2021.9
少子化がもたらすものと この先
少子化の現状と課題(筒井淳也)
- 戦後日本において出生率の大きな低下は,1950年の人工妊娠中絶によってもたらされた「子どもは二人」という家族の一般化,1970年代からの出生率の低下は出生数の減少と言うよりも晩婚化や未婚率の向上により一人しか持たないなどで下がり続けた.2006年から10年続く回復基調は団塊ジュニアの駆け込みを含む出産可能年齢の女性による.しかし,2005年には1.25まで低下し,だいたい現在は1.34ぐらいとされている.
- 海外,先進地においても2.0は切っており,移民に頼らざるを得ない状況になっている.経済的に比較的所得の高いアジア圏ではシンガポールでは1.14,韓国では0.84となっている.
- こうした出生率の低い国の共通としてみられるのは,性別分業制の維持とそれに伴う公的家族支援の小ささ,過度に競争的な教育・労働環境であること.特に性別分業制(男性が稼ぎ,女性主婦モデル)は現在の低成長の経済状況の中男性だけの稼ぎでは生計を維持できないばかりか,女性が家事に周ることで公的支援が届かない家族主義に帰属されがちである.
- 少子化問題は、単に労働人口が少なくなるのではなく,人口構成のゆがみによる社会保障をはじめとする各種の政策の自由度を狭めている.少子化に対しては,少子化社会対策大綱でも明示されるようになっている.
- 論者は共稼ぎモデルが推進されることが少子化対策に有効であり,共稼ぎを前提とした子育て支援をするべきであると提言している.その上で,教育のコストの削減をするべきである.それに並行して移民の受け入れ拡充整備が必要である.
- 少子化は家族・親族構成を変えるために家族経験や家族規範を変える圧力がある.介護の問題や生活の不安定化などである.
コロナ禍で露呈した脆弱なセーフティーネットー少子化対策の限界を踏まえ,次の段階へ(榊原智子)
- 令和二年の出生数が84万人,令和元年が86万と86万ショックと言われたがそれ以下であった.令和3年は80万人を割り込むのではと言われている.コロナによる自治体による妊娠届け出が減少しているとのこと.
- コロナのため,自宅での生活を余儀なくされたため,子育ての大変さとか収入減少とか,育児ストレスなど情緒不安定になったとのアンケート結果があり,多重災害のように起きている.このことは出産や育児の自助は限界になっていることを示している.コロナのせいで,里帰り出産や自分の母親が来てもらって産後ケアを手伝ってもらうことが困難であった→次の出産が考えられないとする意見も当然である.
- 最初は1994年第一期はエンゼルプラン,2001年には待機児童ゼロ作戦,2003年には少子化社会対策基本法や次世代育成支援対策推進法が登場する.施策は保育中心で財源は少なかった.
- 第二期は2005年,出生率の低下が続き2005年には1.26まで落ち込んだ.子どもと家族を応援する日本重点戦略では財政措置の検討もされるも短命政権で迷走したあげく,子ども手当が政争の具にされた.
- 第三期は2015年から現在.子ども子育て支援新制度がスタートして少子化対策では初めて恒久的財源が投入された.保育園落ちた 日本死ねというブログの書き込みから待機児童問題が顕在化した.
- 司令塔の不在が少子化対策を遅らせている要因となっている.そのため方向性が定まらずどの施策も貧弱で効果を出せなかった.
- フランスなどの少子化対策の先進地ではGDPの3%程度の財源を子育て支援に回している(日本は1.8%).そして少子化の改善ではなく,親子の健康や幸福の実現を目標としていること.そして,政策のモニタリングと修正を行っていることである.
その他,インタビューなどでは,労働時間の短縮で子どもと一緒の時間を作ることの大切さ.特に父親が子育てに参加するには遅くまで働くのではなく夕方帰ってきてキャッチボールをしたり,サイクリングに行ったりと趣味を共有することが大事だという.また生活空間がだんだんと人工的になり自然との接点が少なくなってきた→子どもの育ちに悪いとか.