2000.1
経済社会における社会福祉の位置

座談会

経済社会における社会福祉を考える
90年代は福祉改革が目白押しであった。国際的にも、スエーデン、ドイツ、イギリス、アメリカなど要諦は、小さな政府を目指した規制緩和がいわゆるグローバルスタンダードになった。福祉は、いわゆるセーフティネットとして、計量化されない重要性を持ち、経済社会の基盤を支えるものである。社会保障費はGNPの3.6%を占め、就業者は土建屋の次に当たる436人であり、大規模であり、生産や経済波及に大きな力を有している。しかし、再生産という面では見えにくいものである。マクロにおいては、社会福祉の重要さは誰しも肯定するところであるが、マンパワーの重要さを持ち上げながら、労働条件の劣悪さは目を覆うばかりである。労働条件は福祉サービスの質を左右すると言いながら…。根底には、福祉は非効率であるという見方が大勢を占めているが、経済波及効果は、他の業種に比べて高く、むしろ経済的に効果のあるものである。社会福祉予算は3兆円であるがすべて社会に還元される効率の良いものである。
そもそも社会福祉法人は、免許制度(規制)と税の優遇措置(補助)が両立している分野であり、その意義に立ち返り、質や安定を図るためにいかにするべきかを考えるべきである。よって、民間企業だからとか社会福祉法人だからという議論は適当ではない。
また社会福祉の評価基準が市場原理のものではなく、コンセンサスが形成されていない。これは人件費の高さが非効率に見えることと同一であり、労働集約的な要素の強い社会福祉にあって人件費を削るとかというよりも、いかに質の良いものを提供しているのかという満足度に関する評価も十分に備わっていない。しかも、利潤が生み出された場合の経営拡大〜多様な社会資源の創設に関して現在縛りがきつくはないが…市場原理では出資者に還元するものがない。そうしたものを含めて事業運営に再投資するという経営のビジョンが必要になる。
介護保険について…この記事を書いているのが2004年であることを念頭に感想を述べると…行政の責任は縮小し、市町村での赤字経営が叫ばれ、介護保険の予防の面が強調され、介護度1の人に対する給付の削減が現実的になっている。さらに負担の覚悟もしなければいけなくなった。規制の在り方や補助の在り方、効率性に終始している座談会であった。しかし、先に述べたように、経済効果やそれによる雇用の増大が比較的容易なのが福祉分野である。しかし最近は、不定期就労(パート)の増大による人件費の削減が、正規職員の雇用状況を流動化していること。手当などが大幅に削減されていることなどが問題になっている。いわゆる労働の安売りが拡大しているのである。このことについては、別の話である。

総括論文

広井良典「経済社会における社会福祉のグランドデザイン」
グランドデザインなどと大きな見出しであるが、普遍主義における経済効果の導入。医療や福祉に対する疑似市場の形成〜それによる財政面の責任の縮小を狙ったものである。それでもいくつかの示唆のある提言が為されており、

  1. 「供給主体の条件の均等」財政(公的)なものと供給(私・民間)の関係では、財政が公的なものであるから私への投下の際は、均等の競争条件(企業、法人関わらず)が必要であること。さらに、良質のサービスを行うもの(供給主体)に対する費用効果を見る視点が必要になる。
  2. サービスの評価が利用者がしやすい分野であること。よって、消費者自身が直接的な評価が繁栄されるようなシステムが必要であること。

論文1

小島克久「社会福祉の経済効果

先に述べた福祉の分野は経済波及効果が良いことを資料を基に詳細に述べていること。ただし、給与に関する資料や非営利団体の窮乏に関しては言及していない。

論文3

駒村康平「社会福祉への市場原理導入の考え方について」
労働賃金について、充分な介護サービスの供給には福祉の仕事が魅力的でなければならず、介護労働者の待遇改善は重要である。介護労働者の賃金は介護報酬に制約され、介護報酬が抑えられると介護労働者の賃金も抑えられる可能性があるが、介護サービスに対する国民の高い評価が賃金に反映される必要がある。
また、福祉法人は初期資本投資の4分の1は設置者による寄付に賄われている。減価償却、投資コストの調達は措置費の中では考慮されていない。このことは、論文4小室豊允「社会福祉法人のこれからの福祉経営」の中で、新しい会計基準で収支計算書、貸借対照表から損益計算書になること。減価償却制度の導入。さらに会計システムが準則から基準に変更になっている。この辺は、事務職ではないので、よく分からないが徐々に変化していると言える。

感想
月刊福祉にしては、多様な視点で述べられており、やや難易度が高い内容であろう。私は、伊藤周平『社会福祉のゆくえを読む』大月書店の提言を指示する。つまり、社会福祉が今後必要でなら労働条件の引き上げと社会福祉の対する財政面での優遇措置が必要である。不況になると真っ先に削られるのが社会保障費である。また、福祉サービスとは、水と空気のように誰もが出来ることであり、ただで手にはいるとでも思っているのだろうか。ボランティアは良い行いであるが、福祉に対して安く見られるということもないだろうか。いずれにしろ、福祉の拡充は財源の拡充が伴わないと行けないし、縮小するにしてもどうして縮小するのか、それに対する保障が別途であるのか明確な説明責任は政府にあると言える。(2004.6.2)

参考資料として拙稿として
  1. 社会政策における「日本的公私関係」について
  2. 1980年代に福祉三審議会合同企画分科会を中心として推進され、最終的には「福祉八法改正」に帰着した社会福祉改革の第1期と、1990年代の社会福祉基礎構造改革を経て社会福祉法に成果を見た社会福祉改革の第2期について
  3. 社会福祉法人について
  4. わが国の社会保障制度について
  5. 普遍主義について

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