聖林寺より
From Shorin-ji Temple

本堂からは三輪山の美しい姿が見える。十一面観音は三輪山をご神体とする大神神社の神宮寺である大神寺に祀られていたが、明治の廃仏毀釈で捨てられた。
「そこで幾日も幾日も、この気高い観音は、埃にまみれて雑草のなかに横たわっていた。ある日偶然、聖林寺という小さい真宗寺の住職がそこを通りかかって、これはもったいない、誰も拾い手がないのなら拙僧がお守りをいたそう、と言って自分の寺へ運んで行った、というのである。」(和辻哲郎「古寺巡礼」)
私が好きな湖北の渡岸寺の十一面観音さんも同様の憂き目に遭っている。いずれも地域の人々の善意で救われたことになる。
「これを三月堂のような建築のなかに安置して周囲の美しさにつり合わせたならば、あのいきいきとした豊麗さは一層輝いて見えるであろう。」(同)私もそうは思うが、日本中が廃仏毀釈の嵐の中にあったときに観音様を守ったのはこの小さな寺だけだったことを思えば、十一面観音はここの観音堂に心から満足しておられると思う。     次へ