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Joan Aiken 英国イースト・サセックス州ライ出身。父親はピューリッツァー賞受賞詩人のコンラッド・エイケン、妹も作家のジェーン・エイケン・ホッジ。大人向けのホラーストーリィやファンタジー短篇集、詩、戯曲を出版。ガーディアン賞、エドガー賞を受賞。 |
「月のケーキ」 ★★ |
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2020年04月
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幻想的、あるいはファンタジー、という雰囲気の短篇集なのですが、実際に読んでみるとその読後感はそんな簡単なものではありません。 確かにストーリィ自体は、幻想的だったりファンタジー的であるのですが、肝心なところで実に現実的なのです。 表題作の「月のケーキ」。祖父の住む村に滞在している少年トムのところに魔女のような雰囲気を纏った女性が訪ねてきて、時計の針を戻す、元の状態に戻すという効力のある<月のケーキ>を作る手伝いをしろ、と言うのです。 最後、トムの一言が愉快。これじゃあ、ファンタジー小説にはなりませんよ。 「バームキンがいちばん!」では、スーパーを経営している主人公の父親は売上さえ増やせるなら何をしたっていい、という雰囲気ですし、「怒りの木」では豊かな農地で暮らす住人たちを追い出して森にしてしまおうとし、「おとなりの世界」ではせっかくの平和な暮らしをゴルフ場造成のために打ち壊してしまおうとする。 いずれも現代社会の商売優先、利益優先という風潮への辛辣な批判のようです。 「オユをかけよう!」は愉快。やはり人の言いなりになるのではなく、自分の頭でしっかり考えないと。 「ドラゴンのたまごをかえしたら」では、融通の利かないドラゴン退治者を好きなままにさせたお蔭で後で苦労。最後の募集文言に笑ってしまいます。 パワハラ、セクハラ批判もありますし、最後の「にぐるま城」は戦争回避努力を怠ることへの皮肉でしょうか。 月のケーキ/バームキンがいちばん!/羽根のしおり/オユをかけよう!/緑のアーチ/ドラゴンのたまごをかえしたら/怒りの木/ふしぎの牧場/ペチコートを着たヤシ/おとなりの世界/銀のコップ/森の王さま/にぐるま城 |