ポール・オースター作品のページ


Paul Auster  1947年米国ニュージャージー州ニューアーク生。70年代から詩、戯曲、評論の執筆、フランス文学の翻訳等に携わる。85年小説第一作「ガラスの街」が一躍脚光を浴び、以降現代アメリカを代表する作家。

 
1.
ガラスの街

2.オラクル・ナイト

 


      

1.

●「ガラスの街」● ★★
 
原題:"CITY OF GLASS"     訳:柴田元幸

  
ガラスの街画像
 
1985年発表

2009年10月
新潮社刊
(1700円+税)

2013年09月
新潮文庫化

 

2009/11/18

 

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妻子を亡くしNYという都会で孤独に生きる作家、ダニエル・クイン。今は探偵小説を1年に1冊のペースで刊行している。
その彼に、ポール・オースターという人物宛の間違い電話が何度かかかってくる。そして何度目かにかかってきた電話に、クインはオースターだと名乗って電話を受ける。
電話の主の用件は、殺される危険がある、探偵ポール・オースターに助けてもらいたいという依頼事だった。

今や自らの生み出した探偵の方がこのNYという街にふさわしい気がしているクイン、電話の主ピーター・スティルマン夫妻の元を訪ね、さも自分自身が探偵であるかのように、仕事の依頼を引き受けてしまう。
そもそもピーター・スティルマンという人物は信用できるのか。また、何故クインは自分に探偵仕事が務まると信じたのか。さらに、事件は本当にあるのか。
それら全てを通じて、最初から虚構に充ちているのです。
途中、事態に困惑することとなったクインは、ポール・オースターという人物を探し出しますが、相手は作家。
その作家ポール・オースターとのやりとりが面白い。ある有名な文学作品が話題に上るのですが、それこそが本作品の意味を解く鍵。
虚構性に充ちたストーリィですが、後半、クインが何時間も見続けてきた空を語る部分は、間違いのない真実。
本書中唯一と言って良いくらい、とても美しい場面です。

前半は意味の判らなかったストーリィですが、読み終わった今、上記の有名作品と並べて思い返すと、実に面白い作品を読んだという気分になってきます。
読み終わった後、時間が経つほどに、面白さが徐々に増してくるように感じられます。
また、ある意味で本書は、美しい都会小説。

※このオースターの第1作は、持ち込んだ17の出版社から拒絶され、その末にやっと出版されたものだという。
当初は、探偵小説として評価されたらしいのですが、探偵小説らしい様相はあるものの、決してそうでないことは明らか。

   

2.

●「オラクル・ナイト」● ★★
 
原題:"Oracle Night"     訳:柴田元幸

オラクル・ナイト画像
 
2003年発表

2010年09月
新潮社刊
(1800円+税)

2010/10/24

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重態だった作家が奇跡的に病院から退院。
そして、ふと入った文房具屋で買った青いノート。そのノートに向かうやすらすらとペンが走り、物語が書き始められる、というストーリィ。
物語内の物語。内と外の物語が同時に進行していきますが、何と引きこまれることか。

しかしあにはからんや、物語内物語が主かと思えば、後半、作家の実人生の方にこそ問題が生じます。

結局、とても幸せとは思えない結末ですが、物語は面白いもの、という意味では、内も外も物語も面白いのです。
そこに本作品の意味があるのではないかと思います。

   


      

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