2017.4
災害に備える,地域ネットワークづくり

*論説 リスク社会の課題ー東日本大震災以降,私たちに突きつけられたもの

日本社会では従来大きな自然災害が起こる度に組織的な防災体制の見直しや整備が行われ,ここの生活の心構えなどの必要性が繰り返し強調されてきた.しかし,今回の東日本大震災では,災害をどう受け止め,災害と向き合うのかに関わる私たちの日常的な態度や意識の変化があった.
その質の変化の一つに,規模の想定外,被災地の復興や自立支援に関わる中長期的な視野に立った課題,原発事故に関わる直接的な対応,新たな観点からの日常的な防災や危機管理の見直し,規模が大きく長期的な視野を求められる支援のあり方,大局的な視点に立った日常生活への問い直しであった.言うならば,これまで自然の驚異に対してそれなりに対処できていたとする認識が,制御不能であり答えは無い中で生きているという不確実な有り様が露呈した.
リスク社会とは不確実性,不安,不安定さと向き合い続けることを強いるものであり,また,自助,自己決定することを迫るものである.それはあらゆるリスクは他人事では済まされない社会を意味する.そのためには個々人の情報リテラシーの向上や自己責任をより引き受けないといけないことを意味する.
そのためには

  1. 災害をめぐる経験・記憶・知恵・思いを記録化し未来への教訓とする.それはネットやSNSなどを利用して広く全ての人がどこからでもアクセスできる状況を作ること.
  2. 災害経験を一過性のものとするのでは無く,日常的に問い直す機会を設けること.
  3. 生涯にわたり誰もが自らの生命と安心安全を自分で守れる力をつけることである.一人ひとりのエンパワメントが要請される.障害者や高齢者の自立支援やネットワークの構築をする.
  4. 3のようなニーズを具体化できる拠点や人材,日常的に学び合う関係性を作ること.

このようにリスク社会においては,顔の見えるネットワークづくりや災害に対するリテラシーを向上させ,一人ひとりの意識を一段引き上げていく必要がある.

座談会 地域のネットワークを広げるには
地域の自立を図るために外からの力を入れるデメリットとメリットをしっかりと見極めないと行けなかったが,それがうまくいかなかった.例えば,避難所で身を寄せ合って生活していた被災者,それぞれが役割持ちやっていたことを,ボランティが全て担い,住民の力を削いでしまった.そして勝手にボランティアはいなくなってしまって無責任だと思ったなど.また人口減少や高齢化により,小さな地域のコミュニティが被災により崩壊し,若い人は職を求めて町に移動し,地元に戻らなくなっている.
青森市も31万人から29万人まで人口が減り,また福祉系養成校の学生も減少し,社会福祉法人に就職する人が市内全域で数十人しかいない.地域での元気な高齢者を利用したコミュニティづくりに力を入れているものの,近年はマンションなどで住むひとり暮らしの老人が増え,孤立傾向が強まっている.
震災当時は,近隣住民で助け合っていて,むしろ社会福祉協議会が介入するときには遅きに逸した感じがあった.
近所の助け合いはその当時あったが普段,地域に潜在する要援護者や高齢者の情報をどのように集めるかは非常に難しい問題となっている.民生委員などが地道に地域に回って居場所と情報を集めている.
福祉施設としても,相談しやすい場所,一般住民が立ち寄ることが出来る場所として普段からの交流を通じて行っているとのこと.それにとどまらず,個々人としても普段からどこかに所属したり,居場所を作ったりして気にかけてもらえる関係性を作っておくことが重要である.ただ,都会だとそうもいかない場合もある.被災した地域の課題を解決するために対策を練ることは大事であるが対症療法でしかなく,本当の地域福祉とは住民達が支え合って活動できる地域を作ることである.自分たちで考え,役割を分担して行くことを通じて被災からの自立が図れ,主体性を育てることになっていく.
被災から学んでいることとして,災害救助にかかる各種法律の成立,また仮設住宅に入居されている人たちのコミュニティ形成への視点が醸成されていること.それは住民主体へのコーディネートが社協に根付いていること.また,災害に遭ったら人任せにせず,自分の力でまずは安全な場所に移動することを優先することを今回の震災で学んだことである.あるいは,地域の住民でしか出来ない役割や外部の支援に頼ってはいけないことがあることを共通認識すること.

災害ソーシャルワークとDWATの期待(原田正樹)
福祉関係者は災害に対して何が出来るのかについて.DWATとは災害派遣福祉チームを指す.社会福祉系の学会では災害福祉を一つの中核キーワードにしてアーカイブを開設している.また災害ソーシャルワークについての入門書や報告書などが作成もされている.また社会福祉士としての災害への関わりようについて整理もされている.
災害ソーシャルワークの介入段階として,1.災害前段階,2.救出避難段階,3.避難聖女生活段階,4.仮設住宅生活段階,5.復興住宅・自宅再建段階があり,それぞれのステージによってニーズや介入の仕方が違うことが整理されている.
DWATの役割として,医療チーム(DMATやJMAT)と同行することで,医療につなげる,あるいは罹災証明や各種証明書の取り方や障害のある人やボランティアの支援者など,行政サービスや医療に結びつかない不安や生活上のことなどに対処することが出来る.医療チームが引き上げてからがDWATの出番である.とはいえ,初期段階から関わることで,どこに相談すれば良いのかという信頼性の向上につながる.

2017/8/17

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