甲飛第十三期殉國之碑保存顕彰会

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会報「總員起こし」  第19号/平成 4年

久保 吉輝

奈良空−回天 (光)−轟隊(伊363)−回天多聞隊(伊363)

「生駒白昼夢」

 

此の春、三人の孫のお供をして家内と久し振りに生駒山に登った。

山頂の遊園地で乗り物やゲームの相手をし、昼食を採り、少々の疲れと缶ビールでウトウトしながら飛行塔を眺めている内に、

過ぎ去った五十年前を思い出した。

 

予科練入隊も決った昭和十八年の晩秋の日曜、市岡中学滑空部の連中とお別れハイキングに行こうと、麓の枚岡駅で

大軌電車(近鉄奈良線)を降り、官幣大社枚岡神社で戦勝祈願をして、生駒山頂を目指して登り始めた。

紅葉の中を小鳥のさえずりを聞き、大師の湧水で喉を潤し、旧奈良街道を歩く、途中二、三人の山仕事師風の男以外は

人影を見ない。

教師の悪口をガヤガヤ云っている内に、石畳の暗峠(昔は山賊が出たそうな)に着く。

振りかえれば、石切神社(神武東征軍が先住民族ナガスネヒコ軍の為に本土上陸作戦失敗、兄のイツセノミコト戦死した処)に

つづいて河内平野(当時は河内湾)が広がっていた。

生駒の頂上には飛行塔が見えて来た。遊園地で握り飯をかぶり、河内・大和国境の尾根つたいに、信貴山まで歩き、

朝護孫子寺(信貴山寺)の毘沙門天(多聞天)に参詣したものだった。

奇しくもその翌年七月、山頂遊園地一帯を海軍が押えてしまったのか、子供の賑やかな声も無くなった山頂で、

奈良空十六分隊(陸操)の滑空訓練が行われた。

宿泊した生駒山のケーブル山頂駅横の航空ホテルは、今孫たちと座っているベンチのある辺りであった。

現在は宇宙館とかになっている。

あの時、班長たちはグライダーについては全く無知で、中学時代の経験者数人が助手を勤め、大いに面目を施したものだった。

プライマリー(初級機) で地上滑走から始める筈だのに、指導教員の注意も無視して、班長もみんな面白がって牽引索(ゴム索)を

予定以上にドンドン引っ張る。

止め綱を放すタイミングが合わず急発進する。

ショックで操縦桿を急に引く、急上昇、おまけに山頂の滑空場 (現在は駐車場になっている)のため、大阪湾から吹き上げる

西風(上昇気流)にあおられてタコみたいに舞い上る。

失速したり、あわてて下げ舵をとる。

見事に墜落、地面に激突。

グライダー は破損、本人は負傷、無残な光景があちこちに起る。

半日もしないのに数機が使用不能となり、工作兵はカンカンになっていた。

それでなくても、前に来た連中 (分隊)が壊したままで修理が追いつかない。

テンヤワンヤの一日だった。

夕食後、飛行塔の壁にもたれて、数人と涼風に吹かれながら大阪の夜景(まだ灯火管制はしていなかった)を眺め、

故郷のこと家族のことなど話しあったものだった。

班長(徴兵の青山一曹・別名ねこ)は要領よく石切の家に帰っているのか見当らない。

この班長も奈良でええ目をした後、陸戦隊に転勤、回天に廻された小生と十月初め、呉の境川桟橋でバッタリ会ったのが、

今生の別れとなってしまった。比島へ行くと云っていた。

服装以外は余り変らない楽しい合宿滑空訓練は終った。

 

しかし、その後「運命の丸付け」が行われ、二重丸を書いた小生の運命は、大空から海中へと大きく変化してしまった。

海軍さんの粋な計らいで、紙障子に畳の純和風で、朝のかけ足も、隣の兵舎・教室へ行くにもシャバの道。

畑の中の溜池で伝馬船(和船)を漕いだり、あやめ池遵園地の池でカッター訓練。

生駒の前には橿原神宮の陸上競技場(今もある)でグライダー等々、シャバの空気を充分に吹い込ませて頂いた。

九月には呉経由Q基地(倉橋島の大迫)へ、毎夜蚤に悩まされた上、大和・武蔵の残していったカッターで土空の連中と

競争させられ、「吊床も吊れん、カッターも漕げん、そんな兵隊が何処にあるんジャー」 とたたかれ、怒鳴られ、笑われた。

「何云ってまんねん、あんさんら海軍のご都合で教えんといて、勝手な事云わんといとくなはれ」 と云うたろうと思ったが、

殺されたらあかんので、腹の中で怒鳴った。

然し、ここで土浦の下風にして頂いたお蔭で奈良空出身者は、数倍いるのに搭乗訓練を後廻しにされた為幸か不幸か

回天戦死者は少くて済んだのだった。

小生は、広島ピカドンの翌日に二回目の出撃も母艦伊三六三潜水艦で、アンテナマストと潜望鏡には、信貴山の多聞天の

申し子と云われている大桶公の菊水と非理法権天の二流の職が掲げられていた。隊名も多聞隊と命名された。

そんな事、あんな事共を想い出し、今は林立するテレビアソテナに見下されてるが、五十年前と同じ姿で立っている飛行塔を、

子供らの叫び声を聞き乍ら改めて見上げた。

 

久保 吉輝

更新日:2007/10/13