ジュリアン・バーンズ作品のページ


Julian Barnes  1946年英国レスター生、オックスフォード大学卒。OED(オックスフォード英語大辞典)の編集者等を経て作家。2011年「終わりの感覚」にて4度目の候補にしてブッカー賞を受賞。


1.
終わりの感覚

2.
人生の段階

 


                

1.

「終わりの感覚」 ★★☆    ブッカー賞
 
原題:"The Sense of an Ending"         訳:土屋政雄


終わりの感覚画像

2011年発表

2012年12月
新潮社刊

(1700円+税)

 

2013/01/16

  

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22歳で自殺した友人エイドリアン。その後何十年も経ってから、エイドリアンの遺した文書を遺贈されることになるとは。しかもその遺贈者は、主人公トニーが大学時代に一時期付き合っただけのベロニカの母親とは。
何があったのか。そして何故
ベロニカはトニーが遺贈された文書の引き渡しを拒むのか。
そこからトニーは彼を翻弄するばかりのベロニカを執拗に追い掛けながら、過去の記憶を辿ることになります。
冒頭に引用される
「歴史とは、不完全な記憶が文書の不備と出会うところに生まれる確信である」という言葉が印象に残るストーリィ。

友人エイドリアン、大学時代の恋人ベロニカ、トニーに好意的だったその母親。そして就職後の結婚、離婚、娘の結婚等々と、前半はごく普通の半生記。
しかし、ベロニカの母親による遺贈をきっかけに、トニーは過去の記憶の蓋を再び開けることになります。
自分と別れた後、付き合い始めたエイドリアンとベロニカ。トニーは2人に祝福を与えた筈だったが・・・。自分の半生を平穏だと語ったトニーの言葉は、本当に事実と一致していたのか。
結局自らの記憶とは、いつの間にか自分に都合の良いように書き換えているのかもしれない・・・と思うと、本ストーリィが伝える処には決して他人事とは言い切れないものがあります。
あの頃も今もあなたは結局何も分かっていない、というベロニカの言葉の裏に、こんな驚愕すべき事実が隠されていたとは!
 
文章は平易で分かりやすく、リズムも良くてとても読みやすい。そして、一体何があったのか。過去の記憶を辿るというスリリングな展開の中に潜むミステリ要素。
この趣向、味わいが何とも絶妙の面白さ、魅力です。
お薦め。

           

2.

「人生の段階 Levels of Life ★★




2017年03月
新潮社刊

(1600円+税)



2017/04/23



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2008年、著者は有能な著作エージェントにして最愛の妻であり、30年間連れ添ったパット・キャバナを脳腫瘍により失う。診断されてから死まで僅か37日だったという。
本書は、今なお消えることのない心の痛みを書き綴った一冊。

本書は歴史とフィクション、著者自身の思いをそれぞれに語る3部構成。
「高さの罪」は、ヨーロッパでの気球による冒険に挑んだ人たちの記録を語る章になっています。
「地表で」は、共に気球に乗った当時のフランス大女優サラ・ベルナールと、英国軍人で冒険家のフレッド・バーナビーのひと時の恋愛を描くフィクション。
そして
「深さの喪失」が、亡くなった最愛の妻を思う著者への消えることのない深い思いが書き綴った章。

気球の冒険と恋愛、妻の死がどう関係しているのか、と思う処ですが、空高く飛んで高揚していても、いつ墜落(愛する者の突然の死)するか分からない危険を孕んでいる、ということを伝えようとしたものではないかと思います。

第3章の文中、「誰かが死んだという事実は、その人が生きていないことを意味するかもしれないが、存在しないことまでは意味しない」という著者の言葉は、著者が抱えた悲しみの深さを言い表しているようで印象的です。
誰しもがいつ味わうかもしれない悲しみを綴った本章、胸に深く染み入ってきます。


1.高さの罪/2.地表で/3.深さの喪失

     



新潮クレスト・ブックス

      

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