筆者=杉野 保
掲載=『Free Fan』No.30(2000年9月)
 
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日本版アクセス・ファンドの可能性

軍艦岩の入口

 かいつまんで紹介してきたが、これだけでも、だいぶアクセス・ファンドを理解していただけたかと思う。
 ここには書かなかったが、アクセス・ファンドは、ほかにもファルコンなど野生動物の保護とクライミングの共存、ネイティヴアメリカンにとって神聖とされる場所でのクライミング、USフォレスト・サービスの管理する原野(ウィルダネス)における固定アンカーの問題、などおよそ考えられる諸問題解決についてすべて明確な指針を示している。
 しかし、今回鳳来で問題となったような糞尿処理の問題についてはどこにも記述がなかった。
 あまりにも一般常識で対処できることだからなのだろうが、大体アメリカではそんなことが問題になることもないのだろう。トポには糞尿処理に関してのガイドラインが細かに書かれているし、みなそれを神経質なくらいに守っている。
 糞尿問題に関しては、この号で多く語られるだろうから、ここでは今後各エリアで問題になる可能性の高い「ボルト設置」に関して一言。
 岩場に打たれるボルトは、クライマー以外の人にとっては、岩に打ち付けられたただの怪しい「異物」にすぎない。とはいってもクライマーにはやはり必要な物でもあり、だったら目立たなくするのがクライマー側にできるせめてもの「ミニマムインパクト」である。アクセス・ファンドもこの点ははっきりと「カモフラージュすべきである」と述べているし、実際アメリカには、色が同じすぎてどこにボルトがあるのか下からではまったく分からないエリアも多い。(いい意味で)

 それに比べて日本はどうだろうか。
 小川山を例にあげれば、ご親切に各ルートのハンガーの色を変えてあるサイコロ岩、数も過剰だからただでさえ目に付くというのに、紫や赤(だったかな?)のハンガーを見たときはため息が出た。いったいこのボルトを打った人は、日本にはクライマーしかいないとでも思っているのだろうか。
 そして、フェニックスの大岩に最近打たれたボルトラダー。10数年前に(20年前かも)ナチュラルで登られたラインに、これまたよく目立つピカピカのハンガーが並んでいる。だいたい、ここはそれ以外のラインも一般の人の目にふれるからと、ボルト設置は遠慮していたところだ。真意はわからないが、自分が登るためにわざわざ打ったとは思えない。
 人のために作るルートほど駄作はない。
 話がそれてしまった。
 開拓にはライセンス制度が必要と、なかば冗談で語ったことがあるが、せめてアクセス・ファンドのように明確なボルティングの指針は必要であると思う。オピニオン・リーダーたるメディアのない現在の日本では、その役割は、JFAが担っていくべきだろう。それは同時に、日本版アクセス・ファンドをめざす道でもある。
 アメリカが10年かかってやってきたことを真似するのはすぐには無理であるし、寄付金を募る機構になるなら分離独立するべきであろう。非力ながら現在できることは、鳳来問題にのみならず、岩場の環境保全、支点整備にJFAの予算を有効に役立てていくことだ。そして今JFAとして、あらゆるアクセス問題に関しての確固とした方策を持つことが求められている。

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