2012.4
虐待から子どもを護るために(親権停止の意義)

親権,子ども虐待,ソーシャルワーク(山本恒雄)
子どもの養育における親の権利・権限は子どもの最善の利益のためにあるということが民法で明記されようとしている.大陸法的な考えでは,子どもが社会や一族にとって重大な危険や災厄をもたらすと認めた場合,親は例え子どもの命を奪ってまで社会に対する責任を果たさないといけないという掟があり,社会における子どもの最善の利益の優位性は歴史的に見れば必ずしも以前から確立してきたことではない.
子殺しの問題は単に虐待問題としてくくれないが,現代日本においては虐待や不適切な養育により死に至る自体が繰り返されてきている.子どもの虐待問題は本来その利益が共通・共有であるはずの親子関係が,養育者が子どもの安全を保障できなくなったとき,どうすればその子の安全と利益を守れるのかという問いからはじまっている.
児童福祉のソーシャルワークもまた,申請主義,あるいは自発的な相談者への問題解決を主とする.相談者と支援者の最善の利益を目指して行われるのが通例である.また児童福祉ソーシャルワークの価値基準には,保護者の利益と子どもの最善の利益の保障は一体であることというものがあり,従来は親権への介入は例外的・緊急避難的なモノであったが,それが本務として虐待対応を行うことになってしまった.よって基本的価値体系である,最終的には保護者と子どもの利益の一体化には適応できない結果をもたらしている.

親権停止制度(吉田恒雄)
2011年5月に成立した児童虐待に関する民法・児童福祉法の改正は,親権,とりわけ児童虐待への対応に必要な法制度の整備を目的とする法改正である.これまでは虐待親への初期介入,強制介入に重点を置いた改正がされてきたが,今回の改正は一時保護,施設入所などの措置がとられた子どもをめぐる親権者・後見人と児童福祉施設丁,児童相談所長の権限関係を明らかにすることが主たる目的である.
これまで親権喪失制度があったがこれは,親権が永久的に喪失することを意味し,よっぽどのことでは無い限り適用されず,児童福祉の分野では積極的に使われてこなかった.また施設を退所した子どもがアパートの賃貸契約の時に親権者が正当な理由無く契約に同意しないなど子どもの自立の支援の妨げになっていた.そのため,親子の再統合や子ども自立支援の観点から必要な期間のみ親権を制限する親権停止の制度が設けられた.
親権喪失は喪失した原因が消失したと認められ,家裁が取り消せば復活するが,停止は2年で自動的に消失する(再停止も可能).
その他,子どもが財産を持っている場合,親権停止や喪失の制度中に財産の管理を行う未成年後見人制度の利用,児童福祉施設長の権限の強化などが記載されている.具体的には施設長(児童相談所長含む)がとる措置に対して親権者は不当に妨げてはならないとする条文が追加されている.ただ施設長の措置に対しては浄土福祉審議会に報告する義務がアリ,その判断を求める場面もあり得る.

親権改正と児童養護施設(桑原教修)
親権停止をめぐる運用に対する提言を行っている.また親権停止に関しては,かなり慎重に,また個別性を十分に配慮しないといけないこと.また停止の運用に関しては,児童相談所運営指針やガイドラインが用意されているが,里親やファミリーホームなどと良く協議し合って詰めていく必要があると提言.

虐待から子どもを護る(宮島清)
児童虐待防止法が施行されてから児童福祉士の配置人数は二倍になったが,通告義務などが活用されるようになると,その相談件数は増えて,児童相談所はその対応で疲弊していること.また安全確認も形式的に行う場合もあり,虐待を過小評価するケースも散在している.本当に開くべきは家屋の扉では無く,支援者の判断の扉であり,当事者の心の扉である.緊急珠里会議もケースの進行管理も扱う件数が多すぎて機能していない.その他,あらゆる機能が不全状態になっていることを論じている.提言として,全国に600ある児童養護施設にソーシャルワークとしての機能を持たせ,一部を委託するようにでも無いと裁ききれないこと.

日常の生活の中で里親が望む親権制度(星野祟)
里親が困っていることとして,実子では無いが故に,契約で例えばDVDのレンタルカードが作れない,自動車賠償保険では里子は家族待遇の扱いに入れてもらえない,予防接種では実親の承諾が必要,特に特別支援教育に関しては実親の意見が強い.養育を里親に任せながら,子どもに事故があると実親が損害賠償を里親に請求する.知的障害児が十八歳以上になったとき,子どもの収入を当てにしたり生活保護加算要員として受け入れる人もいる.今回の法改正で親権者や未成年後見人が施設長や里親などのとる措置を不当に妨げてはならないという規定が設けられたのは大きなことである.

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