2020.5
居住支援のこれから
居住支援の現状と実践に向けた視点(白川泰之)
- 介護保険法の地域支援事業の一つである「高齢者の安心な住まいの確保に資する事業」,障害者総合支援法における「自立生活援助」の新設,生活困窮者自立支援法における地域居住支援事業の法定化
- 住宅政策では,低所得者や高齢者等に対する住宅確保要配慮者に対する賃貸住宅の供給促進など「住宅セーフティネット法」の改正により,配慮者を拒まない賃貸住宅の登録制度,登録住宅の改修費や家賃の軽減への補助,居住支援の事業を行う居住支援法人制度の三つの柱が創設された.
- 居住支援は,一つに,住宅の確保と暮らしの支援がワンセットで支援すること.二つ目に,地域で生活していくために家主支援と地域で継続できるための支援.三つ目に,具体的な支援内容の視点である.
- しかし,形は作ったが連携と支援は進んでいないのが実態でもある.相談支援の職員と行政職員の意識のズレ,居住支援の実施によって寝た子を起こすこと,すなわち余計な仕事が増えるという考えがある.問題が顕在化していないのになぜ金と労力を投入するのかと.しかし,どうしようも無くなる前に介入した方が良いのではないか.
- 住宅行政は都道府県が中心であったり,市町村は公営住宅オーナー業以外の住宅政策を採っていなかったりする.また,住宅確保要配慮者居住支援協議会も都道府県単位がほとんどであり,基礎自治体での実施には至っていない.
- 2020年に無料低額宿泊所の規制強化や日常生活支援住居施設の創設と言った貧困ビジネス対策が施行されている.なぜ貧困ビジネスがなくならないのか.答えは簡単で,根強いニーズがあるからである.
- 顔の見える関係づくり,不動産業者,行政,相談事業所がタッグを組んで取り組む必要がある.居住支援は新たな連携ではなく,むしろ原点回帰である.
無料低額宿泊所の規制強化と日常生活支援住居施設の何が問題か(高橋紘士)
- 社会福祉『住居』施設の概念が社会福祉法に導入され,生活保護受給者が利用する質が担保された日常生活支援住居施設を第2種社会福祉事業としての無料低額宿泊所から派生させ,生活支援付きの「住居」を社会福祉施設として再編成し,無料低額宿泊所の規制強化を図るという制度改正が2020年4月から施行されていることについて.そもそも社会福祉住居施設なるモノはこれまで無かったし,日常生活支援住居と施設は日本語の用法としてもおかしい.
- 2018年の社会福祉法の改正により,市町村や社会福祉法人が社会福祉住居施設を設置し,第2種社会福祉事業として開始するときは,都道府県に事後申請で良いが,それ以外は事前申請となっている.
- この社会福祉住居施設は要するに申請された無料低額宿泊所であり,事実上,無料低額宿泊所を第2種社会福祉事業として見なしたものである.そのさらに良質な無料低額宿泊所を日常生活支援住居施設と認定し,一定の補助を行えるようにしているに過ぎない.
- そもそも無料低額宿泊所は慈善事業の時代からあり,戦後もあった.しかし,2000年代になって急増することになる.それは貧困ビジネスであり,行政もそれに変わる社会資源がないため必要悪として使っていた.新たな貧困に対応する社会資源やシステムがないことがこうした貧困ビジネスをはびこらせてしまっている.
- 理想論を言えば,国土交通省が所管する住宅確保要配慮者のためのセーフティネット住宅に,居住支援法人の生活支援を前提として,生活保護受給者が分け隔て無く居住できるような環境を整えることを住宅政策と福祉政策の連携および,地方自治体の責務として実現させ,ケアインプレイスを保障する普遍的システムの構築を目指すべきである.
- そのために住宅扶助の単給化の制度改革を突破口とする家賃補助制度の導入,また,居住支援法人が実施する生活支援の費用の社会的負担の仕組みの創設などが必要である.