1999.2
福祉教育・福祉体験をすすめる

冒頭で有意な発言がある。
現在、老人福祉施設には実習生が溢れている。…中略、いずれにしろ年間を通じて相当数の実習生が通り過ぎていく。
このように施設は、実習生かの質的なものについては、まだまだ多くの課題を抱えているものの、量的成果については相当貢献している。
ところが量の程度を越すと施設機能に大きな影響を及ぼし、その影響は直接利用者におよぶことになる。施設関係者がバランスの取れた実習生の受け入れを図らなければ利用者の犠牲の上に立った実習になってしまう。…中略
さて福祉体験の及ぼす教育効果は極めて大きい。それは福祉現場での実感である。多くの実習生は、観念や抽象ではなく生の実態に触れることで、新たな感性を発見したり、深く掘り下げてものを考えるきっかけを掴んだりする。また逆に福祉に抱いた夢を壊されたり、多くの深刻な問題を目の前にして押しつぶされそうになったりもする。
こうした経験が間違いなく彼らを成長させる。そして、その成長を一番敏感に捉えているのは利用者である。

上記のことにこの特集の言いたいことがほぼ含まれている。以下、有意と思われる言説のみを拾っていく。

  1. (対談)そもそも福祉教育・福祉体験が重視される背景は、福祉の基礎構造改革、地域福祉計画の必要性からきている。地域福祉計画は、統合的(医療・保健・福祉)な視点で、他の施策(交通・教育・就労)との連携を必要とする。そのため計画をになう地域住民(主に若者)の成長が重要である。そのため、福祉教育は必要である。また生涯学習の一環である。
  2. (対談)学校教育では、ボランティアの普及事業があるが、学外の施設を利用するとか、自由で主体的な取り組みは行われていないのが現状。学校信仰のもとで完結している。
  3. (鼎談)福祉体験は、体験の喪失からの復権である。体験を通して外界の事物や事象を感覚で認識し、それを概念化して知的に認識し直す。体験は、知識を実践の中で組み直す第一歩である。
  4. (鼎談)生活問題、問いを立てる力を身につける。生きる力、主体性がキーワードとなっている。
  5. (鼎談)実施する際は、ボランティアをイデオロギーとして使用せずに、あくまでも学習の手段として使用するのが望ましい。
  6. 受け入れ先などには負担があるが、長い目でこれが子供の教育に関わり、社会全体を返る力になることを理解してほしい…体験学習などは体系化されておらず、自発性などに問題があるが。
  7. (論文)社会福祉と教育の接近について…「社会福祉は教育に「社会性」を与え、教育は社会福祉に「教育性」を与えてきた。しかしそれよりも私は社会福祉が教育に流れ込むことによって「社会性」を捨て去った戦時中の経験や、教育が社会福祉によって「慈恵性」を付与されてきた日本の実態に注目したい」と指摘されている。つまり、福祉教育実践の目的が不明確なまま、福祉を学ぶことは「善いこと」として無批判にすべてを受け入れていく事への警告である。
  8. (論文)福祉教育に置いて外在的な社会制度の欠陥を指摘する場合、自分の内面的な偏見や人間観を自己批判することなしに、あるいは内面的文化を問うことなしに、単なる同情心をよりどころに従い外面的福祉であったならば、それは実現すればするほど福祉サービスの対象者を一般社会から疎外する結果となり、福祉教育のもの的は自己矛盾に陥らざるを得ないであろう。
  9. 疑似体験(例えば、視覚障害を体験するためにアイマスクをかけて歩行するとか)は、生活感や生活に結びついた困難の克服の視点が抜け落ちやすい。
  10. (実践3)受け入れる際のメリットとして、開かれた施設に貢献する意義、施設の専門的役割・機能を啓発すること。
*論文:原田正樹「福祉教育プログラムの構造とその実践的課題」
*実践3:新崎国広「福祉施設における福祉教育・福祉体験の意義と課題」

特に、7の視点は有意である。ボランティア、体験学習、福祉教育、言葉の意味は違っても、ではどのように取り組むべきなのか。そうした吟味なしに施設は、無条件に受け入れてきたのではないか。その時、6の視点のように結構安易に考えられていたのではないか。また、10のようなメリットはあまり感じることはない。専門的機能の啓発は施設側のメリットではなく、学生側が学習として得られるメリットである。開かれた施設に貢献…なんですか。また、労働の一環として活用している視点もあり…いかがなものかと。
とはいえ、体験や実習を通して、自分の仕事としてやっていけるのかという考察にはなりうるし、はじめに書いたようにとっかかりになる。施設には何もメリットはないが、学生にとってはメリットが大である。もし施設にメリットがあるとすれば、実習をきっかけにして福祉業界に興味と熱意を持った人が育つかもしれないという期待だけである。しかし、実はそれが何よりなのかもしれない。

ホームインデックス