第2章 実習教育の取り組みについて
はじめに
 アンケートで明らかになったことは、体験実習は、利用者とのふれあいが障害に対する学生自身の偏見などをある程度是正してくれることが分かった。保育実習では、期間的にも余裕があるため、さらに踏み込んで利用者に仕事として関わるにはどのような方法があるのかが、実習中の悩みとして捉えられている。いずれにしろ、利用者への理解や把握は段階があり、保育実習であってもはじめは体験実習のようにイメージや障害に対する学習不足は否めない。つまり、時間の長短があるものの障害や利用者を理解するにはある一定の道筋がある。
本章では、障害理解の段階的な学習の一方法を提示する。第1章のまとめでも述べたが、それぞれの実習形態には目的や意図がある。しかし、それに合わせた用意するのではなく、一貫した障害理解を目的とするいわば共通基盤としてのプログラムである。このことは、実習の意義に沿いながらも学園側での自立した実習教育の確立を目的としている。
 なお、本章の構成は、大きく体験実習、保育実習、社会福祉士実習の3つに分けて、実習のあり方とこれまでの取り組みをまとめていく。次に、その際に使った補助教材としてのシートについて解説を行う。

第1節 実習の種別について
第1項 体験実習
 体験実習はいわゆる福祉教育の一環であり、その意義はふれあうことによる、価値観の多様性の気づきやいわゆる社会的に弱者といわれる人たちに対する偏見や差別の是正を目的[8]にしている。その成果は、アンケート結果にも見られ、それなりに効果があった。
 こうした体験実習は、実習自体が初めてというケースも多く、また動機付けも低い人(何となく学校にいわれたから来たとか)が散見される。そのため、何をしたらよいのか分からないといった疑問を持つことも多く、中には利用者に何をしに来たのと言われたりするケースもある。我々職員の仕事の流れを教えても理解しない内に終わってしまうことも多く、本当にさわりを見てもらうという観察が中心になる。体験実習はそれでもよいと考える。
 ただ、今年度は動機付けを明確にするために、何人かにガイダンスの際、シート1を利用している。シートの具体的なことは後述するが、実習に入る前に実習生自身が抱いている障害のイメージをガイダンスで言語化させ、そのことによって実習中にそれは妥当だったのかそれとも違うのかと少しでも意識して臨めるように配慮した。

実習プログラム
ガイダンスの際にシート1を使い、障害に対する意識化を図り動機を強める。

第2項 保育実習
 Q園では、保育実習は長年取り組んできた実習教育である。特にM短大とは古くからの付き合いである。さらに、昨今は福祉のマンパワー充実が政策的にも誘導され、保育に関しても人材の確保が急務となっている。こうしたことが背景となって、K学園など専門学校でも保育士養成の大学と連携し、保育士資格取得を要件とするケースが出ている。しかも、いわゆる施設実習は選択必修の実習であり[9]、施設種別の選択肢はあまりないため、教育機関が増加しても受け入れ施設が限られている。そのため、受け入れ施設の確保は難しいといわれている。よって、今後も学園は保育実習の受け入れ施設として貴重な存在である。
 保育実習は、専門職養成の観点から、保育者として利用者とどのように関わるのかを目的になる。そのためには、我々の仕事の内容を理解し、適切に関わることが求められる。どう関わるのか。利用者の理解とは何か。様々なルートがあるといえ、まず、障害に対する知識が必要になる。さらに、利用者の個性、生活歴、学園での生活の取り組みや着目点(支援内容)を知ることが求められる。その上で、日常の関わりの中で受容だったり、共感するといった専門職としての関わりを実習をとおして体感し身につけていくことが必要である。なお、保育の専門性について簡単に述べると「子供達のよりよい発達を目指し、幼児期の特性を踏まえながら、環境をとおして行うものです。中略。保育者は子供と関わり、受容し、理解し、環境を整え、励まし、教え導くなど、共に活動し生活する中で多様で重要な役割を果たすことが求められる」(森上ほか〔2001,1〕)とされる。こうした視点の上に立って、学園では上述のような障害への知識が求められる。
 学園の実習はこれまで平常時間だけの実習を行い、会議には参加させなかった。専門職養成の視点で考えると、今後は、できるだけ様々な場面や時間帯を経験させるように工夫した方がよい。障害の理解や学習は、ケース記録の要約を通じて行っている。これは、シート2を使用して効率的にまとめる工夫をしている。また、一部の学生にはガイダンスでシート1を使って、障害に対する知識やイメージに対して確認をとっている。

実習プログラム


第3項社会福祉士実習
 今年度、学園では2名の社会福祉士実習を行っている。来年度も2名の実習生を教育機関から依頼されている。さらに、今後は受け入れについて定着させていきたい旨も教育機関から話されている。これまで学園にとって、あまり関わりのなかった実習形態であるも、4週間という長い期間の実習をどのようにプログラムを持って臨むのかが問われている。
社会福祉士実習は、いわゆる「(ソーシャルワーカー)養成のためのカリキュラム」(日本社会事業大学連盟ほか〔1996,P.8〕)である。それは介護技術などのケアワークや直接生活援助(食事介助、見守りなど)と区別[10]して相談援助を通じて、利用者の心理的・社会的問題の解決を行うことが大義[11]となっている。そもそもソーシャルワークとは何か。ケアワークとの区別とは何かという枠組みについて論じるのは本論の範囲を超えてしまう。しかし、簡単に述べるなら、竹内(2004,P.181)の「ケアワークの場面を通じて「相談援助業務」に必要な能力を身につける」という立場が施設実習では妥当と考える。
学園は利用者の生活過程に働きかけるのが仕事である。そのため、ケアワークとは切り離せないし、その中に社会的な調整(家族、養護学校)も含まれたソーシャルワークを行っている。さらに日々の日常業務でも微細にわたって様々な個別援助技術が援用されている。
社会福祉士実習は、学園でもっとも長い期間行われる実習である。保育実習では期間的に利用者のこれまでの生活構造や生活歴などをとおして個別的な関わりのとっかかりを学ぶので精一杯である。社会福祉士実習では、さらに実習生がどのような働きかけをすることができるのか。微細な日常業務の行為そのものを客観的に記述し、そこにはどのような専門性があるのかをシート3を使用して考察する。それを通じて、自分自身の「関係性」の内にその利用者を評価したのかを考察するためにシート4を使用する。こうした利用者との「関係性」[12]は、単なるふれあいよりもより自己内省の伴う作業である。そして深く関わろう・知ろうとする行為によって、利用者に振り回されたりして、いらだちなど感情のゆらぎに悩まされる。こうした感情の振幅を意識付け、「決めつけや偏見に支配されないしなやかな視点、創造性を育てる出発点、援助の進め方の糸口を発見する基礎」(尾崎〔1999,P.292〕)を共に学ぶ視点で実習を進めることが必要である。
その他、日常業務では教えきれない社会制度的なことや障害の学術的な見解などについては、文献を提示[13]して要約と感想を書かせている。これらは、そうした言説が学園に影響を与えていることを知る契機となる。

実習プログラム

第2節 実習に使うシートについて
第1項 シート活用の目的
これまで利用者への段階的な理解については述べてきたためにここでは繰り返さない。ここでは、なぜ、シートを使う必要があるのかについて述べておく。
これまでの実習は、「現場で系統だった学習・教育の方法はとらずに、「見様見真似」でやった方がよいとする考え方」(高木,〔2000,P.80〕)といった、教育や系統だった学習は実習後学校に持ち帰ってから掘り下げればよく、現場はありのままの見せ、感じるままにふれあうことだけで十分だとする考えである。こうした考えは少なからず学園の職員にもある心情である。しかし、実習は時間的な制約がつきまとっている。その時間的な制約の中でいかに効果的に学習してもらえるのか。
利用者を理解する視点や接する上での専門性とは何かなど、こうしたことはこれまでも、その時々の実習記録のコメントや日常業務内での何気ない会話に散見されていた。しかし、より実習生が主体的に学習し、利用者などを理解していくためには、ある程度系統だったプログラムが施設側で必要になってくる。そうした意味でも、以下に挙げるシートを有効に活用し、より実りある実習教育を行って欲しいと考える。

第2項シート:1(障害のイメージの意識化)
(1)目的
主にガイダンスや事前学習などで施設を訪問した際に用いる。このシートは、体験実習であっても社会福祉士実習であっても使用する。
目的は、自分の持つ障害者のイメージを言語化することにある。この作業を通じて実習中に抱くイメージと照らし合わせて偏見や誤解などがあるのか。体験的な関わりを通じて検証するために使用する。
出会った事のある人の特徴。本で知った知識。知らない人はどのような印象を持っているのか。いずれにしろ、これまでのイメージについて簡単に述べてください。
シート1
図 1 ガイダンスなどに使用するシート(現)

(2)使用の実際
どの形態の実習にしろ、知的障害などの障害に対して漠然としたイメージをもっている。それは社会一般で言われたような障害者であったり、文献の知識だったりと直接ふれあった結果のイメージでないことが多い。例えば、自閉症について、引きこもり、対人恐怖症と同義に捉えていたり、知的障害のイメージで、四肢が硬直してよだれがいつも垂れているといった身体障害と区別が付いていない人もいた。さらに、街での見た知的障害者のイメージ、いつも奇声を発する。いきなり話しかけてきたとか、怖いとか何をするか分からないといった感想もあった。または、障害者のインパクトがあった奇異な行動、突然机に頭をぶつけてぐるぐる回ったとかそうした断片的なことが多い。最近は、自閉症のドラマを見てとか、特徴としてもぶれないようなことを書く学生もいたが、ドラマはある意味、脚色や圧縮してイメージを作るため実際と違うことも多い。さらに、知的障害と自閉症が重複している場合、その区別が難しいし、特徴は多様である。いずれにしろ、このシートを記載させる意図は、自己の持つイメージを記述をとおして明確に認識させることにある。しかしながら、あまり難しく考えさせたり、良い印象を持ってもらおうとする気持ちが働かないようにこちらで配慮する必要がある。具体的には
  1. 記述の時間は、宿題で持たせたこともあったが、その場で15分くらいをめどに書いてもらう。箇条書きでもかまわないし、一行、二行でもかまわない旨を話す。
  2. 難しく考えずに、分からないなら分からない、イメージが湧かないなら湧かないとと書いてもかまわないとフォローする。
  3. このシートをもとにガイダンスを行うだけであり、手元に帰すことを話し、安心させる。同様に記名も必要がないことを話す。
具体的な話し合いのポイントは、
  1. 実習生が書いたイメージを否定せず、なぜそのようなイメージを抱いているのかを聞く。「あなたは、こういう風に書いているけれど、そのきっかけは何でしたかなど。」
  2. 短い時間で書いたものだけに、箇条書きや短いものが多い。そのため、さらに話し合いの中で膨らましていき、他の実習生にも聞いてもらいながら、一人一人のイメージを共有するように働きかける。「○×君は、こういう風に書いているけど、なるほどそういうイメージを抱いているんだ。」など確認しながら話を引き出す。
  3. とはいえ、明らかに違ったことを書く人もいる。「そういった人には、それは多分違うと思うけど、まぁ、実習をする中で気づいていくと思うよ。」とほのめかすなどで注意を喚起する。
特に、3は実習を行う中で少なからず、イメージが変わることになるということをほのめかす。それは利用者との関わりについて、先に書いた自己イメージと照らし合わせることで意識化が図られやすくなる。

(3)考察
医学部などの半日では、意識付けとして有効であるし、保育実習においては、このシートを使った事前学習が意識の通底として働いており、実習をとおして、障害とは何かと考えるきっかけになっていく。
しかし、やや利用者をいかに理解したらよいのかという意識が強く働きすぎて、当園の役割とは何か。施設で働くこと〜業務として利用者と関わるという視点が欠ける嫌いがある。あくまでも職員は、仕事として利用者と関わっているのであり、そのための対象理解である。そのため、以下のシートをガイダンスで使ったらよいのか現在検討中である。
シート1-2
図 2 ガイダンス・反省会で使用できるシート(試案)

(4)図4について
保育実習や社会福祉士実習では図2のシートを使っても良いかも知れないが、体験的な実習においては、あくまでも対象理解を目的にしている場合が多いため、必要がないかも知れない。また、シートを二枚渡して記載となると体験実習ではガイダンスが時間的にも間延びしてしまうおそれがある。
しかし、保育実習にしろ社会福祉士実習にしろ、社会情勢や社会福祉一般について学習をしてきているはずであり、設問のはじめは概説的なことであり記載はできると考える。同様に、下の設問については実習生は、学園に来るという主体性が存在していると仮定して、それなりに調べてきていることを前提に、自己のイメージを記載することは可能である。
また反省会でも使用できるのではないか。図1は実習の主眼となっていくが、図2の視点は結構ないままに実習を終了する学生が多い。そのような意味で、図2によって施設を「社会的な役割」の観点で喚起させていくことができる。
そういった意味で、図2は、図1同様にガイダンスではその記載のイメージを否定はせず、反省会では実習をとおして何を学んだのかを話し合うための大枠になりうると考える。

第3項 シート:2(ケース記録の要約)
(1)目的
教育機関でも、個人情報の収集の大切さについて、例えば、利用者の生活歴やエコマップを利用した記載についての手引き[14]が時折渡される。しかし、その内容は汎用性が高く、詳細に渡って情報を整理するには学園では大枠過ぎると考える。また、保育士実習では個人情報に関する学習の手引きが渡されることはない。一方、介護技術実習でのマニュアル[15]を見ると、長い期間同一の施設で実習をするため、かなり広範にわたって個人情報の収集を行い、介護技術に関する細目があり、自己学習する環境が整っていると感じた。
社会福祉士は、多様な機関で行うために、個人情報の収集の方法に統一性を持たせるのが困難などである。しかし、社会福祉士実習は個人情報に関するの学習は必要不可欠である。
保育実習でも、保育の役割として障害児保育がサービスの一環になっており、そうした意味で障害者の特性を把握し、どのように接したらよいのかがを知る上で、ケース記録の学習は必要である[16]。さらに10日間の実習中に気になる利用者というものが2〜3人出てくる。そうした興味や関心をより深めるためには、まずケースを読むことである。ケース記録は、その利用者の過去を知ることができるし、支援の取り組みの中で発達した、変わったことなどを知ることができる。それは、利用者の姿を違った角度で見直すことができるようになる。例えば、入所当初は年齢不相応にオムツを着用し、言葉もなかったが、徐々にオムツがとれ、言葉も出るようになったなどがケース記録から分かることがある。そのときどのよう働きかけがあったのかケースを読み解きながら考えることができる。いずれにしろ、一期間の日常しか見ることのできない実習生にとって、ケース記録を読むことはそうした日常の連続性の中に、その利用者が少しづつ変わっている、発達していることを知ることに他ならない。
とはいえ漫然と読むのは時間的にも余り意味がないし、自己流で集約して行くには短い実習期間では困難である。よって、以下のように項目別にまとめるべきことが整理されたシートを活用することによって、よりクリアになっていく。
このシートは、保育士、社会福祉士実習において利用している。勉強になっているようで、アンケートでも感謝の意を表した記述があった。このように、ある一定の時間、机を使ってケースを読むなど主体的に学生が実習が行える環境の必要性[17]は、社会福祉士に限らず保育士においても必要である。
シート2
二重線の上の方は、ケース記録や担当者から話を聞きまとめる。下は、実習生が実際に関わった際に抱いた印象や、関わりに対して自分で気がついたことを記入する。
図 3 ケース記録から集約させるシート(現

(2)使用の実際
【入所の理由】については、児童相談所からの措置文書などのフェイスシートから抜粋、【施設と家庭の関係】は、措置延長書類や知的障害児童調査書からまとめさせる。【学校との連携】については、中間評価、総合評価、ケース内での記述をもとにまとめさせる。【支援目標・継続】に関しては、中間評価、総合評価必要に応じてケース内の記述を参考にまとめる。
【印象】は、このシートは保育実習なら10日あるうちに7日後くらいをめどに手渡している。そのため、はじめの頃の印象とこれまでの実習過程で抱いた印象が混ざることもある。しかし、自分で読みたいと選んだ利用者を選ばせているため、しっかりとはじめの頃のインパクトなどを書けることが多かった。
 また、シートの記入は、一日に一人を選んで、1時間程度にとどめて、書き切れなければメモを取っておく等で宿題にさせたこともある。大抵、一人目の記載は時間がかかるが、見方や読み方のコツを教えると、二人目からは1時間以内で終われることが多い。しかし、書くのが苦手な実習生もいて、本来の実習から逸脱するケースもあった。確かにこうした机上の学習は必要であるが、最低限やらなければいけない日常業務の流れから逸脱しない程度にというのが原則であろう。

(3)考察
 このシートから、例えば、入所理由を知るだけでなく、その背景について推測し、実際に家族はどう思っているのか、入所するまでの利用者の生い立ちや機関での関わりなどに思いをはせ、職員に尋ねたりすることで、個人としての顔と姿がより生きたものとして深みを持って立ち現れる。また、日常業務の中で、どのようなことに着目しているのか、その変化はどうなのか。調べていく過程や実習をする中で確認することができる。こうした一連の把握は、それまで日常業務の流れをとりあえず覚えるというものから、個別的な働きかけやアプローチの視点を与える。さらに、実習記録への記載にもこうした情報が背景にあると、利用者へのイメージの変化と考察が深められていく。これは漫然と日常業務をこなしていくだけの実習とは大きく違う。
 それでも、記載した学生から、支援目標がいつ変わったのか。どのように評価されているのかケース記録から読み取ることができなかったと指摘があった。また、介護技術実習のシートから対象者をいかに理解するのかについて学ぶ面があったため、以下のような試案を提示する。
シート2-4
図 4 個別評価シート(試案)

(4)図4について
 主に【総合評価】や【知的障害児調査書】を参照することになるが、観察をしながら自分なりにチェックするように指導をしてもよい。介護技術実習のシートでは、より四肢の状況や食事、排泄についてリハビリテーション理論に基づいてマニュアル化され、細分化されたものが採用されている。しかし、学園では、この程度のチェック項目でも十分に観察の視点を提示しうると考える。また、評価について自分ではできないという場合は、難しく考える必要がないこと。また、総合評価などですでになされているものを参照してもかまわない旨を伝えることが重要である。また、このシートと共に、図5のシートをあわせて記載することを話す必要がある。いずれにしろ、図4の作成でADL,QOLの程度あるいは障害の多様な要素について知ることができる。
シート2-5
図 5 個人評価シート2(試案)

(5)図5について
図5は、図4でチェックした項目を一度まとめることを意図している。【チェック項目からの総合的な記述】とは、図4で日常行動でチェックした項目で、例えば(異物食が毎日ある)と(自傷が月に一回)とチェックされていたら、それを抜き出してまとめておくといったことである。【どのような支援内容なのか】はこれもケース記録の中にある【総合評価】に書かれておりそれを要約をする。【最近の支援内容】はケース記録内の中間評価や重点課題評価からまとめ、【入所直後の支援内容】は措置文書から抜粋する。こうした作業を通じてその人の障害のプロフィールや支援内容の大枠を知ることができる。
この図4,5をとおして、作成途中では、例えば自傷とは何か分からなくても日常の場面で見られるかも知れないし、自発的にケース記録の中で調べるきっかけになる。こうしたチェックを行うことで、日常の場面場面により観察の視点が育つと考える。例えば、入浴介助で、その人が全介助となっている場合、何が部分介助でと比較ができるなどである。
 図4,5から、それまでに使っている図3の項目が若干整理されて来る。
シート2-6
 二重線の上の方は、ケース記録や担当者から話を聞きまとめる。下は、実習生が実際に関わった際に抱いた印象や、関わりに対して自分が気がついたことを記入する。
図 6 個人観察シート(試案)

(6)図6について
 図3の項目を整理した上で【他の機関と施設の関係】を追加する。これも福祉事務所の措置文書や知的障害児調査書から拾うとか、職員に聞くなどからまとめる。
 時間的に以上に挙げた図5,6と図7も併せて記載となると1時間では終われないことが予想される。図4,5を図6の後にするか先に提示するかは別にしろ、個別的な評価を保育実習であれば、7日後に行っているのを4日後から徐々にはじめる形で行っていく必要がある。大抵実習自体は3日もすれば慣れはじめていくようであり、こうしたケース記録への学習は十分可能といえる。

(7)まとめ
 こうしたことを実習指導として簡単にまとめると以下のとおりである。
  1. 個別的な背景や特徴、障害の理解を知るためにケース記録から必要な情報を引き出すことを目的とする。
  2. 保育実習においては、ある程度慣れた時期からはじめる。また、1時間以内で一人に絞ってまとめるなど時間を決め、その時間帯は、比較的まとまった時間のとれる日常業務の合間が望ましい。ケースの選定は、実習生の主体性でも良いが決めれない場合は、職員が与えても良い。
  3. 項目の書き方は上述のとおりであるが、せっかく書いたシートなので、担当者は一回は目を通して話し合うと良い。また、このシートをもとに実習記録により詳しく関わりを書くなど、連結する形で指導をすると良い。また、シートの記載で著しく間違った記載の場合は訂正を求めた方がよいが、それ以外は、補足という形で述べるにとどめる。また、実習生の方でも読んでもらえたことで、その後の質問でもスムーズになりやすく、建設的な質問が出るようになっていく。

第4項 シート:3(利用者との「関係性」へ)
(1)目的
 このシートを使用するのは、社会福祉士実習のみである。シート2では、利用者の大まかな背景を描写したが、シート3は日常の中での実習生が主体的な関わりをとおして対象をより理解していくことを目的にしている。
 社会福祉士実習も3週目にもなると、ある程度状況にも余裕が出てくるし、自分からの利用者への働きかけについて考察ができる。シート2から興味のある利用者の背景や特徴をつかんだ後、では、日常で働きかける援助、支援とはどのようなことなのか、そして、どこまでできるのかをシート3にて集約させて考えさせる。
 なお、このシートは田中(1993)が提唱する介護過程分析表を参照している。この分析表は、ある限られた時間内での単一の利用者とのコミュニケーションについて、「援助者の状況より、援助者側の頭の中(目に見えないもの)と具体的言動(目に見えるもの耳に聞こえるもの)とを分別し」(田中〔1993,P.94〕)、時系列に細かく並べられるものである。この分析表の意図は、援助者は自分の心理的な働きや五感を総動員して、利用者の気持ちを洞察し、推測し、利用者と関係性を図ろうとする自己(援助者)の試みを再現する分・秒単位の思考のフィルムである。
 このように分単位でのやりとりをまとめるには、かなりの思考力を要する。それをさまざまな実習生・担当者に求めることは困難と判断する。とはいえ、この着想は良く、生活過程での関わりを客観的に並べることによって、相互の関連・関係が把握しやすくなるという面をシート3にて表現してみた。

個別観察記録用紙(場面別)氏名(イニシャル) Aさん
シート3
必要なら複数枚でも可。また、一つの事項で書ききれない場合はまたいでも可。
図 7 日常生活における援助過程(現)

(2)シート3の実際と考察
一人の利用者との関係を記載していくのは、分析表と同じである。しかし、分析表は分単位の記載であったが、シート3では1週間の関わりの中から自分が意識として心に残った事項をまとめることにした。それは実習記録からピックアップしてもよいし、日々の中で印象のあることやよく見られることを挙げてもよい。いずれにしろ、それに対し自分がどう関わっているのかを意識化させる。
記載項目に関しては分析表では、【状況】【自分はどう思ったのか】【自分はどう行動したのか】【行動に対する評価】と区切られていた。分析表は、分単位の観察のため状況説明が細かくできる。しかし、シート3は1週間の出来事をまとめるため、着眼点を整理するために【項目】の欄を設けている。また、【関わったときの反応】に関しては、実習生が実際に関わって得た反応だけではなく、職員の動きなどを観察し、実習生にとって有意と思った関わり・反応も含めることで、実際の行動や【次への行動】の指針になり得ると考えた。
 この実習生は、特に午前中の作業時間を集中的に情報を収集し、関わりを持とうとしている。その中での、彼の行動、作業の省略や、異食行為、などがピックアップされている。それらのことを起点に何とか自分から働きかけてどうにか利用者を理解し関わろうとしている様が伺える。そして、相手のペースに合わせようとする場面と、自分のできる範囲で修正しようとする場面など様々な行動や心情が考察されている。
反省点として、状況と反応が一緒くたになっている項目もあり、筆者が実習生が記載したものを見た際に、もう少し状況について詳しく書くように指導しているがうまく伝わらなかった。また、ただ観察に留まっている項目がある一方で、次への自分の行動の指針を打ち出している項目もありばらつきがある。もう少し実習生と記載された行動や推測について話し合い、検証し、そのときに思ったことやその行為や反応はどのような意味があるのかなど詰めていくことが必要であった。
 しかし、こうした日常での関わりを意識的に拾い上げ、集約させ、状況と関わり、推測の循環で考察を深めていく作業は、自分自身の主体的な関わりを促し、より利用者を理解しようとする契機になる。そのことによって、「関係性」が醸成されていくと考える。

(3)まとめ
以下実習担当者への視点として要約すると、
  1. シート3は、シート2の生育歴やパーソナルデータを受けて、実際の関わりについて考察するためにある。また、期間的に社会福祉士実習の3週目あたりに使用できる。
  2. 日常の断片を集約させ、自分の関心の持った項目について、どのような状況だったのか。それについてどう関わったのか。そして、それはどのように考え、次に行動するときにはどのようにしようかを推測することにある。つまり、状況、観察、行動、思考を総合的に結びつけることを目的にする。
  3. こうしたプロセスは、自分と利用者の距離感や関係性、その観察の視点がどのような意図があるのかなどの問いが含まれるが、そのことまで言及し実習生に考察させるには期間的にも短い。シート3はあくまでも実習生が主体的に関わるための道具として捉え、推測の部分を重視し、なぜそのように推測したのかを補足ないし説明を求め膨らませることが重要である。

第5項 シート:4(自己評価について)
(1)目的
 このシートも社会福祉士実習のみに使用している。シート3で利用者との関係性が積み重なれるも、実習という限られた時間のなかで一旦区切り自己評価することが必要になる。
我々の仕事でも日常の中での観察や関わりをとおして利用者のできること。自分が関わってできることやできないことを自己評価している。利用者との日常の関わりの中で、ちょっと変化をつけることで、それまでできないと思っていたことが、本当はできることがあったりする。それは不断の観察と関係性の中で醸成されていくものである。そしてそれは、長い期間で発見できることもあるし、短い期間でも発見できる場合もある。さらに、その利用者とある時は深く関わらざるを得ない場合もあるし、すれ違うこともある。または、まったく距離感もつかめずに担当からはずれる場合もある。いずれにしろ、日常の中でどのようなことを見たのか、関わったのかを一旦評価していくことが必要である。こうした積み重ねが関係性の深化であるといえる。
シート4は実習をとおして実習生はその利用者とどう関わったのか。そしてどのように映ったのか。自己評価をしていく中でその関係性を見つめ直すことを目的にしている。
個人観察記録(全体・まとめ)

こういう一面があった。こういう場面ではこのようにしたら良かった失敗したなどを一回まとめる。
シート4
図 8 利用者像の構築(現)

(2)図8の実際と考察
 シート3を集約させる形でシートの項目を作成している。特に、最後の項目は実習生には難しい内容である。いったいあなたはその利用者を関わりの中でどのように把握したのかと問われているからである。これは我々職員にとっても難しい質問である。しかし、この実習生はよく自分のことを分析していると言える。また、なぜそう分析したのか利用者の動きや関わりの中で考察されている。こうした観察ややりとりをとおして、自分がその利用者を担当したときにどのように支援計画を立てるのか。そこまで持っていくことができたらシート3,4はより活かされてくる。もし時間的な余裕があればそのような形で実習生に擬似的な支援計画の作成を立てさせるような指導が行えたらと考えているが、それは今後の課題である。
 いずれにしろ、何気なく行われている日常業務を意識的に観察し、主体的に関わることをシート3を使用して考察し、シート4において一旦まとめて見るも、その利用者の行動自体は実習をはじめた当初とあまり変わっていないことを知る。しかし、自分がその利用者にいつの間にか様々なことを思い、様々な場面で観察し、関係性を結んでいることを知る。そういった意味で、その利用者を理解しようとする行為を通じて、自己(実習生自身)の有り様を見つめ直していることになる。図7の最後の実習生の言葉がそれを雄弁に物語っている。「彼とTEACCHプログラム時の様な“適当な距離感"は掌握時間に保ちたいというのは困難なのか、失望と熱望が繰り返す」と。いずれにしろ、距離感や関係性はその人に対してどのように関わるのかと試行錯誤を通じて得られるものである。その一端を知る手がかりになったと言える。それは、無論援助者としての関係性であると同時に人としての距離感も含まれてくると言える。

第6項 シート活用のまとめ
 実習プログラムの段階的なプロセスとは、結局障害のイメージから出発し、個への理解をしていく中で単なる障害者という見方から利用者が持つ多様な状況や困難性に気づき、主体的に関わろうとすることで、いったい自分はどんなことができるのかを考えることにある。それは利用者と援助者の間にある「関係性」であり、その関係性にある豊かさと深みを知ることにつきる。
 シートについてまとめると以下のとおりである。
  1. 1.シート1で、自分の中にある障害のイメージの確認を行う。それをふれあいや実習を行っていく中で検証する。
  2. 2.シート2のケース記録の要約は、利用者には一人一人の個性があり、その個別性の中で支援を行われていることを知る。
  3. 3.1.2を踏まえた上で、自分が利用者と向き合ったとき、どう主体的に関われるのか。専門性とは何かといった関係性を模索する。シート3でその分析が行われる。
  4. 4.その関係性はどのようなものであったのか自己評価をする。それは1〜3を貫いて自分はその利用者をどう感じ、思い、考えたのかを検証する。シート4はその意味でひとつの手がかりとなる。
 繰り返しになるが、実習の期間によって学べる範囲は限られてしまう。しかし、このような段階があることを念頭にいかなる実習においても総体的に実習教育を行うことが求められていると言える。

おわりに
本論は、アンケートを通じて実習生・担当者の気持ちや視点について明らかにした。それをもとに、「体験そのもの」を実習という意義で捉え直し、プログラムとして提示し、それを支えるシートについてのべてきた。特に、シートに関してはそのように取り組んでいる障害児・者施設がなかったため試行錯誤でこのようなプログラムや実施内容が妥当なのか、専門性に即しているのか未だ持って自信がない。しかし、繰り返しになるが、利用者をいかに理解するのかは、結局ふれあいから知ることにつきる。体験が何をもたらすのかはこれまで述べてきたように、少なからず実習生がこれまで抱いてきた価値観を変化させる。これは、これまで実習生を担当してきた中での確信である。こうしたプログラムを糸口にして実習生が障害児・者に対してより興味と関心を抱いてくれたらと願う。
また本論を契機に、職員にも何かしらのアイディアとなって実習指導に取り入れてくれたら幸いである。
今後の課題として、プログラムやシートは改善の段階であり、十分にその効果について分析されたものでない。より改良を加えていきたい。また、今回は枠組みの提示を最優先させたため、省略した面(例えば、理論的な枠組み、特に対象理解の方法論など)と、もっと簡素化して使い勝手のよいものにしなければならない面(マニュアル化)が同居している。今後は本論をこの二つの方向で詰めていきたい。
2005.2.22

1章へ→
注釈へ→
←ホームへ
←メニューへ