2008.1
子どもの権利を守る

論文
柏女霊峰「子どもの権利を保障するための視点」
 つながりの喪失や倫理観の欠如など子供を産み育てにくい社会をもたらしている。いじめ、虐待、有害なチラシ、遊び場の不足、性的被害など…また凶悪犯罪、里親や施設で暮らす子供が4万人、バーチャル世界の拡充とともに生きた経験の乏しさも目立つ。
 こうした中で政府は矢継ぎ早に子供期における施策を打ち出している。そこで子供期をどうとらえるのか。生物的でもあるがこの概念は極めて社会的なものであり、ことに子供の自立とは何かを措定する必要がある。子供期とは未自立であること、社会的認知としても自立の地位を与えられていないと捉えられている。そして、監護性、発達性、専門性、代弁性、保護性によって子どもの権利は守られていることを概説している。来られの権利保障を踏まえ子ども家庭福祉の原理は、子供の権利保障と子育て家庭支援、社会連帯を原理として進めていくことの必要性を述べている。そのうえで、これらの権利などを順守させるのは社会全体であるとする子育ての社会化をうたっている。

若穂井透「少年法の改正と児童福祉の課題」
 端的に、少年法の厳罰化の詳細である。2000年の少年法改正では、犯罪少年に対する原則逆送制度が導入され、殺人などの重大事件を犯した16歳以上の犯罪少年に対して従来の保護処分優先主義を見直し、刑罰優先主義へと転換した。そして2007年の法改正では、14歳未満でも、警察の介入が合法化され、児童福祉優先主義が見直された。少年院送致の下限年齢が引き下げられ、さらに遵守事項違反を繰り返す保護観察少年に対する制裁として少年院送致が容認された。
 児童自立支援施設と少年院の違いは、前者が家庭的な育てなおしで開放的、後者が多元的な処遇プログラムによる矯正教育で閉鎖的である。前者が求められるのは医療少年院に準ずる児童精神医療的な支援機能の拡充である。
 その他児童相談所と家庭裁判所の関係などについて概説している。

川崎二三彦「児童虐待の実態と対応の動向」
 虐待の相談件数や通告件数はすでに4万件を突破しており、しかも死亡事例123件のうち関係機関が全く接点を持っていなかったのが33件…全体の約27%を占めている。つまり死亡までに至る重大な児童虐待事案の4分の1以上が関係機関に届けられていないのだから、数字に表れた件数は氷山の一角と考えるべきである。
 児童虐待防止法改正のついての解説。2000年に成立、2004年に改正、そして2008年に新たな改正下で施行される。今回の改正で児童相談所の機能強化がされ、簡単に言えば、許可状の発令があれば、鍵を壊しても家屋に入ることが可能になった。また児童福祉法との関連で施設に強制入所させた子供への特に必要と認められるときには6ヶ月を超えない程度の接近禁止令(都道府県知事名)ができる。とはいえ、その対応は現場では非常に大変であることなどが描かれている。

山縣文治「子どもの権利擁護・権利保障と児童福祉施設」
 日本が児童の権利に関する条約を批准して15年…子どもの権利を守るとは子供の育てられる権利と育つ権利を年齢に応じて擁護・保障することでもある。中でも受動的権利がもっとも重要で、施設での生活が安全で安心できるものであること、またそれぞれが置かれてきた状況にふさわしいケアを受けることである。逆の能動的権利とは、子供が十分に意思を表明できるかおとである。そして地域で生活するためのサポート体制の充実である。専門職としては、個別ケアや役割に添った専門技能の発揮、アドボケート、利用者主体、地域福祉の拠点「ネットワーク」、最後に倫理性である。

 このほかレポートで、里親支援の現状と課題、児童福祉施設の取り組み、自治体での児童相談所の相談支援強化、児童虐待再発防止の取り組み、児童家庭支援センターの地域協働であった。
 資料として、児童相談所における児童虐待対応件数などに関する統計が添付されている。
(2012/11/24)

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