宮内大臣一座海軍大臣一座との争い、ウィッジの初恋、それから始まるウィッジの劇作家への挑戦、同年輩の俳優仲間とのライヴァル関係、カトリック迫害という社会問題、さらにスパイ任務や脱獄の手助けという冒険部分。この3百頁余りの一冊の中にこれだけの見せ処があるのですから、楽しくない筈がありません。
そしてそれらは皆、ウィッジの成長物語という大きなストーリィの中に収斂されるのです。
そのうえ、ウィッジ、ジュリア、テティといった創作人物のほかに、シェイクスピア、次女ジューディス、ヘミングズ、ジェラード神父、さらに海軍一座の興行師ヘンズロウと看板俳優エドワード・アレンといった実在人物が数多く登場し、当時のロンドンの雰囲気を満喫させてくれるところが嬉しい。しかも本書では、エリザベス女王の崩御間近という時期が背景になっていて、スリリング。
本シリーズは、主人公ウィッジの人物造形がとにかくお見事。ヨークシャー訛りも楽しいですが、未だ寄る辺のない身上という劣等感を引きずりつつ「ぼくは芝居っていう世界でじゅうぶんさ」と言い放つウィッジに、喝采を贈らずにはいられません。

なお、シェイクスピア・ファンにとっては、「尺には尺を」「アテネのタイモン」をめぐるエピソードがストーリィの中に織り込まれているところが、また楽しい。

  


  

 to Top Page     to 海外作家 Index