「べらぼうめ」を筆頭に、江戸前の言葉は罵倒語の宝庫。ばか・たわけ・あほう・まぬけ・うつけ・うんつく・はっつけ・とんま・とんちき・へちむくれ・へったくれ・へげたれ・とうへんぼく・ぼくねんじん・あんぽんたん……、と、このあたりを順列組み合わせでポンポン繰り出すわけです。
「何言ってやんでい、べらぼうめ、はっつけ野郎のうんつくめ、たわけたごたくをならべやがって、このとうへんぼくのコンコンチキ……」。
ただ「バカヤロー」を連発する近頃の喧嘩のなんと語彙の乏しいことよ。
頭に血が上った江戸っ子がどれくらい意識して使い分けていたかは疑問ですが、それぞれの言葉には多少のニュアンスの違いがあります。
「とうへんぼく」は「唐変木・唐偏朴」の字も宛てられますが、語源不詳。まずは男女の機微のわからぬ野暮の意味で「ぼくねんじん(朴念仁)」とほぼ同義。だんだんと道理のわからぬ融通のきかない者、偏屈の意味に変わっていったようです。
「あんぽんたん」は「安本丹」、アホタラを薬の名前にかけたものらしい。こちらは、あほう・たわけ・ばかといったところで、どうやら脳の作用が弱い感じでしょう。
今となっては「とうへんぼく」は褒め言葉にさえ思えてきました。どうもそこいらじゅう「あんぽんたん」が溢れていて、「あんぽんたん」な大統領の「あんぽんたん」の国が「あんぽんたん」を世界に広めようとしている始末。
待望! 「とうへんぼく」。
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