2002.10
『クライマックス!アジア太平洋障害者の十年』
【基調論文】アジア太平洋障害者の十年最終年を迎えて
そもそも十年は、1992年に北京で開かれたESCAP総会において、日本を含む33カ国から共同提案され、満場一致で決議されたものである。1975年の国連における採択−「障害者の権利に関する宣言」に基づく。1981年「国際障害者年」のメインテーマである、障害者の「完全参加と平等」を実現するために作られた「障害者に関する世界行動計画」(1982年国連)の実施状況がアジアではまだまだ不十分であることから、その実施期間である「国連・障害者の10年」(1983から1992年)以降もアジアにおいてさらに引き続きとり組むことを意図してもの。ESCAPでは、10年でとり組むべき行動課題として12の施策領域、−国内調整、法制、情報、国民の啓発、アクセシビリティとコミュニケーション、教育、訓練と雇用、障害原因の予防、リハビリ、福祉機器、自助組織、地域協力−を承認している。ESCAPでは、2年ごとの総会、また、年二回の部会などを開き、進捗状況などの確認を行っている。今年で、採択され10年が経つが、さらに10年の延長を全会一致で採択された(延長会議)。また、ESCAPは順次参加国が増え、小国や地域によってばらつきが見られるが、かなりの前進が見られたのは、国内調整と法制である。ある程度の改善が見られたのは、障害原因の予防、リハビリ、建設環境へのアクセス並びに自助組織作りである。そのうちリハビリはCBSコミュニティに根ざしたリハビリ−コミュニティのなかで入手可能な人的・物的資源を活用して、ベーシックな各種リハビリを障害者に提供する方式がかなりの国で取り入れられている。CBSは、いまや福祉−医療の面だけではなく、コミュニティ開発の枠組みに統合する戦略とされる。一方、達成状況がきわめて低く、懸念される領域として、
- 障害に関する総合的なデータが欠如していること
- 障害児の就学率がきわめて低いこと
- 貧困を強いられている障害者が多いこと
- 行動課題の実施について小地域間で著しい格差があることなど
ESCAPの延長会議に大きな影響を及ぼしたのが、2001年の国連での「障害者権利条約」が決議への運動が高まったことである。1993年の「障害者の機会均等化に関する標準規約」を強化するものである。
これからの10年での取り組みとして、ESCAP事務局から示された「行動枠組み」によると
- 行動の優先領域として、障害者の自助組織、女性障害者、早期介入と教育、訓練と自営を含む雇用、建築環境へのアクセス、情報コミュニケーション・テクノロジー(ICT)、社会保障および整形プログラムを通した貧困の削減を挙げている。
- 行動枠組みの目標を達成するための戦略として、障害者に関する国内行動計画の策定、障害問題への権利に基づくアプローチの促進、障害統計・計画化のための共通定義、障害原因の予防・リハビリ及び障害者の機会均等化のための地域開発アプローチの強化
- 行動枠組みの実施に当たっての協力と支援について、小地域協力・連携、地域間協力、
- モニタリング、評価のため、地域及び小地域会合の組織化、地域作業グループ、中間評価
【論文】わが国の障害者施策の十年を振り返る
ほとんどが、前述の論文に沿った日本の対応と言うことで理解できる。障害者基本法が平成5年にできたり、障害者年の延長に沿って、2002年に新障害者プランが作成されたりである。また、ESCAの今後のとり組みにちなんで、厚生行政の再編と3障害への取り組みが為されたり1996年に障害保健福祉部が創設され、それまで身体障害は社会・援護局更生課、障害児および知的障害者については児童家庭局障害福祉課、精神障害については保健医療局精神保健課と3局3課にまたがっていた。それが1部3課にまとまり総合的に見ることが出来るようになる。
さらに欠格条例についても見直しが為されるようになり、1999年には見直しの促進を図るために、障害者施策推進本部において見直しの対処方針「障害者に係わる欠格条項の見直しについて」を決定し、63制度がその対象とされた。検討の結果、2001年に「障害者に係わる欠格事由の適正化を図るための医師法などの一部を改正する法律」が成立し、これまで絶対的欠格とされていたものが相対的欠格に改められ、20数種の資格が「心身の障害によりその業務を適正に行うことが出来ない」場合に欠格事由に該当されるとされた。
以下、3障害についての論文
身体障害に関しては、身体障害の政治家などが進出し、権利と義務または障害者に対する理解度も飛躍的に認知されることが出来た10年であること、その中でいくつかの提言があり、
- 扶養義務制度の廃止〜個人単位でみながらも地域、環境の改善のための法制化〜その反面、扶養者への優遇措置などの廃止を含む。
- 障害者に対する差別禁止法の制定〜日本ではこの分野は立ち後れているとされている。
- 生活保護にすぐに陥るのではなく、しっかりとした年金制度の確立。所得保障は長年の課題であること。
知的障害に関しては、いかに排除してきたのか。そして歩み寄ったのかを考察している。しかしながら、法律的には2000年に知的障害者福祉法が成立するが、定義がない。また障害の細分化〜注意欠陥多動性障害などには対応していない。在宅者の実数が把握されていない。など課題が多い。縦割りによるライフステージの生きづらさ。障害のある人の生活に恩恵を及ぼしていないのは、草の根運動への資金を提供することがないからである。地域社会へを、単に財政状況の悪化を乗り切る方便にしてはならない。個人を尊重し、様々な暮らしを柔軟に対応できる姿勢を養う方策は、「排除」されてきた人が「地域社会」に暮らすなかで明らかになってくるだろう。なぜなら「排除」の側であった故に「排除」を認識する機会に恵まれなかった人たちが認識する場所はそこにしかないのである。
レポートとしてこの十年の総括と展望について語られているが、その中で、精神障害者について、
- 2003年に策定される「新・障害者基本計画」「新・障害者プラン」への提言のなかで、入所施設と精神病院の入所者を着実に減らすための数値目標を設定する。
- そのための戦略としては、支援費制度における指定施設要件と連動して各入所施設における地域生活移行計画の数値目標を明確にする。
- その数値目標に見合った地域生活の場としてのグループホームなどの数値目標を明確にする。
- 在宅障害者の予想数を明確にする。
- 社会的入院といわれる精神病院の入所者に対し、地域生活支援生活移行の数値目標を明確にする。
- 地域生活移行計画に見合った費用の明確化
- 親などの同居よりもインセンティブを高める〜家賃補助制度など
- 政策的な展開を行う。
ざっと書き込んでみたが、現在の障害者福祉ははじまったばかりと言えそうである。しかしながら、身体障害者についてはそれなりにリハビリテーションを軸にしてかなり進歩してきたのではないだろうか。ノーマライゼーション、普遍化といよりも障害に関しては、リハビリを軸に地域生活に移行したらよいのではないかというのは私の持論であるが、いかがだろう。しかしながら、今回のアジア太平洋障害者の十年は国際的な動きに沿って日本が進められていることを知ることが出来て面白かった。