ミュリエル・バルベリ作品のページ


Muriel Barbery  1969年生。大学や教員養成学校で哲学を教えていたが、小説家に転じ、2000年「至福の味」にて作家デビュー。同書はフランス最優秀料理小説賞を受賞し、14ヶ国語に翻訳された。第2作となる「優雅なハリネズミ」は07年フランスの書店員による投票で決まる Prix des libraires(書店員賞) に輝くほか、世界的ベストセラーとなる。08年初め夫君とともに京都に移住。

 


 

●「優雅なハリネズミ」● ★★
 原題:"L'elegance du Herisson"      訳:河村真紀子




2006年発表

2008年10月
早川書房刊
(1800円+税)

 

2009/03/19

 

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高級アパルトマンの管理人をしている未亡人のルネ54歳は、背が低くて醜く、ぽってりとした体型。
日がな一日TVばかり見て過ごしているというのが、いわゆる管理人像。ルネも住民たちにそう見せかけているのですが、実は哲学書も読むし、トルストイの小説は愛読するといった、職業に似合わず知性的な女性。
一方、そのアパルトマンに家族と暮す天才少女パロマ12歳は、周囲の低劣さに幻滅していて自殺を決意している。
自分の殻に引き篭って暮しているような2人ですが、アパルトマンに新しく引っ越してきた日本人紳士=オズ氏との出会いによって、2人の目の前には新たな未来が開き始める、というストーリィ。
表題の「優雅なハリネズミ」とは、パロマがルネを評して言った言葉。つまり、堅固な砦で身を固めているその内には、知的で高貴が心が隠されているのだ、という意味。

前半、ルネもパロマもやたら堅っ苦しく、理屈っぽいセリフが続くのでやれやれなのですが、オヅ氏が登場してからガラリと面白くなります。ただ、面白くなってからの部分が短い。
(※オヅ氏の名前が、映画監督の小津安二郎氏に由来しているのは間違いないところ)
著者は相当な日本贔屓らしく、オヅ氏周辺に日本風なところをちりばめ、しきりと称賛するが如くに描いていきます。が、その日本的な部分、かなり珍妙です。
肝心の面白い部分は短く、日本風なところを描く部分には頭を傾げたくなりますが、ルネとオヅ氏が親しくなるきっかけとなるのがトルストイ「アンナ・カレーニナ」となれば、ト翁ファンとしては嬉しい限り。
なお、ストーリィの他、アパルトマンの住民と管理人という社会的対称構図が生き生きと描かれている点も、面白きかな。

         


 

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